「…ドミニオンより、カラミティ・レイダー・フォビドゥン、射出されました!」
サイのアナウンスがエターナル、AA、クサナギに響き渡る。
途端に慌しくなる艦内。
パイロットの一人、キラ・ヤマトも表情を引き締め格納庫へ飛び込む。
アスラン、そしてAAに向かうディアッカ、フラガとすれ違いざまに互いの片手を叩き合う。
この戦いも、生き残るという決意を込めて。
流れるような動作でキラはコックピットへ乗り込んだ。
そのまま慣れた手つきでをボタン叩くと、前方ディスプレイに眼差しを向ける。
『…システムオールグリーン、フリーダムどうぞ!』
ミリアリアの声がマイクを伝い、凛と放たれる。
軽く息を吸う。
そして
「キラ・ヤマト、フリーダム 行きます―――!」
そう彼が叫んだ瞬間
ガコン!!
「……っな!!?」
いつもの内臓をゆるがせるGの変わりに、大きな音がして機体の動きが止まった。
『どうしたんだ!?キラ!!』
通信回線からアスランが呼びかける。
ガチャガチャとあらゆる末端機器を押したり引いたりしながら、キラは悲鳴気味に叫んだ。
「わかんない!なんか機体が動かないんだけど…!」
『何!?まさかお前、また調整を怠ったんじゃないだろうな!?』
非難を含めた幼馴染の言葉に、キラは憤慨して答える。
「怠らせたのは誰だよ!!ああもぅどうしよう…!とにかく動けー!!」
『無茶はするな!キラ!!!』
キラが出れないとなると当然アスランも出撃できない。
なぜなら彼はアスラン・ザラ。(差別用語)
「…うーん、どうやら立て込んでるみたいだねぇ」
共同の回線を使ったスピーカーから繰り広げられる痴話喧嘩に、AAで出撃準備をしていたフラガが暢気な声で呟く。
それを聴いて、ディアッカが同じくバスター内から通信機で怒鳴った。
『何言ってんだよオッサン!あいつら出れないんじゃ俺らでどうにかするしかないだろ!』
「ま、それもそうだな」
頷きながらフラガはヘルメットを被り、そして笑む。
「ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ!!」
直後、宇宙空間へ二機が星を描いた。
「…ああ?今日はあのつえぇのはいねぇのかよ?」
コックピットでオルガは不満げにぼやいた。
それに続いて、カラミティの横を滑るように進むフォビドゥン内から シャニが単調ながらも嬉しそうに呟く。
「じゃあ、あの二機は壊してもいいってこと?」
その言葉を聞いて、オルガは毒々しい笑みを浮かべた。
AA達との距離はあとわずか。
「よっしゃぁぁぁ!ぶっ殺してやる!!!」
クロトの声を合図にして、連合軍MS3機は 一気に加速した。
「AAはやらせねぇよ!!」
バスター内でディアッカが叫ぶ。
大きなモーションで火線ライフルとガンランチャーを合わせ、構える。
トリガーをひけば、一瞬のタメの後 ドゥンと音を立て金色の光が宇宙空間を切り裂いた。
しかし、散るようにその光を避ける三機。舌打ちをしてディアッカは武器を構えなおした。
「坊主!上!」
フラガの声に、弾かれる様にその場から飛びのく。
一瞬後、フォビドゥンの大鎌がバスターの残像を裂いた。背を冷たい物が伝う。
これを更に追い、ストライクのビームサーベルが振り下ろされたが素早い動きで禁忌は避ける。相手の舌打ちも聞こえた気がした。
秒刻みで進む戦局。
しかしながらわずかな時間でも、張り詰めっぱなしの緊張と絶え間ない攻撃の中、体力は確実に消耗していく。
いつもは4機で相手をしているヤツらなのだ。いくらクサナギから射出されたアストレイ達が援護していると言っても、気休めにもならない。
むしろ戦況はAA側に不利だった。
「…っち!あいつらはまだ出れないのかよ…!」
焦燥感に胸を焼きながら、ディアッカは毒づく。
通信機からは、あいわからずああでもないこうでもないという論争が繰り広げられている。
アスランだけでもどうにかならないのか――
思いたち、ディアッカは通信マイクに向かって呼びかけようとした。
その瞬間
「・・・!!!っあ!!?」
一際大きな振動が機体を揺さぶり、ディアッカは前方に身を投げ出されそうになる。
フォビドゥンのビームに被弾したのだ。
コックピットの一角が赤く点滅する。
元々他機に比べ機動性の低いバスターは、更に動きに精彩を欠くことになった。
しかしそれを確認する間もなく、目の前にレイダーが立ちふさがる。
ディアッカは紫暗の瞳を見開いた。
カラミティと対峙していたフラガは、それを見て思わず息を呑んだ。
「坊主!!」
彼の叫びも間に合わず、バスターは破砕球を全面で受け止め
計機器は全ての明かりを失い 沈黙した。
