スカイダイビング記-5
空へ スカイダイビング編-34 「AFF-1」
ぺリスから帰って半年。1994年。
ジャンプ回数が500回を超えたころに、イントラの試験を受けないか、と言う話が持ち上がりました
「そろそろ じゃんぷらん君もイントラにならなきゃ」
イントラのS村氏が声をかけてきました。
「重量級のイントラが欲しいんだよなあ」
なるほどS村氏の言う通り、今のイントラはほとんどが軽量で、大型のスチューデントには苦労しているようです。
「重量級ならK田さんも誘わなきゃ」
AFFの試験は2人でペアを組みます。
受かるも落ちるも一蓮托生。なんといっても2人の息が合わないと始まらない。
「K田さん AFF狙わない?」
「えっ? 俺っ?」
「イントラになると もてるんだってよー」
2人とも、この風貌では 色気のある話には全く縁がありません。
「でもさあ、俺達ってイントラになっても、降ろすのは重い男ばっかりで、女の子とは飛ばしてくれないよ」
「・・・・・・・・・・・・」
AFF試験は座学と地上実技試験・空中実技試験があります。
難しいのは空中実技試験。
試験官がレベル3の生徒役で2人の候補生がイントラ役。
まあ当然、まともに飛んではくれません。
動き回る生徒役の試験官を押さえ込み、安全にプルさせるられるかが採点のポイントです。
1回が4点満点 全6回で12点取った時点で合格。
実際のところ、3点や4点はなかなか貰えるものではないので、毎回2点を確実に取るのが目標です。
2日間の座学はあっけなく終わりました。
試験官はアメリカから来た、ダンとビリー。
講義は英語で行われますが S村氏や英語の話せるジャンパーが通訳をしてくれます。
「学生時代 これだけまじめに英語の勉強してたら今頃ペラペラだぞ。 今からでも勉強しなくちゃ」
英語が苦手な私は、毎回思うのですが、なかなか勉強できません。
明日からは、いよいよ実地試験です。
実地1回目のジャンプ。
試験官は大男のビリー。
「K田さん これならビローの心配はないな。」
生徒役のビリーを抑え込み空中へ。憎たらしいことに、わざと足をバラバラにして安定を崩します。
いったんリリースしたものの スライドを始めたので、つかみなおしてアーチのサイン。
5500ft 「高度計を見ろ」のサイン 「ファイブ・ファイブ だ!」
私とK田氏、2人同時にプルのサイン。 「早く引けっ!」
なんとここでビリーは、リップコードに手を添えたまま前進で逃げ始めます。
「おいおい そう来たか」
メインサイドの私が追いかけ、ビリーをつかんでリップコードを引いてやり、反対側にいるK田氏に、引き抜いたリップコードを見せてブレイクします。
「よしっ! OKだ」
ランディング後は、イントラ役のまま生徒役に対して反省会。
もちろんこれも試験のうち。
「リップが固くて引けなかった 引いてくれてサンキュー」
ビリーがとぼけて言います。
(ったく 最初っから脅かすなよ)
ここで試験終了。あとは採点結果を待つだけ。
ビリーは地上から機内・空中と順番にミスを指摘します。
(そんなことより 早く点数教えろ!)
