続 うさぎのダンス
【お嬢様とうさぎ】

 桐院小夜子は悩んでいた。
 先日、兄の新しい、といってもかれこれ1年は続いている、恋人に、正式に対面する機会があったのだが、以来引っかかっていた。
 いつかどこかであっていたような気がして仕方がないのだ。
 確かにあれが2度目のはず。最も1度目は遠目で眺めた程度だった。となれば、過去にあった誰かに似ているのだろうか?
 まず、確実にいえるのは、『名門女子高校に在学中から、言い寄ってくる男たちを、手玉に取るのを楽しんでいた(桐ノ院圭談)(お兄さまにだけはいわれたくありませんわ 小夜子反論)』彼女自身の知り合いではない。あのタイプは、遊ぶには少々問題が生じるだろう。残るは、悩むまでもなく、兄の男関係か。
 お嬢様秘蔵のコレクション、『父の金庫』から搾取『させた』兄の素行調査報告書、別名 兄の男遍歴調査書『非公式』複写分と、それに添付されていた証拠写真から自らが『厳選した1枚』を取り出した。
 カミングアウトを済ませてからの4年間とはいえ、多種多様な男たちで、音楽留学中の報告書が存在する辺りが自慢の兄である。しかし、いまだに兄の趣味は、趣味といってもゲイであることではない、純粋に好みが理解できない。彼らの共通点といえば、男性である。ただこれだけなのである。
 そして、この全てがホモである事実は、やはり許せないものがあると、コレクションを眺めるたびの苛立ちを押さえ、彼女は一番新しい、最も量の多い人物に似た男を捜したが――――ない。

 綺麗に見事にないのである。
 見落としがあったかと、もう一度。
 桐院家に生まれ育ったプライドで、また一度。
 だが、いくど探しても、ないのである。
 と、いうことは、可能性のあった兄の関係ではないようで。
 信じられないが、そういう結論に辿り着き、お嬢様の悩みはまた一段と深くなってしまう。



 人間、探し物というものは、探しているうちは見つからず、忘れた頃に目の前に落ちているものである。
 お嬢様もどうやらそうらしい。



 打ちひしがれ、諦め、ふと、視線を上げた先に、それは無言でたたずんでいた。

 アア、オニイサマ。
 つい、カタカナでの呟きになってしまったショックを伴い、聡明なお嬢様が理解した兄の恋人の正体。
 気づいてしまったからには、そのままにしておくようならば、桐院小夜子なんてしていませんわよ、お兄さま。
 お嬢様が呟いたかは知らないが、とにかく、良くも悪くも、彼女は行動の人だった。




「お兄さま、趣味がお変わりになりましたのね」
 意訳すると、『お兄さま、堕落なさいましたのね』になる挨拶をすませて、桐院家の女家長候補がそっと差し出したのは、可愛らしい嫌がらせ。
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