住まいづくり百科

 1.自然との調和
 
  日本の住まいは本来、近くの樹木を利用して柱を立てることを基本として、木・竹・紙・わら・いぐさ・土など
の自然素材でつくられていたはずです。豊富な森林資源を利用しながら、自然と調和した住み易い、細部ま
で配慮した家づくりをしてきました。
  匠(たくみ)という字で代表されるように、木を扱う腕にかけては、日本の大工の技術は世界一と言っても
よいでしょう。大工が木材を加工する場合は、まず材木の節や反りなどの癖を十分理解した上で、墨つけの
作業から入ります。
  法隆寺の改修工事に人生の後半を捧げた宮大工の西岡棟梁は「材料選びからしっかりした仕事をすれば
千年かかって育った木は千年もつ」と言っています。
  私の仕事に対する理念は「100年経ったら民家と呼ばれる家をつくる」ことです。良質な国産材を使い、気
持ちのこもった仕事をした家は、手入れがよければ50年や100年は生きるものです。
  日本は世界でも10ヵ国程度しかない(米国・中国・ニュージーランドなど)春夏秋冬=四季のある気候温暖
な国ですが、残念ながら最近の住まいは日本の風土が反映されていないように思われます。
  特に夏の高温多雨に向いている建物は、木造在来軸組工法でつくった家です。
  「理科年表」によると大阪の夏・8月の最高平均気温は28℃、湿度は70%、冬・1月の最低平均気温は
5.6℃です。年間降雨量は1400mmと多く、けして暮らしやすい都市とは言えません。 
 ちなみにサンフランシスコでは、夏・9月の最高平均気温は17.7℃、湿度は68%、冬・1月の最低平均気温
は9.2℃、年間降雨量は475mmです。
  日本の伝統的な住まいは夏を過ごしやすいように、夏本位で南窓は大きく、隙間風は多く、床下も空気の
入れかわりができる、という開放的な構造が一般的でした。また雨が多いため軒の出も深くなっていたので
す。
  しかし最近は、高気密・高断熱工法に代表されるように、室内の換気を機械に頼るような工法も多く見られ
ます。
  以前中国を訪問したとき、現地の人が言った一言が耳に焼き付いています。
  「新しい家に住む際は事前に赤ちゃんを連れて行きなさい。泣き出すようであれば建物に何か問題があ
るので、引越しなさい」
  そこに住む人が「快適に暮らせる」ということが大事なのだと思います。
 
  最近は間取りにも変化が見られます。以前ではほとんどの家に一室はあった畳部屋ですが、今では和室
のないケースもあります。また、今は、部屋数が増え、家族それぞれのスペースを希望することが多いようで
す。昔の家は部屋数が少なく用途も固定せず、融通性に富んだ使い方をしていました。座敷が居間になった
り寝室になったり、ときには客間になることもあったのです。
  このような生活は、現代人からすると、プライバシーを確保するのが難しいという点があげられます。しかし
空間を上手く利用するという先人の知恵を全て捨ててしまうのではなく、たとえば、子供部屋を大きくする代
わりに、家族みんなが利用できる多目的ルーム(居間にも、子供たちの遊び場にもなる)というかたちで部屋
の面積をおさえることもひとつの工夫です。これは、家族団欒の時間を増やすという観点からも良いと言える
でしょう。

