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特撰・上撰・佳撰とはなにか?

 日本酒のラベルにある表示で、解りにくいと言われるものの一つが 特撰・上撰・佳撰(金印、金撰、精撰)などの表示です。 特定名称酒の場合には「清酒の製法品質表示基準」があり、 本醸造酒や純米酒と名乗るには定められた要件に該当する必要があります。 ですが、特撰・上撰・佳撰などには、 国税庁や酒造組合が定めた明確な基準がないのです。
 特撰は旧酒税法の特級、上撰は一級、佳撰は二級にあたるとされ、 佳撰より上撰、上撰より特撰が良いお酒ということになっています。 ところが、各蔵元が独自にランク付けしているため、 同じように上撰と表示されていても商品によって 普通酒であったり本醸造酒であったりします。 美味しんぼにいたっては、この表示のことを「日本酒を望みのないものにしてる原因」 「どんな基準でつけているのか判然としない」「デタラメなこと」などと 痛烈に批判しています。 しかし、どんな基準でつけているのか判然としないデタラメなことが 酒税法改正以来14年も使われるものでしょうか?
 ここでは、日本酒が、どのようにして特撰・上撰・佳撰などとランク付けられるか、 かつての級別制がどのようなものか調べつつ述べていきたいと思います。

級別制以前のランク付け

 第二次大戦以前は、東京における清酒の価格は新川の酒問屋が決めていました。 毎年秋に灘などから送られてきた酒を利き酒して銘柄ごとにランク付けしていたのです。 1916年(大正5年)頃の横浜では、並酒が60銭、中等酒が70銭、 上等酒が80銭、最上酒が90銭、飛切最上酒が1円20銭で売られていたそうです。 銘柄には、蔵元が自らの商品につけたものだけでなく、 卸問屋が様々な蔵元から購入した原酒をブレンドしたものに つけた銘柄(手印酒)も含まれていました。 後の級別制と違い、酒税は、どのランクの酒でも同一でした。
 1939年(昭和14年)に価格統制令が施行されると、 酒問屋に代わり国が銘柄毎に清酒をランク付けするようになりました。 平等酒、上等酒、特等酒の三つのランクに応じた公定価格が定められ、 1941年(昭和16年)からは特等酒のみに加算税が課せられるようになりました。

級別制

・級別制と価格統制の歴史

 日本酒に級別をつけ上級の酒により高い酒税をかける級別制は、 1943年(昭和18年)に始まり、1992年(平成4年)に廃止されました。 1962年(昭和37年)以降は1988年(平成元年)に特級が廃止されるまで、 特級・一級・二級と区分されていました。 上でも述べたように、これが、今の特撰・上撰・佳撰などの元になったものです。

1939年(昭和14年)4月
酒類の価格が公定価格とになる。
1943年(昭和18年)4月1日
級別制始まる。一級、二級、三級、四級の4等級。
1944年(昭和19年)3月31日
一級、二級、三級の3等級に改められる。
1945年(昭和20年)3月31日
一級、二級の2等級に改められる。
1949年(昭和24年)5月6日
特級が追加されて3等級に改められる。
1959年(昭和34年)4月1日
低濃度酒(低アルコール酒)が設定される。
1960年(昭和35年)4月1日
準一級が追加され4等級に改められる。
1960年(昭和35年)10月1日
公定価格が廃止され、基準価格始まる。
1962年(昭和37年)4月1日
特級と一級が特級、準一級が一級となり、特級、一級、二級の3等級となる。
1964年(昭和39年)10月1日
基準価格が廃止される。
1988年(平成元年)4月1日
特級が廃止され、一級、二級の2等級となる。
1992年(平成4年)4月1日
級別制が廃止される。

・級別制の仕組み

 級別制は、いくつかの要素で成り立っていました。 1962年(昭和37年)以降の級別制の特徴な要素を挙げると下記のようになります。

・級別制の崩壊

 上記のように、日本酒を二級の価格より高く売るには、 酒類審議会にサンプルを提出し特級や一級とする必要がありました。 そのため、当初は級別制が有効に機能していました。
 しかし、昭和44年に酒造米が自主流通米制度に移行したことにより 級別制度は揺らぎ始めます。 酒造米の割り当てがなくなり、酒造高の実質的な統制がなくなったのです。 そのため、従来の流通経路と違ったルートで安く酒を売る蔵元や、 卸問屋と組んで高級酒を無審査のまま二級酒として 販売する蔵元が現れるようになりました。 それに多くの蔵元が追従し、二級の本醸造酒、純米酒、 はては大吟醸酒などが出回るようになりました。
 こうした中でも、1968年(昭和43年)、1976年(昭和51年)、1978年(昭和53年)に 二級の酒税は据え置きのまま特級と一級の酒税が上がりました。 そのため、大手も1974年(昭和49年)には小西酒造、 1978年(昭和53年)には大関と沢之鶴、 1982年(昭和57年)には白鹿、菊正宗、月桂冠、白鶴などと 五月雨式に二級酒へと参入していきました。
 こうして、級別制は実質的に崩壊し、 負担する酒税の大小以外の意味をなさなくなりました。 そして、1992年(平成4年)、日本酒の酒税は、 二級より高く一級より若干安い程度に統一されることになりました。

