濾材の濾過能力を評価する
濾材の濾過能力は、結局その「形状」だけで決まる。しかし、その形状の何が、濾過に寄与するのか。それが不明であった。水槽をいくつも用意して実験すれば定量的データが得られるが、1種1槽の比較では信頼性に問題があり、まともなデータを得るには大量の設備を要した。それは、とてもアマチュアの手に負えるようなものではない。
しかし、あるその手がかりを得たことで、形状の何がポイントなのか、そして、長期的にはどうなるのか、という点がわかるようになってきた。これは別の場所に以前から記載しているが、大切な項目なのでここに転記する。
- 生物濾過能力は、水との接触面積によって決まる。
- 長期的な有効接触面積は細かいおうとつを無視した見た目の表面積だけとなる。
- 生物濾過膜の表層から5ミクロンより深い部分は、酸素が届かないため濾過は機能しない。
- 多孔質の濾材はバクテリアの定着が早い。
(1)や(3)は、濾過能力は表面だけで決まり、水の通りが悪い内部の多孔質構造や、濾材の材質は関係しないことを意味している。
(2)は、濾過能力は時間と共に変化することを意味する。そこで、初期性能と長期性能に分けて考える必要性が見いだされる。これまで一般に言われてきた濾材の表面積は、現実のバクテリアの発生状態や、バクテリアによる空隙の詰まり等を一切無視し、材料に存在する表面積を単純に積算、推定したものであり、実際の運用においては全く参考にならない。
(4)は表現がツルツルのものよりは、でこぼこしていた方がバクテリアが取り付きやすく、剥がれにくいことを示している。これは直感的にも理解できよう。
これだけのことがわかると、濾材を観察するだけで濾過能力の推定ができる。今回は、この方法で定量的な評価を試みてみよう。
濾過の初期性能と長期性能は何によって決まるか
各種濾材の観察
多孔質構造のモデル化
詰まり率の推定
計算結果
濾過の初期性能と長期性能は何によって決まるか
初期においては、濾材の微細構造による表面積が濾過に寄与すると考えられる。しかし、バクテリアはどろっとした粘質のような形態になるため、ミクロンオーダの微細なおうとつ構造は濾過膜の定着には役だっても、濾過面積にはほとんど寄与しないと考えられる。推定が困難なこのミクロのおうとつが無関係になったことで、濾過面積の推定が出来るようになったと言っても過言ではない。
これまでの観察結果から、濾過面積として有効に機能するのは、コンマ数ミリオーダのおうとつからと考えられる。このオーダのおうとつが濾過面積として機能する期間を初期とし、このおうとつを含めた濾材の総面積を、初期性能とした。初期性能の高いものは、濾過の立ち上がりも早いことが予測できる。
初期に役立ったコンマ数ミリオーダのおうとつは、その後のバクテリアの増殖とともに粘質の中に埋まってしまい、次第に役立たなくなる。結局最後まで濾過に寄与するのは、1ミリ以下のおうとつを無視した、粒の外形寸法による表面積だけになる。このときの表面積を、長期性能とした。
しかし、現実にはコンマ数ミリオーダのおうとつが全て完全に詰まるわけではないので、上記の長期性能の評価は厳しすぎるといえる。そこで、詰まり率というパラメータを導入し、初期性能で求めた表面積×詰まり率と、1ミリ以下のおうとつを無視した前記表面積との、いずれか大きい方を長期性能と定めることにした。
各種濾材の観察
濾材を詳しく観察するため、拡大写真を撮影した。




左から大磯砂(細目)、ウールマット、洗車スポンジ(洗車スポンジ濾材)、シポラックスである。写真に写っているスケールの1目盛りは、1mm である。微細構造のサイズはなんとか目視で確認できる。このほかにも空隙率や単位体積当たりの濾材個数を測定した。これらの結果をまとめたものが次の表である。
| 種類 | 微細構造のサイズ | 空隙率(%) | 単位体積あたりの個数(個/L)
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| 大磯(細目) | 10ミクロン以下 | 0 | 1.12*10^5
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| ウールマット | 0.2〜0.4mm | 98.4 | 1
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| 洗車スポンジ濾材(小) | 0.3mm前後 | 98.4 | 1725
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| 洗車スポンジ濾材(中) | 0.3mm前後 | 98.4 | 480
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| シポラックス | 0.3mm前後 | 67.1 | 200
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微細構造のサイズとは、濾材の基本的な多孔質構造を形成している気泡のサイズや、繊維間隔のことであり、写真に写っているスケールと比較することで概略のサイズを求めることが出来る。大磯を除くと大体0.3mm前後で共通してるようだ。
ウールマットを構成するナイロン繊維の太さは、正確にはわからなかったが、今回は0.01mmとした。
大磯は粒の表面積だけが濾過に寄与するので、外形寸法を知るのが重要になる。細目大磯は写真のようにいろんなサイズの粒が混じっているが、これらの体積が、球または立方体で表すと平均していくつになるかがわかればよい。今回は1辺が1.6mmの立方体と仮定した。
空隙率とは多孔質構造内部に存在する空隙部の割合を表し、これは濾材の比重を実測して材料そのものの比重との比から求めた。ウールマットと洗車スポンジの空隙率は偶然にもほぼ同じである。