 2.敷地の状況把握
 
  軟弱地盤で耐力のない敷地では、阪神・淡路大震災のような地震が来ればどうしても建物に大きな被害
が発生してしまいます。建築を計画する場合、まず第一に考えなければならない重要な作業が、自分の敷地
の状況を把握することです。
  まず、地盤の調査をしましょう。一般的な木造住宅程度なら『スウェーデン式サウンディング試験』という比
較的費用が少ない方法がお薦めです。約6万円ぐらいで、一敷地内5ヶ所程度調査することができます。
  ただし、地中15mほどの深さまで調査しても期待する地耐力の数値が出ないような場合には他の方法の
試験が必要となります。また、もう少し地盤の内容を詳しく知りたい場合は『スウェーデン式サウンディング』と
『動的貫入試験』とを併用します。また鉄骨造や鉄筋造など、建物自体の重さがある場合はボーリング調査
が適しています。
  調査の結果、地盤の状況が弱い場合は、地業工事(杭打ち工事など)の方法を検討しなければなりませ
ん。工事方法はやはり専門家に提案してもらいましょう。
  地盤が建物を支えるのに十分な耐力を備えていれば布基礎やベタ基礎といった基礎工事で十分です。
  地中3m程度まで軟弱な地盤であれば、表層地盤改良(敷地地盤を1mほど掘り下げ、セメント系の土質
固化材を現地盤としっかり混ぜ合わせ、それを締め固める方法)でよいでしょう。固めた地盤はスコップが立
たない程度の硬さになりますが、施工後1週間は基礎工事などに入らないようにしましょう。これは土質固化
材が十分に固まるのを待つためです。
  地中3m以上の深くまで軟弱地盤であれば、杭を打つなどの地業工事が必要です。最近は木造住宅のよ
うな建物であれば、鋼管杭(直径が12〜15cmの鋼管)を硬い支持地盤まで打ち込み建物を支えています。
  さらに軟弱地盤が10m以上の深さまである場合は摩擦杭(コンクリート製で電柱のような形状に、こぶ状
の突起物をつけた杭)の摩擦を利用して建物を支える方法もあります。
  杭地業などを行うと、やはり費用はかかってきますが、見えない部分にもお金をかけなければなりません。
  地業工事が完了すれば次は基礎工事です。基礎工事での注意事項は、まず施工時期です。冬季は最低
気温が2℃以下になるような日はコンクリート打設は中止すべきです。2℃以上になる場合でも、寒い日には
寒さ対策の養生が必要です。また早強サート使用や温度補正のために設計強度よりも強いコンクリートを打
設することがありますが、あまり高強度の材料を使用すると養生が大変です。ひび割れ発生の原因ともなる
ので注意しましょう。
  逆に夏季の施工は、早く固まりすぎないような配慮が要ります。場合によっては水打ちなどの養生を行い
ます。コンクリートは夏場でも打設後1週間くらいは、衝撃を与えたり、重量物を乗せないようにしましょう。木
造や鉄筋造の場合は上棟を行いますが、養生期間を十分に確保してください。
  最近、シャブコンクリート(コンクリート打設時に水を加えて作業すると、流動が良くなり打設後の表面もき
れいになるので過剰に水を足すこと)が問題となっていますが、強度低下やひび割れの原因となるもので、
使用してはいけません。
  また、コンクリート打設後に型枠を解体しますが、十分な養生期間を得た上で行いましょう。
  鉄筋の配筋に際しては、コンクリートの被り厚さが不十分な場合、鉄筋がコンクリートの中で錆びる(鉄筋
自体も弱くなるし、体積が大きくなってコンクリートのひび割れを引き起こす)ので、強度上の問題からも重要
です。コンクリートは当初アルカリ性を有していますが、長い間空気にさらされると中性に近づき、防錆効果が
薄くなります。

 3.知識の大切さ

  知人にAさんを紹介され、事務所で私の建築理念や今までの作品などをご理解頂いたうえで、設計・監理
業務を引き受けることにしました。「基本的に木造在来軸組工法で、国産材を使用し、湿式(土壁)工法、屋
根は瓦葺、仕上材は木、土、紙、竹など天然素材を使用する」と詳細を説明しました。また「外材・集成材は
使用しない」と念を押しました。
 以後、数回住宅建築計画の打合せを行ううちAさんから、コストダウンのために主要構造部材を「集成材」
にしたい、と言われました。
  考えが変わった理由を聞くと、「ある雑誌で『低価格で住宅をつくるには』という記事を見た。金額のために
どうしても集成材を使用したい」とのことでした。私なりの見識で「集成材の方が杉材よりもわずかに高い」と
お話しましたが理解して頂けなかったため、既に設計監理契約が済んでいましたが業務をお断りしました。
  一部の住宅メーカーなどは集成材による家づくりを行っています。仕事の関係上、多くの住宅を検査させて
頂いていますが、集成材を使用した建物は製造問題による欠陥や施工に問題のある場合をよく目にします。
製造による問題の多くは材料間の接着不良で、ひどい材料は接着部分に大きな隙間が見られ、名刺が簡単
に入るようなケースも見受けられます。
  施工上の問題は使用方法の間違いです。土台などは接着面を基礎と直角方向に使用すべきですが、平
行方向に使用してしているものも見られます。
  いずれも強度上に問題があります。以上のような各種の問題も含めて『建築設計士』の立場から責任の
持てない業務はできないと考えています。残念なのは、構造上安心できるかということよりも、価格に左右
される建築主がまだ多いということです。
  まだまだ、間違った情報や施工方法を多く目にします。設計士や施工業者が日夜勉強するのは無論のこ
と、建築主も、デザインやシステムキッチンの選定(これらも重要ですが)だけでなく、「構造・施工方法・材料
の選定」などについてもしっかりとした知識を得てほしいと思います。