空へ スカイダイビング編-35 「AFF-2」
ビリーから英語で注意点や減点ポイントを説明されるのですが、当然英語なので詳しいことは解らず、
英語が達者なジャパーに、通訳をお願いしてのブリーフィングとなります。
そして最後に点数が発表されました。結果は・・・・・2点。
何が何だかわからないまま、とりあえず1回目を終えました。
各ジャンプの前には、グランドトレーニングの試験もあるので、1日に飛べるのは1回か2回。
1週間の長丁場なので、受験生はクラブハウスに泊り込みで頑張っています。
夜は「作戦会議」と称した飲み会が始まります。
「じゃんぷらん君 会社は大丈夫なの?」
M氏とペアを組む、銀行マンO野氏から問いかけられました。
「クビ覚悟の無断欠勤ですよ~ O野さんだってこんなに休んだら出世できませんよ」
夏休みでも冬休みでももない11月に、1週間の休みを取るのは、サラリーマンにとって至難の業。
その点、館林から来た M井・Y中ペアは自由業らしく余裕があります。
「Y中さんってベンツ乗ってるけど なにやってる人?」
「さあ?」
「飛行機のライセンスも持ってるらしいよ」
「カタギじゃねえな」
試験官は様々な罠を仕掛けてきます。
1回目が終わった段階で「夜の作戦会議」は情報交換の場となりました。
「まいったよ~ ビリーがさあ~ チェクアウトしないで出ちゃうしさあ~」
「俺達なんか ダンが・・・・」
「ちょっと待って!」
近くにダンがいるのに気づいた私は、Y中氏の言葉を制しました。
後日ダンに 「今回はチームワークが良く 特に夜の会議はすばらしい」
と言わせましたが、情報交換の内容を聞かれると、翌日裏をかかれるおそれがあります。
「ダンに解らないように、全部日本語でやろうや」
私の提案にY中氏はのってきました。
「よし俺から。 搭乗前の機材検査で 肩部離脱機の 三輪を見たら 二輪になってるんだよ」
「何 離脱機?」 「ミワって?」
Y中氏は肩に手をやり「いや、だから 肩の3つの輪っかが こういう風に・・・」
「ダメ ダメ!」 「Y中さん ゼスチャーはダメ ばれちゃうよ」
酒が入ると私ものってきます。
「航空機の緊急事態を想定し、操縦士が故意に発動機の回転を減少せしめ 緊急脱出の手順を試験する場合もあるそうでござる」
「左様でござるか」
この時、私にはまだ余裕がありました。
過去の例からしても過半数は合格しているし、最初のジャンプでわざと辛い点数を付けて次回の反応をチェックするという話も聞いていました。
「K田さん。明日から3ポイントずつ頂いて 一抜けしようや」
翌朝、2回目のジャンプ。
今回はイントラのT内氏が試験官をつとめることになりました。
「Tちゃんもイヤな役だよなあ。仲間の試験はつらいよなあ」
なんとなくT内氏の気持ちが解るような気がしました。
試験を甘くする訳にもいかず、落とすのもしのびない。
「じゃんぷらん君を落とすと あとが怖そうだからな」
笑いながらK田氏が言いました。
「カットー」
私とK田氏は、T内試験官を押さえ込んでジャンプ。
「まずい!」
EXITのタイミングも悪く、エアーでも全てにおいて後手に回る。
当然 T内試験官は自分ではプルせず、私がダミーリップを引いて試験終了。
オープンして思い返す。
(EXIT失格・・・エアーはまるでダメ・・・プルはしてやったので、まあ1点かな。
0点ということはないだろう)
採点の基準は EXIT・エアー・プル。 さらに次のように、いくつかの禁じ手があります。
オープン高度で試験官の上に入る。6000以下でのリリース。
4000以下でのプル 等 1つでも破れば他が満点でも即0点。
結果は・・・やはり1点。
自分の頭では、2点ずつ6回で12点を取れば良いと、加点法で考えていたのですが、
どうやら、減点がトータル12点になった時点でアウトの、減点法に考えを改めないといけません。
2回目の試験で、今の自分の腕では、マイナスが先行すると挽回は難しいことを、なんとなく感じ始めまていました。
空へ スカイダイビング編-36 「AFF-3」
メインの試験官は2人のアメリカ人ですが、その他 地上のスタッフとして手伝いをしてくれるジャンパーがいます。
今回はS村夫妻が、地上スタッフのまとめ役。
「じゃんぷらん君 どお?」
S村氏の奥さんが心配そうに声を掛けてきました。
「借金背負っちゃったよ~」
「弁当届いてるから食べてよ」
地上スタッフは候補生の全員合格を祈り、負担を掛けないようにと車の手配や買い出し 弁当の準備までしてくれます。
S村夫妻にしても、数年前自分たちが歩いてきた道。候補生の心理は良く解ります。
(イントラになればモテるぞと、甘い考えで受けた試験。どうやら間違いだったかもしれない。合否も自分だけの問題ではなさそうだ)
我々ペアにとって、次が正念場です。
3回目のジャンプ。
今度はダンが試験官。
「ダンには注意しろ!」 前夜の作戦会議でM井氏が言った言葉。
その言葉通り早速地上から罠を掛けられました。
良く見たら、リザーブのリップコードが逆に付いています
これに最初に気付いたのは、そばにいたY中氏。
飛行機に乗り込もうとした私に近づき、小声で「・・予備傘・・」
このころから、地上の罠はチームワークでカバーしていました。
M井・Y中ペアの時、試験官のビリーがヘルメットを逆にかぶっているのを見つけた私は
「頭のかぶりもの 反対」とM井氏に合図しました。
(カタカナを使えないは結構しんどい)
今回はインサイドとアウトサイドが変わり、私がアウトサイドへ付きます。
そしてスポットも私。
12,500ft 上尾団地上空から西に向かってへ進入。
「早めにカットする」とK田氏に告げました。
今まではクライムアウトに時間をかけすぎ、EXITが伸びてしまったので、今回は川の東でカットしようと思ったのでした。
「カットォー」 「クライムアウトォー」 ダンのライザーをつかんで機外に。
「アアッ!」
と、なんとダンはチェックもせずに、転ぶように出てしまいました。
(しまったー!)