完全に静止した目の前の機体に クロトは面白くなさげに呟く。
「ちぇ!今のでどっかイカレちまったのか?動かねーでやんの」
彼の言葉どおり、無重力空間にプカプカ糸の切れた風船のように浮かぶバスター。
しかし次の瞬間には、彼は気を取り直したように薄く笑った。
「まぁいっか。せいぜいいたぶって壊してやるよ、まずは足かな?」
まだ幼い顔を暗く歪め、舌なめずりをする。
クロトは身体の中を吹き荒れる破壊衝動に身を任せ、もう一度破砕球を掲げた。
しかし
『…こらこら、おイタは駄目ですよ?君』
場に似つかわしくない飄々とした声が、狭いコックピットに響き渡った。
クロトを始め、シャニとストライク相手に奮闘しているオルガも 途端に苦虫を噛み潰したような表情になる。
「なんだよオッサン!今いいところなんだから邪魔すんな!」
まるでお気に入りのテレビのチャンネルを勝手に変えられた子供のように、クロトは怒鳴った。
『オッサン』と言う単語にブルーコスモスの盟主は片眉を上げたが、すぐに嫣然と微笑んだ。
『おや、そんなにお仕置きが欲しいんですか?クロト・ブエル君?』
皮肉を込めてアズラエルは言い放つ。
『お仕置き』の言葉に、クロトの身が硬く強張った。
シャニも眉をしかめ、オルガは小さく「馬鹿が」と吐き捨てる。
それぞれの反応を満足げに受け取ると、若き盟主はモニターの奥から、クロトに向かい優しく語りかけた。
『今すぐその動かなくなった機体をココまで持ってきてもらえるかな?…今回の所はそれで勘弁してあげますよ』
クロトは口を開きかけたが、オルガの制止に渋々肯く。
一瞬で機体を鷹を思わせる形状に変形し、動かなくなったバスターの両肩を掴む。
ストライクが猛然と追ってきたが、カラミティが再び立ち回り フォビドゥンが威嚇射撃をする。
その隙に、一気にレイダーは加速した。
母艦、ドミニオンを目指して。
「…どういうことですか?アズラエル理事」
ドミニオンのブリッヂ、その司令席に座ったまま、ナタルがアズラエルを不審げに睨む。
言われたアズラエルは口の端を上げて彼女に言った。
「いえね?ちょうど研究材料として旧Gシリーズも欲しいなぁと思っていたところだったんですよ。いやぁ巧い事手に入ってよかったですねぇ」
そこの知れない笑顔のまま「それから」とアズラエルは言葉を繋げる。
「…バスターには、コーディネーターが乗っているんでしょう?」
薄い色の目が、不穏な光を宿した。
その言葉と彼の表情に、ナタルは息を呑む。
「やぁ、本当に興味深いです。いいものを手に入れましたよね、艦長さん」
尚も見据えるナタルを尻目に、彼は無重力に身を任せ 身を翻す。
そしてクスクス笑って続けた。
「コーディネーターは皆美人なんでしょう?いやぁ可愛い子だといいなぁ♪」
「………は?」
ウキウキした彼の呟きは、思わず言葉を漏らしたドミニオンの女艦長を除き
パイロット達を含む全ての傍聴者に 無表情で黙殺された。
「ば、バスター、レイダーに捕獲されました!!!」
サイの上ずった声が全艦に響く。
それと同時に「はぁ!?」と言う声があちこちで上がる。
キラとアスランも、その言葉にギョッとして言い争いを中断させた。
「ディアッカ!?ちょっとディアッカ!?」
必死にミリアリアが呼びかけるが、モニターはホワイトアウトのまま、うんともすんとも言わない。
通信機関もやられたらしい。
暫く叫んだ後、ミリアリアは声をすぼめ、肩を震わせる。
サイが気遣って後ろを振り向いたが、彼女の表情を見た瞬間、彼はそれは無駄な行為だと知った。
彼女は泣いてなどいなかった。
ミリアリアは小刻みに震える手を握り締め、息を吸い込んだ。
そして
「…元捕虜が更に捕虜になって、どうすんのよあの馬鹿犬――――っっっ!!!!」
全周波で流されたその怒声を
フォローできる者は
どこにも居なかった。
とぅーびーこんてにゅー?
■続きます!!(えー!?)
ディアッカINドミニオン。
なんということでしょう!(ビフォアアフター風に)
真面目なMS戦闘なんて書いたら首の当たり痒くなってきました。
結構楽しかったんですが、いかんせん資料が足りなくて、機器名がさっぱりです。
理系の方、パソコン遣いの方、御免なさい御免なさい…!
常夏×ディアッカと見せかけて多分色黒総受けで(笑顔)
初め書いたとき、妙にオルガばかり活躍していたので色々台詞いじったら
今度はクロトの独壇場…!
焦りました。や、でも直しません(なんてやつ)
まったくどうしたんでしょうね。常夏の中では3番目に好きなのに(ビリだよそれは)
今回は真面目ですが次から飛ばして参ります。
白いネズミさんがアスディアアスを苦手なことがわかったので嫌がらせも兼ねましょう!!(爽