 4.良いパートナー選び

  ある日、Nさんから相談の電話が入りました。
  「娘夫婦が木造住宅を建てるのだが、建築の内容が何もわからないまま業者の言いなりで、間取りさえ決
まっていない。地鎮祭を近日中に行うと言っているが心配だ」と知人の紹介で私に相談をされたのです。
  早速、娘さんに連絡をして手元にある関係書類のコピーを送ってもらうようにしました。
  後日、連絡が入り「本日地鎮祭を行ったが、終了後の打合せで『既に提出している見積書の金額の他に
追加工事分がかかります』と当たり前のように話をされた。どうしたらよいか」とのことでした。
  追加工事分は
  
  @地盤調査費用・・・          約60,000円
  A地盤改良費用・・・          約600,000円 
  B照明器具費用・・・          約250,000円
  C建物外部の給排水設備費用・・・ 約550,000円
  Dガス設備費用・・・          約340,000円
  E設計料・・・              約350,000円

  以上、大きなものだけでも合計約215万円の追加費用がかかるという内容でした。
  さらに、健康面を考慮し内装材を標準仕様から変更したいと話したところ、和室(4.5帖)のの壁クロスを環
境対応壁紙にするだけで4万円の追加見積を提示され不安が拡大したのです。
  具体的な内容を確認していくうちに、下記のような多くの問題が出てきました。
  
  @玄関・トイレが表鬼門に掛かる。
  住宅設計は、家相や風水を気にしすぎると設計が出来なくなりますが、十分考えれば鬼門を避けられる
ような場合は、守った方が良いと思います。(参考)玄関・トイレ・仏壇・神棚は鬼門から外すといったこと。
  A地業工事が不十分。
  当該敷地は地盤調査の結果から考察するに、建物を十分に支えることができる地盤ではないのです。し
かし計画では、ベタ基礎で十分とされ特別に地業工事は考えられていませんでした。地耐力の小さい当該敷
地では少なくとも『表層地盤改良』が必要であることを提案しました。
  B使用材料の寸法が小さい(特に2階床の梁材)。
  一般的に1階は居間などの大きな間取りが多く、2階は個室にするため小部屋が多くなります。このような
場合、1階の柱がない位置などに2階の間仕切壁を設けたりするので柱下の梁は大きな部材が必要ですが、
当該建物は寸法が小さく、2階床の凸凹の原因ともなる構造でした。
  C全体の使用材料があまりにも健康面に配慮を欠いている。
  床は複合フローリング、壁・天井はビニールクロスなど、「安価であればなんでも良い」といった姿勢が見
られました。
  
  その他、キリがないほどの問題が発生し、ひとつずつ解消して行かなければなりませんでした。
  また、担当した若手の建築士がデザインを優先しすぎるのも難題の一つでした。日本の気候風土(降雨
量が多く、高温多湿)を考慮せず、建物の劣化対策に重要な屋根が外壁からほとんど出ていない外観です。
  また、先に記載の通り、構造面でも開口ばかりが必要以上に多く、強度上も問題がありました。娘さん夫
婦の「見た目優先」の考えも影響していました。(その後、Nさんから毎日のように相談が入りました)
  住宅を建てるのは大変な事業です。「良い建築士、施工業者に出会うことができれば着工前に家づくりは
成功した」と言われるほど、良いパートナー選びは大切なのです。

