幻の船 「ゆり丸」 なぜ幻と呼ばれてるのか?
実はこの船、自分の航路を持たず、各地にピンチヒッターで応援に行く為の船なんです。
船も車の車検と同じように、年に1回ドックに入らなければなりません。
しかし離島航路などは、1隻の船が往復して頑張ってる場合が多く、その虎の子の1隻が休んだら島は干上がってしまいます。
そこでこの「ゆり丸」が ピンチヒッターで頑張ります。
八丈島に行ったり、小笠原に行ったり、鹿児島に行ったり。
なかなか会えない「ゆり丸」が、今回近場にやってきます。
伊豆下田から、新島・神津島などを回る神新汽船「あぜりあ丸」が 今月中旬にドック入りとなり、 毎年恒例の「ゆり丸」登場です。
関東エリアの船マニアは、この期間を狙って、わざわざ乗りにやってきます。
マニアは船に乗るのが目的。島で下りなくてもいいんです。
そんなわけで、神新汽船では普段から「ワンデークルーズ」チケットを販売。
伊豆下田港から、利島、新島、式根島、神津島を廻る約7時間の船旅が楽しめます。 (曜日によってコースが逆になります)
窓口で「ワンデー下さい!」 と言うと、窓口のオバさんが笑顔で対応してくれます。
「お客さん、お弁当持ってますか?」
そうそう、普段の「あぜりあ丸」ならカップめんの自販機がありますが、「ゆり丸」にはジュースしかありません。
9:20出航、16:20入港では、弁当無いと辛いんです。
「お客さん、今日は ゆり丸なんで、帰りが遅くなるかも、5時過ぎるかもしれませんよ」
「ゆり丸」は「あぜりあ丸」より若干足が遅いんです。
12ノット(約21キロ) エンジンは2,000馬力だったかな?
これは 旧日本海軍戦闘機「紫電改」と同じ馬力。
紫電改は重量3トンで 時速600キロ
ちなみに「ゆり丸」は 500トンで 時速21キロ
出航10分前になっても乗客は私ひとり。
貸切かと思っていたら、直前で新島行きのオヤジさんが乗船。
最後に おなじ「ワンデー」のマニアが1人。合計3人です。
もっともメインのお客は貨物なので、心配要りません。
「ガガガガガ・・・」2000馬力のディーゼルが動きました。いよいよ出航です。
伊豆下田港を出港します。
左接舷の「ゆり丸」は 右のアンカーを巻きながら、船首を右に振り、一拍遅れて機関前進、舵は左。
「あぜりあ丸」と同じく、右にスライドして離岸しますが、舵角が大きくないらしく、真横への移動は今ひとつ。
離岸した「ゆり丸」は、「ゴゴゴゴゴ・・・」とエンジン音を上げて港の外へ。
湾内は制限速度もありユックリと進みます。
防波堤を越えると太平洋。
さあ、ココからはさらにパワーアップして、最初の島「利島」に向かいます。
全速前進! 「ガガガガガガ・・・」 というエンジン音を期待したのですが、いつまでたっても先ほどの
「ゴゴゴゴゴ・・・」のまま。
既に全速だったようです。
初めての船に乗ると、ココからは船内見学の時間なのですが、これは先ほど出航前に、
5分で終わってしまいました。
客室は座敷が3つ。 後甲板に展望デッキ。 2帖ほどの喫煙室。 1個だけのジュースの自販機。
男子トイレ。 女子トイレ。 これで全ての探検が完了。
客室は3つあわせても学校の教室程度。
定員は90名らしいですが、これは外甲板のベンチも合わせた数字。
今回は乗客たったの3人なので、広々と大の字になって寝ることにします。
なにせ、今朝は3時起き。 下田港まで片道215キロを走ってきたので眠い眠い。
外海に出て、うねりも出てきたらしく、良い感じの揺れになりました。
利島まで1時間寝ることに・・・・・・ZZZZZZzzzzz・・・
「お客さん、お休みのところすみません」
乗務員さんが私のところまでやってきました。
「お客さん、利島は通過になりました。 このまま新島に直行します」
利島の港は、湾になっておらず、外洋に1本突き出た桟橋に接岸する為、
波が高いと接岸できないことの多い島なんです。
私ともうひとりのワンデー乗客は問題有りませんが、隣で寝ているオジサンは・・・・
一旦目を覚まして、また寝てしまったので、これまた問題ないんでしょう。
新島までまた寝ることに・・・・・・ZZZZZZzzzzz・・・
「ガコン、ガコン、ガコン・・・」と大きな音がして目を覚ましました。
かなり爆睡していたようです。
音の主は、前甲板の貨物室のカバーを開ける音。
大きなカバーが、アコーディオン式に折りたたまれて開きます。
エンジンの音が静かになって「ゆり丸」は減速。新島に到着です。
さっきまで寝ていたオジサンは、慌てて飛び起きて、下船していきました。
カバーの開いた前甲板からは、クレーンで荷物が吊り上げられて、桟橋に下ろされます。
新島を予定より30分早出航。
予定の貨物さえ積めれば、人間はあまり乗らないので問題無いんでしょう。
新島を出航した「ゆり丸」は、東海汽船の「かめりあ丸」とすれ違います。
「かめりあ丸」は昨夜遅く東京の竹芝桟橋を出航し、終点神津島で折り返して これから東京に戻るところです。
新島から式根島はすぐそこ。 泳いでも渡れそうな距離に見えます。
式根島では数個の貨物と郵便を下ろしただけ。
乗客の乗り降りはありません。
式根島から神津島までは、時刻表では50分なのですが、きょうは西風が強いとの事で
島の東側にある 多幸港に向かいます。
島の裏に回るため、余計に時間がかかるのですが、島の裏を見ることが出来るので
喜ぶマニアも多いそうです。
神津島の裏側は 「ココが例の尖閣諸島か!」 と思ってしまうほどの絶景です。
港もコンクリートの桟橋が海に突き出してるだけ。
お土産やどころか、民家もなにもありません。
観光のつもりで神津に来て、裏で下ろされたら目が点になりそうです。
「こんなとに入港したって、誰も乗らないだろうに」 と思っていたら、
なんのなんの、釣り客らしい団体さんや、地元のオバサンがドッと乗ってきました。
学校の教室程度の船室は、20人ほどのゴロ寝と釣り道具で、たちまち満員です。
ココから下田まで約2時間半。
かなり揺れてきたので、船内を歩きまわることは諦め、客室でゴロ寝します。
足を船首側に、頭を船尾側にして寝てみました。
体が グググ-っと持ち上がり、 一瞬止まって次にドドド-っと落ち込みます。
横からの波もあるようで、体がゴロリと転がります。
毛布で堤防を作って、体の回転を止めないと、いい加減に腹筋が疲れます。
私の隣にいたオジサンは、いつの間にか、かなり遠くに転がって寝ています。
小笠原に48時間かけて行く、貨物船「共勝丸」に乗りたいのですが、
この程度で根を上げるようじゃ、まだまだ青いです。
結構揺れてきました 横揺れも出てきました
乗船前に窓口のオバサンに「帰りは遅くなるよ」 と言われたのですが
利島を通過した為に、予定より早く16時過ぎに下田に帰って来ました。
約7時間の船旅もおしまい。
せっかく下田まで来たのですから、温泉入って魚食ってビール飲みたいのですが、
これから海のない埼玉の自宅まで、215キロの運転が待っています。
日曜の夕方。行楽帰りの渋滞は必至。
次の船旅計画でも練りながら、ノンビリ帰ることにしましょう。