そのまま押さえ込み安定はさせたものの、いきなりの事で焦りがあります。
(勘弁してよー)
文句を言ってる暇はない。あと40秒で全てが決まる。
リザーブサイドの私はメインサイドのK田氏をアシストする。
5000ft。 ダンは案の定リップコードを引かない
「K田さん! 引けー!」
K田氏がダミーリップを引いた。
(引いたぞ!)
K田氏は私にダミーリップを見せ笑顔でトラッキングに移る。
「やったー!」
東側の川の上でオープン。
「今回はうまくいった。2点は間違いない。うまくいけば3点で借金が返せるぞ」
ホッとして2000ftで大きく深呼吸。
ランディングして ダンをスチューデントに見立て EXITの注意 エアーでの注意をして そこで試験終了。
しかしこの後、予想外の結果が出てしまいました。
空へ スカイダイビング編-37 「AFF-4」
「2ポイント取れたか? 上手くいけば借金返済か?」
結果が出るまでの間が、少しだけの息抜きになります。
「ダンが先に出ちゃたから焦ったよ」
インサイドのK田氏は構える暇もなかったはず。
「K田さん 焦ったろう。 ダンのやつ足がすべったなんて言いやがってよおー。しかし次から次に、良く嫌がらせ考えるねえ」
「おい! ダンがきたぞ!」
ダンが笑顔で採点表を持ってやって来た。
(頼むぞ、2ポイントか 3ポイントか)
「・・・1 Point」
「ワンポイント?」
2人は耳を疑いました。これでたった1点・・・
「これで1点か? どこが悪いんだ?」
ダンは説明してくれました。
2m以上離れてはいけない。つかみすぎてもいけない。
早い話 スライドやターンで暴れる試験官に、ノーコンタクトでピタリと着いて行き、手のサインで指示をしなくてはいけないという事。
「ビデオ見ようか」
2回目のジャンプから カメラが付いていました。
「EXITはOKだよな・・ 」
「リリースもOK・・ 」
「そろそろ6000位かなあ・・」
「んっ? これか。」
確かに6000で、ダンの動きに一瞬遅れたため、2m程度離れ、すぐにまた戻っている。
「これで1点じゃあ 3点4点は無理だ」
私はこれまで2-1-1 このあと3回を3-3-2で飛ばなくてはならない。
「こりゃ難しいな・・・まあとにかく、いける所まで行こうか」
クビ覚悟で会社を休んでいる私にとって、落ちることは許されません。
会社には「本田飛行場に居る」だけ言っただけで、ここ数日電話もしていません。
「仕事 たまってんだろうなあ~」
そんな時、タイミングが良いのか悪いのか、タワーのスピーカーで名前を呼ばれました。
「えー。 ダイバーの じゃんぷらんさん。 会社から電話が入ってます。」
携帯電話の無い時代です。
「じゃんぷらん君 ついにクビかい?」
< class="character">「</> 「かもね クビになったらアメリカ行って AFF受け直すよ」
S村氏が通訳したらしく、試験官のダンまで心配そうな顔で近づいてきました。
「マイ カンパニーの ボスが アングリー。 メイビー ファイヤー ね。」
精神的に限界が近づいてきました。
3回目のジャンプが終わったあたりで各ペアに差が出てきました。
今もところ 合格圏内はM氏だけ。
「Mちゃん 身軽で猿みてえだからなあ」
確かにM氏は抜群の運動神経を持っています。
しかしM氏とペアを組んでいる銀行マンのO野氏は「禁じ手」で0点を取ってしまい、後が辛くなってきました。
「Mちゃんは3点で O野さんだけ0点だって?」
「エアは良かったんだけど、プルの時、試験官の上に乗っちゃったんだって。」
「あちゃ~・・・」
M井・Y中ペアは、過去にもAFF受験の経験があり余裕を見せていますが、ポイントは思ったように伸びません。
U山氏も3000ft以下でプルしてしまい、試験官にたっぷり絞られたうえ、0点となり後が無くなってきました。
「8人のうち まさか合格はMちゃんだけってことは無いよなあ。」
「ん~。 こんなにポイントとれないとはなあ~」
空へ スカイダイビング編-38 「AFF-5」
なかなか伸びないポイント。
私もかなり苦しくなり、弁当を口にしなくなってきました。...