 5.構造にも関心を
 
  以前、Dさんから「住宅メーカーと契約して建築することになったのですが、地業工事から竣工検査まで定
期的に、計6回ほど第三者の立場で検査をしてほしい」との依頼がありました。
  そこで早速、現地に行って地盤の状況を確認したところ、比較的良好な地盤で、特に地盤改良などの必要
はないと思われたため、直接基礎とすることにしました。
  施工業者には砕石の転圧を十分行うように伝えましたが、後日訪問してみると、地盤面に凹凸が見られ
ます。さらに補修を指示して数日後、施工業者から「基礎の配筋が終了したので検査してほしい」と連絡が入
り、現地で検査をしたところ、先日指摘した地盤の凹凸が改善されていないまま基礎配筋を行っており、ベー
スコンクリートの鉄筋は無論、基礎の立上り鉄筋にも大きな凹凸が見られる状態でした。
  すぐに設計・監理をしている設計事務所に連絡し現地で説明を求めたところ、「私が監理している現場では
この程度の施工は承認している」との回答でした。
  世の中の設計士・施工業者がすべてそうであるとは言えませんが、残念ながらまだまだ建築工事に対す
る認識の甘さが見られるという一例を体験させられた現場でした。
  結局、設計事務所の担当者に「コンクリート打設の際は鉄筋を補強すること、コンクリートのベース厚さは
一番地盤の高いところを基準の寸法として、低い部分は設計図面より厚く打設する」ように伝えました。
  後日「コンクリートを本日打設する」と聞き、現場に行ってみると、すでに打設中で、指示した箇所が不十分
な補修であったため、直接業者に補強を求め、問題を解決しました。しかし、現場監督も設計士も立ち会って
いない状態で、その後の工事も心配なものでした。
  建築主も、仕上げばかりに注意をするのでなく、構造問題にも関心を持ち少しでも多く現場に足を運び、判
らないことや心配な箇所は現場員にどんどん質問をして早い時期での解決をして行きましょう。

 6.工期には余裕を

  上記、D邸は、「2×4工法」でベニヤの合板が命の建物であるのに雨の多い梅雨時に上棟式を行ったため
当然のことですが、主要構造部分は数日間雨にさらされた状況下で工事が進められました。
  「2×4工法」の特徴を考えれば、その時期は雨が続いていたので、工事は延期されるものと思っていまし
たが雨が上がった日に設計監理士から「上棟も完了し屋根工事も終了したので、設計監理士の立場で中間
検査をしたところ特に大きな問題はなかったので中間検査をお願いしたい」と依頼されました。
  そこで設計監理士に「先日来雨が多かったが、その中で工事をしたのか」とたずねたところ、「雨の中、が
んばって行った」と返答され、驚きで言葉がでませんでした。養生についても聞きましたが芳しい言葉はなく、
心配になり現場に行って調査したところ、合板をとめている釘は錆がひどく発生していて、雨ざらしになってい
たのが一目瞭然でした。
  さらに合板の釘の施工方法を確認したところ、多くの箇所で問題があったのです。たとえば、釘の打ち方
ですが、合板の固定方法はほとんど釘打ち器具による施工ですから、合板の硬さ、器具の威力を検討しな
がら施工しないと、合板を貫通しないまでも、合板の厚さ半分ほどまで釘が打ち込まれる状況になります。
  また、合板端部の釘の施工方法です。工事がずさんな場合は、ほとんど合板の端に釘が施工されている
のが見られます。
  以上、2点の問題は強度に大きく影響します。残念ながら当該現場はこれらについても、当然のように不
十分な施工でした。各種の負荷加重に対して十分持ちこたえるだけの施工内容ではないので、すぐに設計
監理士に現場に来て状況を確認してもらいましたが、それでもこの程度の施工については疑問を抱いていな
いようでした。
  大幅に補強工事を指示し現場を後にしましたが、後味の悪い帰路になりました。上棟式の日柄や工期の
遅れは気になるものですが、それゆに工事内容に無理が生じては元子も子もありません。工期には十分余
裕を持つようにしましょう。