単位体積当たりの個数は、1リットルにその濾材が何個入るかを示す。これは最終的に濾過容器に濾材を詰めたときの濾過能力を知るための重要なパラメータである。
一般に、濾材は複数を容器に入れて使うため、濾材1個、1粒の濾過面積で比較するのは無意味であり、容器に入れた全体の濾過面積で評価しなければなならい。
このパラメータは、濾材の粒に比べ十分大きな容器に定量入れ、入った個数を数えることで簡単に調べることが出来る。左の写真は、シポラックスを300cc入れて測定している様子だ。
これらのパラメータは精度良く測定ができたら随時更新していくつもりである。
多孔質構造のモデル化
濾材の初期性能を予測するには微細構造の表面積を求める必要がある。しかし、これを計算する際に、多孔質構造をどのようにモデル化するかが問題である。
モデルを検討する上で大切なことは、モデルができるだけ単純で、計算に使うパラメータが誰でも容易に入手できるものすることだ。複雑すぎるモデルや、特別な測定機器を使用しないと求められないようなパラメータを使うのでは、役に立たない。これは、多くの人に検証、利用、発展、応用してもらううえで重要なポイントといえる。
ウールマットは繊維の集まりであるから、繊維の表面積を求め、シポラックスはトンネル構造とみなし、トンネル内壁の表面積で評価することにした。
問題は洗車スポンジ濾材である。この原料となっている洗車スポンジは気泡の集まりというよりは左の写真のように骨格だけの構造物に近い。これに、所々気泡の隔壁が存在する感じだ。
ちなみに左の写真は洗車スポンジよりずっと気泡の大きな別のスポンジを撮影したもので、隔壁はまったくない。洗車スポンジに光を当てるとキラキラ光る部分があるが、これが隔壁の部分である。
そこで骨格構造、気泡構造、トンネル構造などのモデルを考え、実際に試算した結果、トンネル構造として扱うのがもっとも実体に近いと判断した※。他にもっといいモデルがあったらぜひ提案いただきたい。
トンネル構造モデルによる表面積は、トンネルの直径=微細構造のサイズ、トンネルの体積=濾材の空隙率(空隙の体積)とおくことで、容易に求めることが出来る。
サブストラットは多孔質構造と言うよりはガラスの粉末を何らかのツナギを使って固めたものであり、トンネル構造モデルは適用できない。外形も不定形で表面積の計算も悩ましい部分がある。これについては今後の検討課題である。
※骨格構造では隔壁が考慮されないため結果が小さすぎ、また気泡構造では実際に計算で求められる数の気泡が濾材の体積の中に収まりきれないという幾何学的矛盾を生じることがわかった。
詰まり率の推定
詰まり率とは、濾材を長期間使用したときに、バクテリアによって多孔質構造が目詰まりすることで失われる、濾過面積の比率のことで、長期性能を予測する重要なパラメータである。
しかしながら、詰まり率は、微細構造のサイズのほか、気泡の独立度、空隙率、濾材自身の外径サイズなど様々な要素が絡んでおり、定式的に予測することが出来ず、現在のところ経験をもとに目算するしかない。今回の計算では、これを次のように仮定した。
| 種類 | 詰まり率(%)
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| 大磯(細目) | 60
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| ウールマット | 98
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| 洗車スポンジ濾材(小) | 60
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| 洗車スポンジ濾材(中) | 60
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| シポラックス | 90
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大磯の詰まり率とは粒同士の隙間の詰まり率を示している。これは濾過容器に入れる深さによって大きく左右されるため一概に言えない。上記の詰まり率は底面濾過を想定して20〜30mm程度の深さで使った場合を仮定している。
ウールマットはマット状の形状が災いして古い濾過膜が外に出ていきにくいため、経験上ほとんど詰まってしまうことがわかっている。
洗車スポンジ濾材はもともと隙間だらけの骨格構造なのと、大きい気泡が混合されている関係上、表層部や大きい気泡の外壁周辺や詰まりにくいと予測される。
シポラックスは空隙率が低く、空隙同士の連通もあまりよくないため、長期使用ではほとんど詰ってしまうと予測される。
計算結果
以上の前提条件をもとに計算した濾過能力(濾過面積)を以下に示す。

意外だったのは洗車スポンジ濾材の小サイズよりも中サイズの方が初期性能が高いことである。普通は、サイズを減らすと表面積は2乗で減るが、体積は3乗で減るため、入る個数が増えて結果的に表面積が増えるはずだが、実際は空隙が増えて相殺されてしまうようだ。
この計算はいろんな前提条件や仮定条件のもとに成り立っており、これらのさじ加減でグラフは上下する。前提条件や計算式をいろいろ変えてみたい人はいると思う。計算シートを公開するのでご自分でパラメータを変えて試してみて欲しい。
濾過面積計算ワークシート Ver1.0
今回取り上げていない他の濾材についても、このシートを利用して計算できる場合があるだろう。みなさんの手で応用、発展していって欲しい。
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