「3度のメシより御飯が好き」とみんなを笑わせていた私ですが、ここ数日食欲がなくなって、弁当を残します。
「じゃんぷらん君が ごはん食べないなんて・・・・」
S村氏の奥さんが、信じられないと言う表情で言いました。
「この間 回転寿司行ったとき、うちの2人分よりお皿の山が高かったじゃん」
4回目のジャンプ
今度も試験官はT内氏でした。
我々2人にとって、ここが正念場です。
ここで大失敗して0点だと、持ち点が無くなり、自動的に打ち止めになります。
今回は再度 私がインサイドに付きます。
「クライムアウト」「構えて!」
「あっ!!」
こちらが、まだ構える前に、T内試験官は、チェックもせずに転がり落ちてしまいました。
またしてもやられました。完全な失敗です。
おまけにインサイドから出た私は、いきなり出たT内試験官に、乗りかかるように身体が立ってしまいました。
(あああ~ これで大減点だあ~)
不安定な試験官にサインを出す
(アーチ) (足をまげて)
(腕っ! 腕っ! )(アーチしろってば、コノヤロウ!)
「上手く飛べってサインはないのかなあ?」
そう言って、夜の勉強会でみんなを笑わせたのはY中氏でした。
「じゃあ背中に抱きついて、4ポイントよこさねえと、このまま心中だあーって、サインも作っとくか」
・・・4000ft でブレイク 瞬間、メインサイドのK田氏を見る。
上手く試験官のプルが出来たようで、なんとなく笑っているように見える。
(どうだ、生き残ったか?)
東からのジャンプランでしたが、試験官がいきなり出たので、オープンは川の上です。
・・・2000ftで滑走路の上。 上空には次のグループの傘。
(U山ペアはどうだったかなあ?)
・・・1000ft ブルーシートの上に戻ってた。
(これは0点か 1点か?) (運じゃ無いよなあ 実力だよなあ。)
2+1+1+1だったら、次は 3+4取らなきゃ・・・
この簡単な足し算を、空中で何回計算したでしょうか。
・・・500ft ファイナルターン。
(K田さん 次 どうするよ?)
「自分は今 試験官だけど 終われば仲間のT内だからね」
2人に良い点を告げられないT内試験官は、なんとも辛そうです。
「K田さん2ポイント。 じゃんぷらん君はEXIT失敗が大きいね 1ポイント」
夜の作戦会議はみんなゲッソリしています。
相変わらず無借金はM氏のみ。M井・Y中ペアはあと1歩。
U山ペアは持ち点が無くなってここで打ち止め。
「明日から4ポイントを連続でとらんなあかん」
銀行員のO野は酔うと関西弁になってきます。
今まで4回で4ポイント。私より辛い位置にいます。
先週の土曜日から始まった試験。最初の2日は座学があり、月曜からジャンプが始まりました。
が、しかし、11月の桶川は天候が悪く4回のジャンプに5日を費やし、いつの間にか金曜日になっていました。
空へ スカイダイビング編-39 「AFF-6」
また週末がやって来ました。
「今日は土曜かあ~」
「ファンジャンパーが来るよなあ」
1週間前 私は思っていました。
「金曜までに合格して、週末はお祝いの10WAYだ!」
ところが予想もしていなかった結果で、食欲まで無くなっています。
今日も雲は多いが、飛べないことはなさそうです。
私はギアを持ち 一足先にDZに向かいました。
今まで1週間。身体を暖める為にランディングエリアを軽く走っていましたが、この日は迷いを断ち切るため、南側のエンドまで走り、駐車場に戻った時には、既に他のメンバーとファンジャンパーが集まっていました。
「じゃんぷらんさ~ん。どうだった~?」
今年ジャンプを始めた、看護婦のK又ちゃんが声をかけてきました。
「・・んん・・・・・・ だね・・」
「元気無いジャン」 「じゃんぷらんさん らしくないよ~」
雲が多くファンジャンパーも待機中ですが、試験を続けるか諦めるか、そろそろ決めなくてはいけない時間です。
(Mちゃんは今日決めるだろう。M井・Y中ペアも、明日には合格かな)
(しかし月曜から仕事なのに、この天気じゃ日曜まで終わらないぞ)
(いや待て待て、仮にイントラになっても、この実力じゃやってけないな)
