blind summer fish 23

 エドワードが拾ったビーンズをロイの方に示して嬉しそうに笑ったりするのが町の人々には微笑ましくうつるようだ。
 点々と落ちているビーンズは、いったいアルフォンスが袋にどれだけ持っているのかわからないが、つきることがない。
 等間隔でないのは、袋に穴が空いていてアルフォンスが気づかないうちにころころと零れ落ちているからだ。あるときは1メートル、あるときは5メートル以上離れていたりして、それも必ずしも元の形そのままというわけではなく、人に踏まれてつぶれていたり、粉々になっていたりした。それでもエドワードは根気よく探し、軍人たちも手伝う。
 時折、物珍しげに眺めている店先の人を捕まえては、自分の背の高さを示して「このくらいの子、見なかった?」などと聞く。その子がどうしたの?と逆に聞かれて「弟」と答えると、「あらまあ、かわいそうに。これ、持っていきなさい」「せっかくだけど、もらえない」「いいから」とお菓子屋さんに飴玉をポケットにつめこまれて、困ったように、それでも礼儀正しく頭を下げてその店をあとにする。その後はお店の人に聞くのは軍人に任せて、自分は道行く人にアルフォンスの行方を尋ねる。菓子屋の女将相手のときみたいに、また物をもらってしまわないように。
「これ、さっきもらったんだ。よかったら……」
 もらった飴玉を遠慮しいしい軍人たちに差し出し、がしがしと頭をなでて飴を受け取って行く彼らにほっとした様子のエドワードは最後にロイのところにやってきて、残った最後の飴玉を小さい手で差し出した。
 ロイの見たところ、エドワードは飴を口にしてはいない。
「君の分は?」
「これはちゅうさのぶんだから」
「私はいいよ。君が食べなさい」
「でも、アルを探してくれてるお礼だから!」
「私はアルフォンスを『探してあげている』わけではないよ。心配だから探しているんだ。ひょっとしたら忘れているかもしれないから言っておくけどね、私は君たちの保護者なんだよ」
 飴を乗せた小さな手のひらをそっと握らせると、エドワードは呆けたようにロイを見上げた。



「マスタング中佐、もうそろそろ・・…」
 日が傾いてもうすぐ街並みの屋根にかかる。
 時計を見た曹長は、タイムリミットが近いことを告げようとし、大通りへ出る角にふと気を取られた。
「あ、あれ――」
「アル!」
 止める間もなくエドワードは駆け出す。しかしそれよりもロイの方が早かった。数秒もたたないうちにエドワードを追い越し、大通りに出る。
 探していたこどもの後姿を視界にとらえ、ロイは大声を上げた。
「アルフォンス!」
 一瞬、よく響いた声に町の音がしんと静まる。
 何事かと視線を寄越す人々には構いもせず、ほんの10メートルの距離を駆け抜ける。
 振り返ったこどもは、アルフォンスだった。
「ちゅうさ……ちゅうさ!」
 なんでここにいるの?とでも言いたげに目を丸くするこどもを、ロイは叱りつけた。
「何をやっている!」
「えっと、おかのむこうにおりてみたらなにがあるかなっておもって、おもしろそうなことやってたからいれてもらって、いっしょにあそんでて、でもそろそろかえらなきゃっておもって――」
 たどたどしく答えるアルフォンスを途中で遮る。
「何を考えているんだ、お前は!」
「……ごめ、っ……ごめんなさい」
 遅れて着いたエドワードが割って入ろうとするのを制し、今度は声のトーンを静めた。じっくりと、言い聞かせるように。
「遊ぶなとは言わない。でもね、黙っていなくなってはいけないよ。お前が楽しく遊んでいた間、エドワードはずっと心配していたんだ。彼らも――」
 小隊の面々は、ロイとエドワードの後ろで黙って待っている。
「お前を探してくれた。アルフォンス、お前が迷子になったんだと思って、みんな一生懸命探したんだよ」
 自分が何をしてしまったのか、そのことに気づいたアルフォンスの目に涙が浮かび、こらえきれずにぽろぽろと零れ落ちていく。立ち尽くしたままわんわんと泣き出したアルフォンスを、ロイはそっと抱きしめた。
「心配したよ、本当に。もう勝手にいなくならないでくれ」
 ごめんなさい。ごめんなさい。
 何度も繰り返すアルフォンスの涙がロイの軍服にしずしずと吸い込まれていく。
「ぼく、……ぼくっ、――」
「わかってくれたならいい。もう、いいんだよ」