Cの誘惑 3
 ドアが開く音。聞こえてくる挨拶。
 遠くで、人の叫ぶ声が聞こえて、消えていった。
 そういえば、この部屋には、あのふたりがいたんだと、今更思い出す。
 もう、手遅れだ。
 チェロパートの伝説がまたひとつ、増えた。ただ、それだけのことなんだ。



「なに、やってんだ?」
 って、なに。今度は、飯田さんっすか?なんなんですか、今日は。
「見て、判りません?
 チェロの次期パートリーダー選出の話し合いです」
 隙をついて慌てて逃げる俺と、三重野さんが丸めたピースを構えるなか、堂々と嘘をつく。
「いまな、お子様ふたりが、『おとなってぇ〜。フケツだぁっ』ってな叫び声をあげながら、出て行ったけど?
 もっとも。ひとりは意味が判ってなさそうだったけどな。
 それでも、話し合い?」
 ニヤニヤと笑う飯田さんに、原因の前畑さんは、
「神聖な話し合いを誤解するんて、最近の子供っておませさん、ねぇ?」
「って、おまえがいうなぁーっ」
 みたび、叩かれた。



「んでよ」と、飯田さんは何もなかったように切り出した。
「なによ」と、これまた返すほうも同じである。
「なんだ、この騒ぎは?」
「だから、パートミーティング?」
 今度は、無言で、4度目の叩き。
 潔く友情を切り捨てた三重野さんは満足して、飯田さんに向きやった。
「にしても、どうしたのよ」
 それは、俺も聞きたい。
 職場の遠さが禍して、M響さんは、けっこうギリギリな参加組なんだ。
 チェロだけとはいえ、7時前に全員集合なんて、初めてのことじゃないのか?
 なにか理由が・・・・・前畑さんには傍迷惑な野望があって、三重野さんにはそれを阻止する使命があったけど、じゃ、飯田さんは?
 相棒の延原さんがいなくなったから、寂しいから、とか?
「あー。
 殿下が、センパイがコン・マス代行になったってリークしてきたもんだから、後輩としちゃ、センパイの初仕事をつぶさに、ひとつ残らず見守るっきゃないだろ?」
「いっ、やーん。殿下ってば、じょうずぅ」
「愛しちゃってますねぇ」
 どんな意味か、しみじみと呟く三重野さん。
「だから、コン・マスのイガちゃんは、飯田さんのもの。」
「おお?
 なんで、代行コン・マスが俺のモノだって?まだまだ、殿下が常任だぜ?」
 飯田さんが代フリをする時には、俺の代理期限が切れて、守村先輩がコン・マスに返り咲きっす。そうっすよ。そうじゃなくっちゃ。
「もぉ、飯田さんだって、判ってるクセにぃ。
 欧州コンクールツアーに、殿下ひとりだけで行くわけないでしょ。
 しかるに、イガちゃんは、代行が取れて、正コン・マスに。飯田さんは、留守番コンダクター。
 だっから、殿下だってリークしたんでしょ」
「だよなぁ」
 と、飯田さんもあっさり納得。


 何ででしょうか?
 どうして、3人ともそういう結論になるんっすか?
 それとも、なんですか。
 チェリストたるもの、この程度の深読み裏読みは、常識なんでしょうか?
 教えてください、チェロの神様。


「それで、首席チェロは、わたしたちのもの。これで、手を打ちません?」
「オー、センパイ。両手に花か、羨ましいことで」
「なら、代わってください」
 切実な願いに、飯田さんは、からからと笑いながら。
「いやいや、俺には、愛する妻と娘が―――」
 ワケ判らんお約束で、俺の不幸を喜んでる飯田さんは、オニだ。
 このままじゃ、俺。


「ですから、飯田さんなきあとのチェロパートは、この前畑にお任せください」
「いえいえ、セクハラ女に任せたら、風紀が乱れます。ここは、清廉潔白の三重野に、ひとつ」
「おまえらよ、どーして、俺がパーリーを降りると思ってんだ?」
「いーださぁーん。殿下が帰ってくるまででいいんだから、わたしたちにも、イガちゃんプリーズ」
「可愛がるから、ぜったいにいじめないから、ちゃんと返すから。ねぇ、いいでしょお」


 コン・マスとして、飯田さんに遊ばれ、首席チェロとして前畑さんと三重野さんに遊ばれる。
 いっそ、首席を譲れば・・・・・・・・首席チェロとパートリーダーを分け合ったおふたりに遊ばれる。
 たぶん、状況は、どうやったって、変わらない。



 コン、桐ノ院さんっ。お願いしますよぉ。
 コンクールツアーは、単身でお願いしますぅ。






 しかし、そんなことはありえないって、本能的に知っている。







 ンでもって、そんな悩みも、桐ノ院さんのM響本拠地デビューとなった、ベートーベン7番の後遺症で綺麗さっぱり忘れちまった。


 俺って、ホントに、バカだ。
第1回 イガちゃん争奪杯、セクハラ合戦?
しかーし、流行の「EFカップの巨乳系」がセクハラかますのは、いけません。
BCあたりのヒトが、懸命にがんばる姿に萌えるのです。

えーと、分類BLのパロディにあるまじき展開で、
内心ビクビクなんですが。
あのー、ついてきてくれてます?


「フジミ・ソルフェージュ」によると
フジミのチェロパートは、首席チェロ=パートリーダーではない。そうです。
考えてみれば、当然な結果。
しかし、パーリー会議と称されるものには、首席チェロが出席していると思われる。
これから、妄想したものでした。



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