マスワリとは
■ポケットビリヤードにおいて、ゲーム最初のプレイ(ブレイクショットと呼ぶ)から、最後のボールまで一度も順を変わることなく一人でプレイを終えてしまうことを言う。
つまり完全試合であり、マスワリを出し続ける限り相手が世界チャンピオンであろうとどうすることもできない。
■たとえばナインボールというゲームではブレイクで9番が落ちて勝ちとなることがある。あるいは途中で合法的に9番が落ち、ほかのボールが残っていても勝ちとなることがある。しかしこれはマスワリとは呼ばない。
最後の9番まで落とし続け、テーブル上にはなにも残っていない状態のみをマスワリと呼ぶ。
■マスワリの語源について僕は知らない。ただ、日本のポケット・ビリヤードの本場であった関西において、ゲームの数を「マス」で数える慣習があり、これは現在広く使われている。「あと5マスお願いします」と言えば「あと5ゲームやりましょう」という意味。
以下は推測だが、升目のノートブックに勝敗を記する店があり、パーフェクトゲームのとき升目に斜線を書いたのではないだろうか。マスに斜線で「マスワリ」---違うかな。ご存じの方はお教えください。
■英語ではBreak In And Run Out、略してBreak Run Outと呼ぶ。
■通常、マスワリという用語はナインボールというゲームで使われるが、ナインボールの延長のテンボール、あるいはローテーションでも使われる。場合によってエイトボールでも使うことがあるかもしれないが、正しい使いかただとは思われない。
■ブレイクでなにも入らず順を交替。代わった相手が全てのボールを落とすことを「裏マスワリ」=「裏マス」と呼ぶ。
■マスワリと裏マスでは、おそらく裏マスのほうが難しい。なぜならマスワリではブレイクというラフなショットで既にボールが落ちているところからスタートする。場合によっては3個、4個(稀にそれ以上)が落ちてからスタートする。自分のコントロール能力で落とし続けるボールの数が裏マスのほうが多いのだ。
しかし、マスワリの偉さに比べ、裏マスは偉くない。これは麻雀において役ができる確率より上がった形の美しさで点数が高い場合があるのと同じことである。あるいはプロ野球選手の成績でホームランの数ばかりが話題になり、三塁打の数が話題になりにくいのと同じである。
■マスワリを連続する場合、「二連マス」、「三連マス」と表現することがある。もちろん「マスワリ二連発」という表現も用いられる。
■日本で盛んに行われているナインボールというゲームは、ビリヤードのゲームのなかでは簡単な部類に入る。プロであればマスワリを5連発、6連発することは容易にあり得る。
アマチュアでもちょっとしたプレイヤーなら連発してくる。
マスワリの難易度はゴルフのバーディに近いと思う。ゴルフをする方はそれをイメージして頂きたい。
■総合して、マスワリというのは試合における単なる一経過に過ぎない。試合の勝敗はマスワリの数には関係ない。プロであれば「これがもし入ればマスワリ、しかし入れるのは難しい」というシチュエーションならばセーフティ(自分の番を捨てるかわりに相手に悪い配置の球を残す)を選択する。
マスワリの数にこだわるのはアマチュアも中位以下。つまり、年間マスワリ目標を決めている僕は間違いなく上位者ではあり得ない。
■フランシスコ・ブスタマンテ(フィリピン)と、ジョニー・アーチャー(アメリカ)という二人の有名プロがはじめて対戦したのは公式戦ではなく、夜のテーブル(つまり相当のお金を賭けてのゲーム)だった。
9ゲーム先取で、先攻をしたのはアーチャー。そのときなんとアーチャーはマスワリ9連発を出し、相手のブスタマンテに一度も順をまわさなかった。
しかし、そのゲームが終わったと同時にブスタマンテはこう言った。「もう一つ行こう」。
伝わるところによると、その夜、お金を懐に帰ったのはブスタマンテだったという。
■ちなみに僕が相手に最高にくらったマスワリは5連発。
1999年のこと、なにげなく新宿のビリヤード場に入って一人で練習していた僕は、背の低い小太りのご年配に「ゲームをやりましょう」と誘われる。
「どうぞお先に」と言われ、僕が放ったブレイクはノーイン。そこからそのお爺さんは、裏マス、そしてマスワリを5連発。
あまりのプレイに腰が抜け、名前を伺うと「後藤です」。
伝説の名人、「ごとっち」こと後藤さんだったのだ!
(その数年後、急性白血病で後藤さんは帰らぬ人となった)
2009.1.18 Sugar Pie Guy (別名:チョン得)