近かったはずのあの頃より
より思いは募って。
■星に願いを■
「あ」
俺は艦の窓の外に広がる星空を見て、思わず声を上げた。
壮大に、神々しく
どこまでも広がる
満天の、星空。
いつもは艦は、地球軍からの干渉からなるだけ逃れるべく
海中に潜っていることが多い。
このように夜とはいえ、海上の光景が窓から見えるなんて珍しい。
ましてや星空なんて、なおさら。
窓に近寄り、より目を凝らす。
どれも誇らしく光り輝き、自分を見下ろしている。
プラントからも勿論星は見えるが、地球から見る星は
また違った荘厳さをかもし出している気がする。
…ここはより、星たちからは遠いはずなのに。
「…アンタレス、ペガスス座…」
目を細め、記憶に残っている星たちの名を一つ一つ上げていく。
言えることを嬉しく思う反面、いつまでもそんなことを覚えている自分に呆れる。
(…そういえば星の名前、あいつと覚えたんだっけ…)
あいつ
大切な幼馴染。
…ディアッカ。
互いの家に泊まり、飽きるまで何度も星の本を読み返し
キャンプなどに行っては、一晩中空を見上げていた。
覚えた星の名をどちらが多く言えるか勝負してみたり
いつでも二人は一緒で
あの星たちように
強く、光を放っていた日々。
まさかその頃はこんなふうに
離れ離れになるなんて、思いもよらなかったけれど。
嫌な感触を振り払うように、俺はかぶりを振ってからもう一度空を見上げる。
そして
目に留まった星。
「…アルタイル」
大きく綺麗に
鷲座に輝く一等星。
その、俗称は
「…『彦星』…」
そういえば、どこかの民族伝承にあった。
『天帝によって引き裂かれた恋人たちが、年に一度だけ天の川を渡って
たった一晩だけ出逢う事ができる』。
確か、その片割れが『彦星』。
そして浮かぶ、その伝承を嬉々として語っていた
彼の顔。
胸が高鳴るのを感じた。
「…願い事を…叶える…か」
大空に横たわる恒星群を見やる。
それに隔てられた二つの星。
遠くへ引き離されてさえ
むしろ引き離されてこそ
互いの存在の大きさに気づき
愛しあい、求め合う、二人。
「…馬鹿馬鹿しい」
自分が感傷的になっていることに気づき、嘆息する。
二つの星を、睨んで呟く。
「望みは、己の力で勝ち取るものだ」
顔を背けて、布団にもぐる。
そうとも、欲しいものは与えて貰うべきではない。
掴み取ることこそが、何よりも大切なのだ。
「…見ていろ」
お前らに叶えてもらわずとも
きっと俺はあいつに逢う。
小さく身じろぎをして深く毛布をかぶる。
きっと明日も戦闘だ。
今のうちに体力を温存しなければならない。
遠くの夢を追いかけるより、目の前のことをこなすことが
まずは一番大事なのだ。
(でも)
眉間に皺が寄っているのを自分でも意識しながら呟く。
「…夢くらいなら…逢ってやってもいい」
そればかりはどうにもならないからな!と誰に言うわけでもなく言い訳をする。
きっとこの台詞を聞いたら
大笑いするだろう幼馴染を思い出しながら。
募る思いを、胸にしまいながら。
俺は深く
眠りに堕ちた。
遠く引き離されても
互いを確かめられなくても
せめてせめて
夢で逢わせて。
END
■イザッカな七夕。
企画のときとは切ったり付け足したりしてあるので少し違ったりします。
ああ早く出会ってくれよ、イザーク。根性見せてください(どんな)
あ、あとそれから
星の名前調べるために
中学校のときの教科書と広辞苑を引っ張り出してきたっていうのは内緒です…