(試験のおかげで、ジャンプ嫌いになったな~)
(ってことは、イントラにはむいてないって事だな)
導き出された結論がこれでした。
周りを見ると、考え込んでるのは自分だけ。
数メートル先のジャンパー達は、別世界のように楽しそうです。
ここまで4回で、5ポイントしか取っていません。
今の腕では、あと2回で7ポイントは無理。
それに、この天気。
この土日は、飛ぶのが難しいでしょう。
試験は月曜も行う予定ですが、休みは日曜までしか取っていません。
「止めるなら早い方が良い」
「よしっ! もう飛ばない!」
ここでギブアップ宣言です。
「じゃんぷらん君。試験本当にやめるのか?」
「んん・・・・・」
「だったら 雲多いけどファンジャンプで入れとくか?」
「いや。 ジャンプが嫌いになっちゃったよ。俺、ちょっと休憩だ」
同じくギブアップのK田氏も、横で聞いていたK又ちゃんも驚きました。
今までどんなに天気が悪くても必ずクラブハウスに顔を出し、飛びたい飛びたいと空を見上げていた、私の口から出た言葉とは思えません。
自分自身、なんでこの言葉が出たのか驚きでした。
私はそのままギアを背負い 自分の車に向かって歩いて行きました。
リアシートにギアを置き 運転席をリクライニングして目を閉じ考えました。
「これでもう 飛ばなくていい・・・」
空へ スカイダイビング編-40 「AFF-7」
飛ぶのが嫌になり車で寝ているうちに、いつの間にか午後になっていました。
天気も少しは回復したようで、ファンジャンプが上がっていますが、11月の日没は早く、今日の最終ロードは、そろそろ締め切りになりそうです。
飛ぼうか飛ぶまいか・・・
このまま帰ると、飛ぶのが本当に嫌になりそうだし、車に戻った手前、今更マニュフェストに行くのもバツが悪いし...
「・・・コツ コツ・・・」
悶々としているときに、車のウインドウを叩いたのはK又ちゃんでした。
「じゃんぷらんさん 元気出して飛ぼうよ。 K田さんが500回記念やるんだって」
そういえば試験前 K田氏の回数は490回を超えたところでした。
「・・じゃあ・・ 飛ぶか・・」
(よし、ファンジャンパーに戻ろう!)
明るく誘ってくれたK又ちゃんに感謝して、車から降りマニフェストに走りました。
「K田さん 500記念 パーッと飛ぶかー」
「いや・・・・ 今ログブック見直してたんだけど・・・」
「えっ? けど? 」
「さっきのジャンプが500回だった・・・・」
「・・・さっきのって・・あの 不合格が決まったやつ?」
「・・・ハ・・ハッハッハッハ・・・」
2人は1週間ぶりに、笑ったような気がします。
結局この日は雲が多く、ジャンプは3000ft以下に。
AFF試験も、結局行う事はできませんでした。
月曜の朝。出社した私を待っていたのは、同僚の白い目と、仕事の山。
しかし予想した最悪の事態、つまりクビは避けられました。
が、当然の報いで、その夜から残業の嵐。
その夜、私は残業中にK田氏に電話をしてみました。
予想どおり天気が悪く、試験は日曜までには終わらず、最終結果を見ないまま会社に来ていたので、今日の結果が知りたかったのです。
「M井さんとY中さんは合格したぞ。」
「そうか これで3人受かったか・・」
Mちゃんは6回目のジャンプをまたず、5回目で通算12ポイントゲット。
日曜日のうちに合格が決定していました。
「8分の3かあ・・・・少なかったな~」
(そういえば・・・)
(スタッフにお礼も言ってなかったなあ。)
我々のためにボランティアで働いてくれた地上のスタッフたちや、会社のことまで心配してくれたS村夫妻のことを思い出しました。
(お礼 言っとかなきゃ)
そう考えて、残業中にS村氏の自宅に、FAXを送ることにしました。
『地上支援 まことに有難うございました。皆様のおかげで試験に集中することができました。
残念ながら空中ではポイントをあげることが出来ませんでしたが、会社では連続4ポイントを獲得し、
かろうじてクビがつながりました。』
さあ、この山と積まれた仕事。とりあえず急いで片付けなくてはなりません。
今週末ファンジャンプをするために。
スカイダイビング記-6 編集中