 7.悪質なリフォーム詐欺

  マスコミでも多く報道されていましたが、「耐震補強工事」と称して、主に弱者・高齢者に法外な値段の工
事を承諾させる事件が起きています。一般的にかなり意識は高まっているようですが残念ながら被害者は
後を絶ちません。
  私のところへは毎日のように、悪質な補修工事に関する相談が入ります。中でも特徴的な2件の事例をご
紹介します。1件目のAさんの場合は、認知症の母親をだまし、意味のない工事を高額の費用をクレジットカ
ードで支払わせるというものでした。
  娘さんの結婚を期に一人暮らしとなった母親は、認知症の傾向が見られたため入院することになりました。
その後、娘さんが医療費の支払いのために箪笥の引き出しを開けたところ、中から耐震補強工事や床下換
気扇工事などの明細書と領収書が出てきて、母親が訪問販売の被害にあっていることがわかったのです。
  本来の耐震補強工事は、地盤・基礎・土台関係・1階の軸組み・床の剛性といった優先順位で、床下補強
・小屋裏補強はよほどひどい状況の場合に安全対策の一部として行うのです。
 Aさん宅の小屋裏を見てみると、耐震補強として記載されていた工事は耐震としてあまり意味がないもので
した。被害金額は分かっているだけで223万円ですが、小屋裏などを調べた感じでは見つかった書類にない
施工もされているので、実際の被害はさらに大きいと思われます。
  2件目の事例は被害者としては若い55歳のBさんです。
  工事内容はAさんと同じように、小屋裏・床下の補強工事と換気扇の取付け工事が主です。
  Aさんとの違いは、補強金物の取付け数の多さです。被害金額も1157万円と非常に高額でした。
  まだ比較的若いBさんがなぜこのような被害にあったかというと、当初、知人の紹介で簡単な補修工事を
行ったところ、次第に業者の態度が変わり、不要な補強工事を勝手に進められ、気づけば被害者となってい
たのです。
  飛び込みの訪問業者だけでなく、友人・知人からの紹介による工事のトラブルも少なくありません。いずれ
にしても内容に納得のいかない工事は、はっきりと断る勇気が必要です。

 8.日本建築

  1.でも触れた日本建築の特徴を詳しく見ていきましょう。
 
  @材料は中国シナ様式系建築の特色を継承した木材を基本とする。
  A構造は高温多湿の気候風土を考慮していて、床を高く、屋根勾配はきつく、庇は深く、地震・台風に備
  えたつくりである。
  B施工は継ぎ手・仕口などの納まりを重要視する。
 
  奈良の法隆寺は飛鳥時代に創建され実に築1300年を経過した世界最古の木造建築で、今も多くの見物
客が訪れる素晴らしい建物です。
  木構造とは主要構造部分を木材で構成されたものをいい、「軸組工法」「2×4(ツーバイフォー)」などがあ
ります。
  今回は日本の気候風土を考慮した木造在来軸組工法についてです。
  軸組工法とは、土台・柱・はり・けた・筋交いなどから構成される構造をいいます。
 
   ◇土台・・・柱の下部に配置して、柱からの荷重を基礎に伝える役目を担う横材。基礎にアンカーボルトで
  緊結され、湿気やシロアリからの害を避けるため杉や桧を使用します。(継ぎ手箇所は、換気口付近には
  設けない)
  ◇通し柱・・・下階の柱材と上階の柱材が連続している形式の柱で、階数が2以上の建物における隅柱や
  角柱は通し柱としなければなりません。柱の位置により四方から梁などが直交する場合があるのででき
  れば150mm以上角の寸法材を使用すると良いでしょう。
  ◇管柱・・・階ごとにけたを挟んで連続しない柱をいいます。管柱も荷重を伝達する役目があるので、120mm
  角程度の材料が良いでしょう。
  ◇筋交い・・・四辺形に組まれた軸組みに対角線状に入れた補強材をいい、軸組みが地震や風などの横力
  を受けたときに、水平力に抵抗して変形を防止します。
  ◇梁・桁・・・屋根や床の荷重を柱などとともに上部から下部に伝え、基礎に伝達するための横架材のこと
  です。横架材の中央付近の下側に耐力上支障のある欠けなどがある材料は使用しないようにしましょう。
  ◇火打ち・・・桁・土台などが直交する水平部材を補強するための斜材をいいます。
  ◇真壁・・・柱が表に表れるように仕上た壁構造です。
  ◇大壁・・・内部・外部共柱が表に表れない壁構造です。大壁の長所は筋交いや間柱材に大きな断面材を
   使用できるところです。

