「おいディアッカ!」
食事時の混雑したアークエンジェルの食堂に、凛とした声が響き渡る。
呼ばれた琥珀色の肌の青年は、他のクルーとの談笑を止め声の方に振り返る。
そこに少女がパタパタと金髪を揺らし、駆け寄った。
「何?どしたの?オヒメサマ」
チャカすように青年が問いかけると、少女は形のよい唇を尖らせて抗議する。
「馬鹿にするなよ、お前!それにオヒメサマじゃない!カガリだ!!」
「あーハイハイ、わかったよカガリ」
事なかれ主義で争い嫌いの(彼女が言い張るには)弟であるキラと違って
至極好戦的な彼女に、ディアッカは軽く手を振ってあしらう。
甘めの端正な顔とそのしぐさは、そこら辺の少女なら顔を赤らめそうなほど洗練されたもので。
しかし男性の美醜にこだわらない、よく言えば純粋・悪く言えば鈍感のオヒメサマのご機嫌は急降下で
彼女は頬を膨らませて彼を睨んだままだった。
そんなカガリに、ディアッカは苦笑しながらもう一度問いかける。
「で?なんなの カガリ?そんなに嬉しそうにしてさ」
話題転換は功を奏したようで、たちまちカガリの表情が明るくなる。
「ああ!ミリアリアにお前が好きだって言うものを貰ったんだ!」
嬉しそうにオーブ国の王女は笑う。
「…俺の好きなもの?」
ディアッカは小首を傾げた。
どうやら彼女は貰ったと言うものを、少し大きめのオーブの制服のポケットに入れているようだ。
俗に言う『男性向け』の本だとしたらその小さなポケットには仕込むことは出来ない。
写真一枚位なら入るかも知れないが
しかしそんなもの、あの生真面目なミリアリアがプレゼントしてくれるはずもないのでボツ。
食べ物だとしたら飴くらいだろう。
「え?何貰ったの?カガリ」
ディアッカが首を捻っていると
サイを始めとする他のクルーも興味深げに覗き込んできた。
「ああ!これなんだが…」
そう言いながら彼女がポケットに手を突っ込む。
ディアッカも思わずその手の行方を凝視した。
そして、白日(と言っても宇宙空間ではせいぜい蛍光灯)の下にさらされたその物体は
『…ッッ…!!?』
顔面蒼白になり、言葉を呑むクルー一同。
特に男性陣。
「…か、カガリ…さん…?」
ソレを好き、と言われたディアッカなんかは冷や汗までダラダラ流して
恐る恐る嬉しそうにソレを握り締めるオーブ国の王女様に問いかける。
「あの…カガリ…様。ソレって…あの、もしかして…」
「ああ!バイヴというんだろ?」
そんな伏せもせず。
思わずその場にいた全員(カガリを抜かして)が心中で突っ込みを入れる。
しかし、そんな皆の胸中なぞ知らず、カガリは言う。
「ミリアリアがな!お前がこれを使って遊ぶのがすきなんだって言ってたぞ!
あんまり詳しいことは教えてくれなかったんだが、コレ見せるだけで大喜びするそうじゃないか!
なんだ?どうやってコレで遊ぶんだ?ディアッカ!」
キラキラと無邪気な瞳でまくし立てるカガリ。
その純真無垢さと、その手にがっちりワシ掴まれたオゾマシイ物体との落差はもう言葉に表せるもんなんかじゃなく。
直視できず、数人のクルーが目を逸らす。
ディアッカは気のせいじゃなく頭痛を感じた。
「…あー…いや、そのな…カガリ…」
米神を押さえつつディアッカは力なく呟く。
なんと言っていいものかものすごーく悩む所だが
なんだかこの事態の収拾つける責任は自分にあるのような気がピシパシして。
しかしカガリは、小さく目を見開いて叫んだ。
「あっわかったぞ!このスイッチを入れるのか!」
「頼むから動かすなーっっ!!!」
悲鳴を上げて元気よく首を振るソレを、思いっきり取り上げる。
カガリが「何すんだ!」と言って奪い返そうとするが
頭上めいっぱい高く上げてしまえば所詮は176cmと162cm。
リーチの長さも手伝って、彼女に勝機はなかった。
「ダメ!こんなのあんたが持ってていいモンじゃないの!!没収!金輪際触るの禁止!!」
ディアッカが腕を天高く伸ばした状態のまま一喝すると、カガリは再び頬を膨らませて怒鳴る。
「なんだよお前!!わかったぞ、ソレを独り占めする気だな!?せっかく持ってきてやったのになんてヤツだ!
そんなにソレが大好きかよ!いいさケチ!そんなモン要るか!」
「要てたまるか、つーか好きでもないしな!!!」
彼女の怒声にディアッカも力強く反論するが
カガリはベェ!と古典的な舌の出し方をして 足音も荒くその場を後にした。
気まずい沈黙に包まれる食堂。
特にソンナモン持ってるディアッカには
本当その空気は耐えられるものじゃなかった。
「…ディアッカ…」
肩を落として肺の息が出尽くすほど溜息をついたディアッカに、サイがそっと手を掛けた。
ディアッカは疲れた瞳で彼を見る。
「…サイ…」
「ディアッカ…その、俺なんて言って良いかわかんないけどさ…」
サイはいつもの、優しげな微笑を浮かべ
言った。
「ヒトの性癖も千差万別だし…大丈夫、俺はずっと友達だからな!」
「お前絶対なんか勘違いしてる!!!(゜ロ゜‖)」
ディアッカは泣き声雑じりの悲鳴を上げるが、サイの一言に気を取り直したように他のクルーがワラワラと慰めの言葉をかけ始める。
「そうだぞディアッカ!軍隊には多いって言うし、まぁまだマトモな方だ!」
「むしろあんまり意外性もないかもな!」
「コーディネーターと、俺らじゃ考え方の差異もあるだろうし…」
「俺はお前の味方だぜ!」
「でもあんまりハマリ過ぎるなよ?彼女持ちの癖によ」
円陣組まれて哀れまれて慰められて
ディアッカは今度こそ本当に項垂れる。
(…人の好意がこんなに痛いなんて知らなかった…)
確かに彼らの言葉は好意以外の何物でもなく。
しかしながら、今この瞬間はそれら全てが苦痛でしかなかった。
おとーさん おかーさん イザーク。
今頃あなた方は何処で何をしてるんでしょうか。
現実から逃避しかけた所で、頭上から少し楽しげな声が降ってくる。
「あ、それで満足できなくなったら いつでも俺が相手してやるぜ?ボーズ♪」
「結構だ、このセクハラジジィ!!!!」
肩にちゃっかり手を置くフラガを心の底から拒絶して ディアッカは思う。
もしかして、あの可愛い茶髪の自分の想い人は
まだしっかり自分のことを許してないんじゃないかと。
お粗末。
■なんだか元気のなかった友人に捧げた日記小説ブツ再アップ。
余計具合悪くなるっつーの。
ミリディアでカガディアなこっそりフラディア。
女性に翻弄されるディアッカが大好きです(笑顔)