恋一夜
 6月23日。
 2週間の短い恋が終わった夜。
 「はなや」での初めてのひとり酒が短い恋の弔いで。道連れは、たぶん、もうひとりの恋。


『ゲイ、なんじゃないんですか?』


 嘘、でたらめ。
 誰が見ても、守村さんが恋してるのは、私。
 いいじゃないの。
 私のことをふった人間へささやかな復讐をして、どうして悪いの?


『望みがありますが』


 ないのよ。そんなもの。ひとかけらも。
 だから。
 男だって理由でふられればいいのよ。私を女だってふったように。





 判ってる。
 八つ当たりよ。



 家に辿り着くまでに弔いきれなかった恋を、シャワーで洗い流して、熱病のようだった恋を忘れる。



 洗い流して残ったものは、友情。


『お友達でいましょう』


 残酷な現実。
 いつかの現実。


『友人でいいんです』


 最初から、求めるものが違いすぎる。

 友達が、いい人と
 友達でも、いい人と
 友達で、いい人と


 最初から、恋なんてできるわけがなかったのね。


『お友達でいましょう』


 『女友達』の座を望んだ私は、本当は、彼をどれだけ好きだったの?
 彼のどこを好きだったの?
 なにを好きだったの?


 友達でも良かったの。
 たぶん、友達でいられる程度の好きだった・・・・の?
 だって、ああ、そう、だって。
 納得してる自分がいるもの。
 だから、『せめて、友達でもいいから、側にいたい』じゃないことは、確か。
 きっと、無理。
 恋って、「ふられた」が終わりじゃないもの。
 自分が諦めるのが、終わりだもの。
 もう、終わっちゃってるもの。諦めてるもの。
 

 たぷん、と。お湯が揺れる。


 だって、私。
 女だって理由で諦めてるもの。
 彼は、男でも諦めてないのよ?
 最初から、私が敵う相手じゃないのよ。
 女だから駄目だっていわれて、でも、私を知って、とは、言えなかった。
 彼は、言うわ。
 僕という人間を知ってください。
 だって、初めから判ってて、恋をしてるはずだもの。
 彼は、男だから。




 ちょっ、ちょっと、待って。
 彼って、男、よね?
 ちょっと、怖い考えが、記憶が、思い出が・・・・

 私、彼がどんな人か知らないのよ。
 知ってることは、彼への気持ちは本気だってこと、それだけ。






 もしかして、ものすごく、まずいこと、しちゃった?
 いえ、でも。その。
 彼は、紳士だわ。まさか、そんなこと。
 でも、万が一。


 つまり、好きってことは、そういうコトよね?
 いい年した男性が、好きでいるだけでいい、なんてこと。―――なくは、ないけど。
 ふたり揃って、そんな人だなんて、そんな怖い偶然、ないわよね。
 害さえなければ、好きでいても構わない。―――なんて、私も思ってないわ。

 ちょっと、昔のことを思い出して。
 慕ってくれていた可愛い下級生から、「先輩、好きです、愛してます」って告白されて。
 喜ぶ前に、怖かったわ。
 でも、相手は女の子。
 身の危険は、ないわよね?
 これが、同じ下級生の男の子から言われたら、・・・・・ちょっと、身の危険を感じるわ。
 あぶなそうな人なら、刺激しちゃいけないって。


 ねぇ、あんなに言い切っちゃう人が、初めてってこと、ないわよねぇ?・・・・・やっぱり。
 これって、もしかして、まずい?
 まずい、かしら?
 まずいわよねェ、きっと。






 後悔しても、もう遅かった。







 運命の6月25日。
 彼は、私が声をかける前に、行動をしてしまった・・・・・・







 翌26日。
 私は、自分がおこした行動の結末を知ることになる。
あうー。
例え、結果が同じであろうとも、
川島嬢が、自分が原因の結末について考えて欲しかったなぁ、願望。
彼女が本気だったことは、認めてもいいです。
が、
川島嬢って、「女は対象外」って言われて、即、諦めてるんですよね?
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