 9.木構造の設計

   木構造の設計におけるポイントは次の通りです。
 
 @建物全体の安全確保のため、柱・梁・壁などを各種荷重に対して、つり合いよく均等に配置することが重要
 です。以前はたいていの民家に見られた「大黒柱」が最近は少なくなりましたが、家の中心の柱は梁が四方
 から掛りほぞのために大きな穴を設けるので、構造上重要な役割を持っています。また大黒柱は「忌柱」とも
 呼ばれ、祭ることが習慣とされていたほど大切にされてきたのです。家格の象徴、その家代々の精神的な拠り
 所とされ「心の柱」「役柱」「中柱」「亭主柱」ともいわれます。「夫婦梁(大黒柱と小黒柱に架ける梁)」も同様に
 見受けられなくなってきているようです。
 A真壁より大壁の方が筋違いなどX型に施工することもできるので、耐震的には考慮しやすい工法です。
 最近は、ほとんどの建物が大壁工法で施工されます。壁の仕上げはクロス張りが多く柱もほとんど隠してしまう
 ので、柱が呼吸するには問題があります。
 B耐力壁を設ける場合は一般的に2階の壁量より、1階の壁量を多く設けなければなりません。特に建物の1階
 部分の隅部分に設けると良いでしょう。2階建ての出隅・入隅などの角柱は「通し柱」としなければならず、力が
 普通の柱以上にかかるので荷重を分散する意味からも耐力壁の設置は有効です。
 C上下階の柱・耐力壁は同一ヵ所に設ける必要があります。壁の位置がずれていると、上階の荷重が十分に
 下階に伝達されないからです。よく2階の床で部分的に見られる凹凸は、そのずれが原因の場合があります。
 D2階建ての場合、広い空間は、できれば上階に設ける方が良いと思います。木造に限らず、建物の形はシン
 プルな方が好ましく、あまり変形構造にはしない方が丈夫です。たしかに、美観上は変化があると面白く感じら
 れるものですが、強度的には問題が多く残ります。

10.塗料・塗装

 今回は塗料・塗装についてです。
 塗料の一つの役割は、物質の表面を覆うことにより美観を与えることです。同時に、表面を保護し物質の寿命
を延ばすことも役割の一つです。
 塗料の歴史は長く、古代人も天然の植物から漆を採取したり、石を砕いて各種の顔料をつくり壁画を描いてい
ます。最近は石油科学技術の発達により、新しく化学合成によってアクリルやエポキシ・フッ素など優れた塗料
が生産されています。ただ最近は、あまりに種類が多く、各々の特性を知らずに使用するには問題があります。
たとえば、酸化チタンやアルミの粉体を入れれば太陽光を反射する遮熱塗料ができ、中空のセラミックの小さな
粒を入れると断熱性を高める素材になります。また、鉛の酸化物である赤い粉を入れると、防錆ペイントをつくる
こともできます。さらに、電波吸収材を入れると、電波障害を少なくすることができる塗料なるのです。
【成分】塗料の主な構成成分としては結合材・顔料・添加剤・溶剤があり、各種の配合比率や材料を変えること
により、各種の性能ができてきます。
 
 ◇結合材・・・塗料が固まる元になる成分で、耐候性・柔軟性などの性能が決まる材料です。
 ◇顔料・・・・・色のついた物質で塗料に色をつけ、美観を表現する役割を持っています。顔料は、無機顔料と有機
  顔料に大別できます。無機顔料は、鉱物や金属を主体とした無機物であり、長所は光や熱に強い性質を持ちま
  す。逆に短所は鮮やかな発色が困難なことです。有機顔料は、無機顔料と比較して鮮やかな発色が特徴です。
 ◇添加剤・・・塗料の性質を向上させる重要な役目を持つものです。顔料と結合材のなじみを良くしたり、施工性
  を高める粘性調整剤や水系塗料の防腐剤、また凍結から品質を守る安定剤などの目的で使用されます。
 ◇溶剤・・・・・樹脂や油脂を溶解し、流動性を与えるために使用します。水系塗料の溶剤は文字通り水が使用され
  ますが、油性ペイントの溶剤はテレピン油で、上記以外の合成樹脂系塗料の溶剤はアルコール・エステル・エーテ
  ルなどです。溶剤はその塗料に適したものを使用することが大事です。間違った使い方をすると著しく性能が低下
  してしまいます。

