今回は勝負(試合)に挑む心得を私なりに記載いたしました。
勝負(試合)となれば、負ける方よりも勝つ方が良い事は誰でもだと思います。
でも試合に勝つためには自分自身に勝たなければ勝つことは出来ません、
相手に勝つことよりも、自分に勝つことが必要なのです。
試合に勝つと言う事は難しい事で、平素から熱心に稽古をしているからと言って
必ず勝つとは限りません。
しかし、平素から熱心に稽古をしなければ、必ず負ける事は確かな事です。
試合に勝つ人は必ず何かを持っている人だと言えます。
それでは勝つ人が必ず持っている物は何か、それが何だ?
と言われても口で表現する事は出来ません。
勝つ人の持つ、何かとはこんな事では無いでしょうか?
*試合までにコンディション作りをする。
普段の稽古ので、調子の良い日、良い日、少し良い日、普通の日、
少し悪い日、悪い日、大きく悪い日、と感じる事があると思います。
それをグラフにすると、波なのです。
波が盛り上がっている時が調子の良い時であれば、下がっている時は
調子の悪い時なのです、小波の時も有れば、嵐の時の大波の時も有ります。
競技では最高に調子がいい時は2,3日だと言われます。
ですから、試合の日に調子の良い日、波が最高に上がった日に持っていくように
コンディションを作る事が必要なのです。
又、波が最高でなくても盛り上がった方に持って行くようにして、間違っても
下がった方に持って行かないようにしなければならない事は確かです。
コンディションはその人の稽古や生活環境によって作り上げていく物です、あらゆる
競技の勝者はこのコンディション作りの上手い人であると言われます。
稽古の中のコンディション作りは指導者がしますが、生活環境の中のそれは
各自でしなければなりません。
*生活の中でのコンディション作り。
集中力を妨げるような事を自分の周囲に持ち込まないようにする。
心配や悩み事、また腹を立てたり、悲しんだりする原因を近づけない、
結局、わずらわしい事は持ち込まないようにする。
もちろん怪我や風邪などの病気等は論外である。
*食事と睡眠
肉食を減らし、タンパク質と魚、野菜、果物等を腹八分目にし、家の中で
ゴロゴロしたり、夜に遅くまでおきていたりする事無く、規則正しく、節度ある
生活を維持する事です。
ダラダラ休むことで疲労が取れると考えるのは間違いです。
試合前は少し痩せたかに見え、神経がビリビリと研ぎ澄まされた鋭利な刃物
の様な感じがある事が最高のコンディションであると言われます。
*試合前夜
試合前夜だから早く寝る必要はありません。
試合に必要な防具、特に竹刀はよく点検し、自分の手にフィットする事を確認する。
寝ようとするけれど、なかなか寝付かれない事は良くある事です、大選手。何十回
と試合経験を持った人でも試合前夜は眠れないものです。
こうゆう時、一番いけない事は、早く寝ないといけない、何とかして眠ろう、眠らないと
寝不足で明日の試合に勝てないなどと、悪い妄想に絡む事です。
こんな時は、反対に度胸を据えて、朝まで目を開けといてやろう、一睡もしないで
明日の試合は、堂々と戦ってやろう、自分の得意技のイメージ等を頭の中で
整理をするくらいの余裕が大切です。
人間の力は、一晩くらい寝なくてもそれほど落ちるものでは無く、徹夜で試験勉強
をする人はいないはずです。
*試合当日
神や仏に祈りたいと言うような気持ちになれば、謙虚な心で手を合わせればいいです。
自分は神仏に頼らないと思えばそれもいいでしょう。
ようは無理なポーズを取らない事です。
強がりは最もいけない、胸が高鳴り、手足が震える、固唾を飲む、当然の事です。
人間である証拠で、素直に有り難く震えていれば良い、吸う息は、交感神経を刺激して体を
緊張させる。吐く息は、副交感神経を刺激して、体や心をリラックスさせてくれる。
だから意識して早く吸い、ゆっくり長く吐く事により緊張がほぐれる。
ただ1つだけ頭に刻み込んで
欲しいのは「私はこの日のために苦しさに耐え、厳しい稽古をして来た。今からそれが
どれ程のものか、試してやる。」と言う気持ちを持つことです。
*試合場では
自分の出番がいつ頃になるかを逆算し、便所、食事、ウォーミングアップ等をする。
出番がいよいよ近づくと喉が渇くが水分補給は控え、うがいをするか、口をすすぐ程度にとどめて
レモンを噛むと良い、レモンは喉の渇きを抑え、疲労回復に役立つ。
待機中は、神経を疲労させる事はさけ、仲の良い友達と雑談をするか、軽い音楽を聴くのも良い。
あまり気をいれて他の試合を見たり、会場をぶらつくのは体力を消耗するので避けた方が良い。
自分のお相手が分かっていれば、その人の試合は見ておくほうが良い。
この場合、お相手の攻撃ををどのように防ぐのでは無く、お相手の癖や、
防備の甘い所の発見に力を注ぎ、その攻め方を考える事に専念する事です。
「人を知り、己を知れば百戦危うからず。」と言われます。
*相手と立ち向かえば
剣道は立会いが大切です、審判の“始め”の号令で試合が始まるので無く、コートに
入り、礼をし3歩出るその間が大切なのです。
その間に気分を最高に高める事でお相手より1歩先じると言われます。
この短い時間で勝負はほぼ決まると言っても過言では無いでしょう。
審判の”始め”の号令から、大きな声で気合を入れ、お相手を攻める、気合が入れば気も落ち着き
お相手が良く見えるようになります.。
気合が入り、少し攻めお相手を良く見る、充分時間はあるので、よく観察するが、あまり間合いに
入りすぎると危険なので気を付けて攻めなければいけない。
足の運び、両手の構え、姿勢など全体を観察し、お相手の特徴、くせを速くつかみ、お相手の
弱いところ、弱点を色々な方法、方向から攻める。
*試合の反省
試合までは、目の色を変えて色々と考えるが、終わると何も考えない人が多い。
試合に強くなる秘訣は、試合後の反省です。
試合は勝って益々謙虚になる事。
そして、冷静に勝った原因を調べ、ピンチを切り抜けた時の精神状態やその技術を忘れないように
記録する。
負けた場合は、審判の責任や、前夜良く眠れ無かった等、色々な口実をつけ、自分以外の人に
押し付け、自分の責任から逃げたがる。
しかし、敗因を自分以外のものに押し付けている間は、その人に向上は無く、次の試合も
負けるでしょう。
反省は、敗因を次の試合に生かせる反省でなければなりません。
まだまだ記載すれば限りがありませんが、これだけは覚えといて下さい。
*結び
常によく考えて、自分を厳しく律し自分の持っている今、最大の技術を発揮できるように
努力する事が大切です。
さらに言うなれば、平素の稽古を熱心に骨の髄から汗を流し、剣道の理念に沿った
稽古に励む事です。
白剣 剣報 2001年11月1日号
文 一岡正紀
「勝負に挑む心得」