基本技術(インサイドキック)練習方法の一案 (by obata)

今回は基本技術、とりわけ試合中に一番使用頻度が高いといわれるインサイドキックの習得について考えてみたいと思います。
それでは先ず、湯浅健二著「サッカー監督という仕事」(新潮社刊)の中から基本技術の習得について書かれた一節を読んでみて下さい。
(引用部分:青字)

“以前、ある県の高校選抜チームのゲストコーチに招かれたことがある。そこでまず私の神経を逆なでしたのが、二人一組でのサイドキックだった。彼らは、単なるウォームアップだよ、といった気の入らない態度で、勢いのないサイドキックをダラダラと交換する。一番大切な技術トレーニングなのに、なにやっているんだ!」
「集合!」
ホイッスルを吹き、グラウンド全体に響く大声で選手たちを一か所に集める。
「確かに君たちはうまいよ。ある程度のレベルまではいっている。でも、上には上があるんだぜ。キミたちがどこまでサッカーを続けるつもりなのかは知らないが、今のこの時間を無駄にするようなことだけはしたくない」・・・”


“キックやストップという技術を極めるのは、反復練習しかない。それをおろそかにしてしまっては、いくら才能があっても次のレベルアップにつながらないのである。さて、その基本技術トレーニングだが、監督は、“やらせる”のではなく、選手たち自らが意欲を持って“やりたい”と思って取り組むように仕向け、モティベートできなければならない。勉強だって、やらされているのと、自らやりたいという意欲をもって取り組むのでは、結果に雲泥の差が出てきてしまう。基本技術の練習は、単調になりがちなだけでなく、目に見えるスピードで結果がついてくるわけではないから、「これだけできりゃ十分さ・・・」といった調子で、どうしても気の入らない雰囲気が支配してしまうものだ。そして、直ぐに到達できてしまうある程度のレベルから先へ進む努力がおざなりになり、レベルの高い相手と対戦して痛い目に遭う。ある程度のレベルから最高レベルに近づけていく過程は、気が遠くなるような長いイバラの道なのである・・・”

ある県の高校選抜チームの生徒たちの気持ち、分からなくもないですね。ボールを蹴る、止めるといった基本技術を習得するには反復練習しかない、というのは確かにその通り。でも21組になって向かい合ってのパス練習は私自身もつまらないと思う。では、なぜつまらないか。ひとつに、パス練習の目的が相手にボールをパスすることだとすれば、少しばかり変な蹴り方をしてもパスは相手のいる方に届くので、簡単に目的達成できたということになる。つまり簡単すぎてつまらないということ。もうひとつは、パスを出した後に相手がトラップをして、自分にパスを戻してくれるまでの時間が暇になってしまうこと。
したがって、この2つを改善して少し難しく、忙しい練習にすれば、パス練習も少し面白くなるのではないか。

☆「簡単すぎてつまらない」の解決方法の一案
パッサーは、ただ漠然と相手のいる方にパスするだけでなく、相手の右足または左足を狙ってパスするというように「的」を小さく設定する。(ショートパスでは実戦の中でこのパスコントロールは必要になる。)レシーバーもどちらの足でストップしてどちらの足でパスをするかを決める。(右足でストップ、左足でパスというように)

☆「暇」対策の一案
「パスを受け、ボールをストップ(コントロール)し、パスを出す」という一連の動作の間に「meet the ball」「pass and go」「look around」「communication」というサッカーの基本常識といわれる要素を取り入れることで、身体も頭も常に動いている(暇じゃない)状況を創り出す。具体的には以下の通り。

meet the ball
短い距離でのパス交換なので、一歩でも半歩でも、あるいは場合によっては気持ちだけでもよいから自分に向かってくるボールを迎えに行く。これによってマーカーにインターセプトされないということと、ボールをコントロールし次のプレーに移っていく時間を稼ぐことができる。

pass and go
パスをしたらその場で立ち止まらずに直ぐ次の場所に向かって動く。この場合2人1組でのパス交換なので、meet the ballでボールを迎え行った分、パスを出した後にもとの場所にもどる。pass and goではパスの後に「前へ前へ」と誤解しやすいからpass and moveと教えるコーチもいる。これも基本中の基本の動き。

look around
周りを見ること。ボールをもらう前に周りを見るのが一番よいが、近距離でのパス練習なのでこれは難しい。したがって、パスをした後のパス&ゴーのときに首を振って回り(後ろ)を見る。ただ首を振るだけでなく、必ず後ろの景色を認識する努力をすることが大切。(例えば、赤いシャツの人がいたとか、犬がいたとか、木があるとか・・・)パスをした後に首を振ることが癖になるくらい意識して首振りをやらないといけない。中田英寿選手は、注意してみるとよく分かるが、試合中しょっちゅう首を振っている。

communication
(パスを要求するときに)ただ声を出すだけではコミュニケーションにならない。いつ声を出すかというタイミングも「コミュニケーション」にとって大切なこと。ボールをコントロールできていない仲間に「よこせ!」と言ってもボールは出ない。ボールをストップ(コントロール)して今まさに顔が上がる瞬間に「こっちだ!」と声をかけてあげることで相手とコミュニケーションが取れたといえる。大声出していればいいというものではないのである。

以上、「簡単すぎてつまらない」「暇すぎてつまらない」練習である21組でのインサイドキック練習を少しでもつまらなくなくすにはどうしたらよいか、湯浅氏の本を読んだ後に昔自分がやっていた練習方法などを振り返りつつ、考えたことを書いてみました。上記のようにすることで、そこそこ難しい技術練習になるし、大人でも、いや大人だからかもしれないが、5分もやれば結構息のあがる練習にもなるはずです。そして何よりサッカーにおける個人戦術の常識中の常識も学ぶことができるのです。

そしてこの方法を、昨日の3年生の練習でさっそく試してみました。結果はというと、やはりいきなり欲張って全部やるのは難しいですね。上記「暇対策」をやろうとする頃には、最初にレクチャーした「蹴る足と反対の足をボールの横に踏み込んで体重をのっけよう」「踏み込み足をパスする相手に向けよう」「足は蹴る方向にまっすぐ振ろう」なんてことはすっかり忘れて、思いっきり横蹴りしたりしていました。気長にゆっくり反復しつつやっていこうと思います。




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