ただ それだけのこと
 たったいま、買ってきたばかりのナスは、みっつ。
 ナスのはさみ揚げが食べたくなったのは、3日前。
 今夜にしようと決めたのは、買い物中。
 ナスが、3個なのは、3個1パックでしか売ってなかったから。
 だから。
 たまたまの偶然の、他意はない。

 他意はなくても、ナス3個は、目の前にある。
 だからといって、はさみ揚げの3個分は、多い。
 1個じゃ、物足りない。2個は、多い。希望は、1個半。
 1個半なんだ。
 じゃ、1個と半分にした、残り半分はどうする?多目に揚げて明日のおかず?
 時間をおいた揚げ物は、好きじゃない。

 それを考えると、一人暮らしの自炊っていうのは、不自由なほうが多い。
 凝った料理も大鍋料理も、もちろん、カレーだって、作れない。
 作ってもいいんだけど、食べきれないって。

 だから。


 いや、でも。

 なんかそれって。
 まずくないか?

 僕にとっては、ご近所付き合いのひとつだけど。
 あいつにとっては、僕は、そのぉ・・・・・・・・・・好意を寄せてる相手なわけで。
 そんな相手から、差し入れされたりしたら・・・・・・誤解、しないか?
 する、かな?――――する、よな?うーん、やっぱり、する、か?

 それは、まずい。まずいったら、まずい。
 勘違いされたら、困る。
 困るんだってば。
 僕とあいつとは、友達。
 絶対に、友達じゃなきゃ、いけない。

 友達以上の好意なんか、欠片もない。

 ないんだけど。



 結局、転がり込んだ数日のお礼もろくにしてない。
 モーツァルトのコーヒー券は、純粋なお礼とはいいがたい。あれは、和解の申し入れも兼ねてた。
 純粋に、お礼っていうか、お詫びっていうか。とにかく、なにかをしたい、と思ってる。
 でも、引越しでごたついてたし。定演が決まったし。
 気付いたら、時間が経ちすぎてた。
 今更って思われないように、さり気なく、スマートに、お礼をしたいんだ。
 できれば、もう、お礼だって気付かれないくらいの、お礼がしたい。

 そうだ。
 これは、好意じゃないんだ。お礼、なんだ。






 3個のナス。
 自分の分は、1個半で充分。
 じゃ、残りの1個半は?
 どうする?
 だって、ナスって冷蔵庫に入れとくもんじゃないし。使い切ったほうが、いいんだ。

 つい、うっかり。多く作っちゃった。
 冷蔵庫に入れておけばいいんだけど。ついでだから、お裾分け。
 って、流れにすれば。
 構えた風でも、改まった風でもなく、自然でさり気なく。って、いいんじゃないか?
 一人暮らしが、ついうっかりで、多く作るもんじゃないって、・・・・・・・・・・・・気付かないよな?


 だから、そう。
 他意は、ないんだ。
 僕が食べたかっただけ。
 1個じゃ少ない。2個じゃ多い。
 さめたあげものは、美味しくない。
 だから。
 3個作って、半分あげるだけ。

 ただ、それだけのこと、なんだ。
おすそわけ。
この響きに込められた、ためらいと、リリカルでハートフルな甘いときめき。
それは、乙女の恋のような純情。
以下、フェチ的発言が続くので、削除。


冗談抜きに、1人分作ればいい環境下で
ついうっかり、たまたまで、
お裾分けできるほどの量を作ってしまえるんでしょうか?
作れないとおもうんですよね。
だから、そこまで行くのに、自己の正当化が必要なんじゃないかと思うわけです。
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