・特撰・上撰・佳撰

 級別制がなくなった後、それに後継となるように設けられたのが、 特撰・上撰・佳撰(金撰、精撰)という表示です。 これらは、どのような基準でつけられているのでしょうか?
 先に述べた級別制の三つの要素の内、 酒類審議会による官能審査は既になく、 特撰や上撰で級別制度の基準アルコール度数を踏襲しているものも少なくなっています。 つまり、価格がランクを付ける唯一の基準になっているのです。 大手蔵元の瓶詰め製品の標準的な参考小売価格は、下の表のとおりとなっています。 (中小の蔵元の多くは、2006年(平成18年)5月1日の減税の際に値下げをしなかったため、 この価格より少し高い値をつける場合が多いようです。) この一升瓶価格の約1.14倍の値段で日本酒版ビール券である 清酒 特撰券と清酒 上撰券が販売されています。 この券があるため、特撰と上撰の名称は、ほとんどの蔵元で使われています。 逆に、佳撰には商品券がないため、蔵元によっては金撰、金印、精撰などと 呼ばれる場合があります。

特撰・上撰・佳撰の参考小売価格例 税込(税抜) 平成18年8月現在
一升瓶(1.8L)五合瓶(900mL)四合瓶(720mL)300mL瓶お燗瓶(180mL)
特撰2216円(2111円)
上撰1887円(1798円)959円(914円)800円(762円)365円(348円)221円(211円)
佳撰1643円(1565円)845円(807円)677円(645円)294円(280円)200(191円)

・紙パックやカップの上撰・佳撰

 瓶詰めの製品については、上記の通り解りやすいのですが、 大手メーカーの紙パックやカップの製品は多少ややこしくなっています。 なぜならば、瓶のように容量が決まっていない上に、 メーカーによっては瓶詰めのものと中身が違っている場合があるからです。
 紙パックの上撰と佳撰の100mlあたりの希望小売価格は、 瓶よりも安価に設定されている場合が多いようです。 ディスカウントストアやスーパーでは、パックの値引率が瓶よりも大きいため、 パックは一層お得な価格となるでしょう。 その中身は、瓶詰めの製品と同じもがパックに入っている場合が多いのですが、 中にはアルコール度数が1度低かったり、瓶詰めが本醸造酒や純米酒なのに 普通酒であったりするものもあります。 しかし、瓶とパックで中身が違うものを販売する蔵でも、 最近の中価格帯紙パックの増加によって、 瓶と同じ中身のものも平行して販売するところが増えています。
 一方、カップには、紙パックと同じものか、 度数が一度低いものが入っている場合が多いようです。

・商品ラインナップにおける特撰・上撰・佳撰

神奈川地酒の商品ラインナップ

 神奈川にある15の蔵元の内、上撰と佳撰に相当する製品を販売しているのは10軒です。 特撰を販売しているのは吉川醸造と黄金井酒造のみですが、 黄金井酒造の特撰 しぼりたて盛升が季節商品なので 吉川醸造の菊勇 本醸造原酒が通年販売されている唯一の特撰です。 ほとんどの蔵元では、佳撰が一番低価格な商品で その上に上撰や特定名称酒などがあるという製品ラインナップをとっています。 表にすると以下のようになります。

神奈川の特撰・上撰・佳撰
佳撰上撰特撰
熊澤酒造・井上酒造・
石井醸造・舞姿酒造
普通酒普通酒
大矢孝酒造・中澤酒造・
清水酒造
普通酒本醸造酒
瀬戸酒造店普通酒(糖類添加)本醸造酒
黄金井酒造 本醸造酒(普通酒)
吉川醸造普通酒(糖類添加)・普通酒普通酒(糖類添加)・普通酒本醸造酒
金井酒造店普通酒(糖類添加)普通酒(糖類添加)

大手の商品ラインナップ

 大手酒造メーカーの商品ラインナップは、価格が安い順に、 低価格パック酒、佳撰、上撰、特撰、超特撰となっている場合が多いようです。

佳撰・上撰・特撰の味

 同じ蔵元の佳撰・上撰・特撰で味の違いは、どのくらいあるのでしょうか? 普通酒と本醸造酒、糖類添加された普通酒と非添加の普通酒というように 原材料などで差がついていれば飲む前から上級の酒の方が良いお酒であると解ります。 私が経験した範囲では、このような場合には、 下級の酒が上級の酒を上回ったことは一度もありません。
 それでは、佳撰と上撰の両方が、糖類添加された普通酒 もしくは非添加の普通酒であった場合はどうでしょうか? そのような場合でも、飲み比べてみると明らかに上撰の方が佳撰よりも良いお酒でした。 上撰の方が雑味が少なかったり、香りが高かったりする場合が多いようです。
 このように同一の蔵元の中では、上級の酒がより良い酒ということになります。 しかし、ある蔵元の上級の酒が他の蔵元の下級の酒よりも 良いお酒だとは言い切れません。 なぜならば、同じ蔵の佳撰・上撰・特撰は、 似たような酒質である場合が多いので比較がしやすいのですが、 蔵が異なると濃淡甘辛が激しく異なり、比較するのが容易でないからです。 特撰、上撰、佳撰などは、あくまで同じ蔵元の中でのランク付けだと 思っていた方が良いでしょう。
※極一部ですが、低価格パック酒に 上撰という表示をしている蔵元があります。 その場合の味は、大概値段なりです。

まとめ

 ここまで述べてきたように、決して特撰・上撰・佳撰などは、 デタラメなものであったり、どんな基準でつけられているのか はっきりしないものであったりするわけではありません。 安売りなどで実売価格とは異なる場合がありますが、 参考小売価格によってランク付けされているのです。 日本的な横並びと思う人もいるかもしれませんが、 価格が解りやすくて良いのではないでしょうか。


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最終更新日2008年2月6日