【種類】塗料の種類について大別すると、油性塗料、セルロース塗料、合成樹脂塗料、粉体塗料に分けることがで
きます。
 ◇油性塗料・・・塗料の中でも古く、調合ペイントや錆止め塗料などがあります。耐久性に優れ、比較的安価なこと
  から最近でも建築に限らず、車や船舶などにも使用されます。
 ◇セルロース塗料・・・パルプや植物繊維を処理してできるニトロセルロースを結合材とした塗料で、ラッカーとも言
  われ乾きが非常に早いためプラモデルなどに使用されます。
 ◇合成樹脂塗料・・・現在最も多く使用されている塗料で、石油から作られる合成樹脂が結合材として使用されて
  いる塗料です。中でもアルコールなどを溶剤とする溶剤系塗料と、水を溶剤とする水系塗料に分けられます。
 ◇粉体塗料・・・一般の塗料が液体なのに、粉末状の形態をした塗料で、金属表面などに静電気を利用して付着さ
  せ、熱処理をして薄膜を形成する塗料です。その施工方法から、ほとんどが工場塗装です。

 11.防水

  防水とは、建物内への水の浸入または透過を防ぐことを言います。木造建築の場合は主にバルコニーなどに施
 工をします。
  最近主に多く採用されているのが、FRP防水です。FRPは、強化プラスチックの総称で、ガラス繊維を補強材とし
 使用している工法です。FRP防水のように交互にガラス繊維を重ねて密着し、構成する防水工法を積層系メンブレ
 ン防水層といいます。メンブレンとは、薄い膜の意味ですが、耐用年数を長くするには、メッシュ等を多く重ねること
 がポイントです。
  以下に、施工の注意点をあげておきます。
   
 @気温が著しく低い場合は施工しない。降雨・降雪などが予想される場合は施工しない。
 A降雨・降雪後で、下地が十分乾燥していない場合は施工しない。
 B強風の場合は施工しない。
 C下地の勾配を十分確保する。
 D出隅・入隅部分は防水が確実に施工できるよう面を設ける。
 Eガラス繊維の重ねは十分に行う。
 
  また、防水工事にはFRP防水の他にも次のような工法があります。
 
 アスファルト防水工法
 ◇アスファルト密着工法・・・下地面に防水層を全面密着させる工法です。
 ◇アスファルト絶縁工法・・・防水層を部分的に密着させ、下地のひび割れ等による防水層の破断を防ぐ工法です。
 ◇アスファルト保護防水・・・防水層の上にコンクリートなどの保護層を設ける工法です。
 ◇アスファルト保護断熱防水・・・遮断材と防水層を組合わせて断熱性を向上させる外断熱工法です。
 ◇アスファルト露出防水・・・防水層がむき出しのままで施工する工法です。
 ◇シート防水(合成高分子ルーフィング防水)・・・合成ゴム系・塩化ビニール系のシート材を、接着剤で重ね合わせて
  接合して施工する工法です。
 ◇モルタル防水・・・モルタルに防水材を混和して防水モルタルとして塗る工法です。安価で手軽ですが、高い防水性
  能は期待できません。

 シーリング防水工法・・・部材の結合部分(サッシの取付廻りなど)の隙間の、外部からの水などの浸入を防ぎます。
 ◇シリコン系・・・ガラス周りの目地や設備配管廻りによく利用されます。長所は耐用年数が長いことですが、短所は
  シーリング廻りが汚れやすいことです。また、耐用年数がきて、打ち替える場合は他のシーリング材が付着しないの
  で、改修時は同じくシリコン系しか使用できないという問題があります。
 ◇変成シリコン系・・・窓枠廻りや、ALCパネルの接合部分等に使用されます。シリコンの短所部分を少し改善した材
  料です。
 ◇ウレタン系・・・外壁や鉄部塗装を行う部分でシーリング材を施工されている箇所などに使用されます。
 
 シーリング工事の際の留意点は次の通りです。
 
 @3面接着は避ける・・・コの字形に3面接着すると、接着面が破断しやすくなるので、バックアップ材などを利用して、
 2面接着にすること。
 A打ち継ぎ時間・・・最初のシーリング材施工から時間が経っての施工は接着不良、硬化不良の原因ともなるので
 避ける。
 
 あまり、防水材に頼り過ぎないことも重要です。