年下の男の子
 守村悠季。

 僕が捜し求めていた、僕の運命の第一バイオリン。
 その姿は、どんな運命のいたずらか、僕の理想そのままで、僕は一目で恋におちた。



 ああ、いくつ、なんだろうか?

 年輩者も多い団員のなかで、コン・マスの役目を、実質におえる年齢。
 世話人からも信頼は篤く。
 習い事としてのバイオリン演奏者としては、オーケストラを知っている。
 彼が、プロを目指す途中であるのは間違いないが。
 近くに音大があるのだから、やはり、大学生?院生?・・・・・高校生?
 まさか、少なくとも、社会人サークルで、高校生ではないだろう。いや、身内に団員がいれば、その伝手で参加していても不思議はないが。

 まて、彼はコン・マスだ。
 高校生で、コン・マスはないだろう。高校生ではありえない、そうであって欲しい。
 ・・・・・けっして、保護者が側にいると、彼自身を口説き落とすのに支障が出るからなどというさもしい理由ではない。
 僕の第一バイオリンにスカウトするには、彼自身が成長する時間が必要だ。
 おそらく、音大生、なのだろう、ああ、それが、妥当だ。
 そうだ、彼の音は、絞り上げる過程の音に違いない。そうあるべきだ。

 やはり、彼の詳しい経歴を知る必要がある。



 そして、僕は、彼を知るために行動をおこし。
 衝撃の事実を知ることになる。


 その相手に、彼女を選んだのに、他意はない。
 偶然にも、僕が誘って不自然ではない人間が、彼女であっただけだ。
 その日、彼女は、非常識な入室をした。
 僕は、注意を促し、思いついたように、彼女に、この楽団について様子を知りたいと持ちかけた。
 その際に聞いた情報は、関係がない。
 ええ、関係があるはずが無い。


 場所は、『モーツァルト』
 フジミの話をするのに、これ以上相応しいところはなく。言うなれば、これは、公的な会見であり、私的な意味はない証明になるはずだった。




 いま、なにを?
 高校?まさか、高校生?
 彼の経歴を聞いたのは、こちらからだ。
 しかし、聞いてはいけない音を聞いてしまった。
 落ち着きたまえ。よく思い出せ。
 彼女は、その前になにを言った。
 出身は、邦立音大のバイオリン科で。
 もちろん、バイオリン科だろう。
 音大を出身?つまり、卒業しているということか?
 しかも。
 ―――――去年。
 高校の音楽の先生。臨採のコウシ。
 高校生ではなく、高校の? 臨採の公私?子牛?格子? なんですか、それは。
 落ち着きたまえ、桐ノ院圭。
 高校で、コウシといえば、講師ではないか。
 ならば、生徒ではなく、先生で間違いはないのか?

 どこかで安堵するのもつかの間。

 では、ああ?つまり?なんだって?
 大学を中退してからこのかた、学生であることを意識するなどなかったので、瞬時に年齢に変換できない。
 ああ、そうすると・・・・・・
 大学を卒業する年に呼び戻されたのだから、・・・・・・・いま現在の僕は、23になる22で。
 去年卒業したとすると。
 では、23か4ですかね。
 早生まれ、ということは、ああ、僕より半年ほど年上になる23。
 出身は、新潟。

 彼のことはここまで、あとは、彼女個人のプロフィール。生憎と、それには、興味はない。



 彼女のプロフィールを聞き流す間、自分の動揺を分析する。
 一体、なにがこれ程のショックを与えるというのか?
 彼が、すでに大学を卒業している、ことか?
 音大を卒業して、アマオケに在籍するバイオリニストとしての彼にショックをうけているのか。
 もう、プロへの道を諦めているからか?
 そんなもの、これからでも遅くはない。これから目指せば、なにも問題はない。
 では、なにが?
 彼が大学生でなかったことか?

 動揺は、いっそう酷くなる。

 それはつまり、彼が年上であることにか。
 それが、どうしたことか。
 第一バイオリンとしてはもちろん、僕は、彼を、恋人としても欲しいのだ。
 大学生ならまだしも、高校生など無意味に障害を増やすようなものだ。
 高校生であるくらいなら、年上のほうがましだと思い給え。


 考えてみろ、今までの付き合いは、年上ばかりではないか。
 なにを、今更、年上で落ち込む?


 自分のなかの、説明のつかない感情に戸惑っている。
いつものことでなんですが、読み流してください。

エンドレさんたちウィーンの7名様やブリリアントオケで
守村さんが年下と思われていた。という話は読んだ事があります。
が、
桐ノ院さんが、守村さんを年下だと思った話というのは見たことがないんですが?
私が知らないだけ?

「天国の門」で、ニコちゃんから事前情報を得ずに
守村さんがスーツを着ていなかったら、(高校の先生って、普通、何着てます?)
あり得たかもしれない勘違い。

だってぇ、コン・マスはぁ、自称童顔でぇ、
桐ノ院さんは、あれだけ、年下なんだって拘ってるんですよぉ?
ぜったいに、年下だって思い込んでますよぉ。(春山朋子調)

しかし、「過去と未来のロンドハ長調」はこういう話でした。
えと、違った?

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