blind summer fish 27


 ハボックの家で夕飯をご馳走になって、ホークアイと途中で別れて家についたロイは、兄弟を風呂に入れて寝かしつけ、自分もシャワーを浴びて自室に戻ってきたところで思わず微笑んだ。こども部屋で寝ていたはずのエドワードとアルフォンスがロイのベッドにもぐっている。
 二人して、目だけを上掛けの上からのぞかせて、えへへとでも言うようないたずらめいた悪ガキの笑顔でロイに向かって楽しそうに言う。
「ちゅうさのベッドは」
「ぼくたちがせんきょした!」
 ロイは、おやおや随分と可愛らしいテロリストか占領軍だなと思いながら、ベッドを開けてくれるように頼んだ。
 可愛いテロリストたちはロイの要求を素直に飲んで「いいよ」と答える。早速ベッドの向かって左側にいたエドワードがちょこんと抜け出して、ロイがベッドに入るまで待ってからまた元のとおりにもぐった。
 部屋の明かりは今はスタンドのものだけだった。明かりに照らされたアルフォンスはロイのパジャマをしっかりと握ってご機嫌だ。
「今日は疲れただろう、アルフォンス。エドワードも。」
「……ごめんなさい。もうぜったいしないから」
 ご機嫌な顔がすっかりしょんぼりになってロイのパジャマを握ったまま、頭まで毛布にもぐっていく。ロイはそれを少しひっぱりあげる。
「十分反省したんだからもういいよ。今度からはちゃんと行き先がわかるようにしてからお散歩に行くんだよ」
「はい」
  簡潔な答えが気持ちいい。反省することが出来るなら、これ以上怒る必要はない。右隣で、弟がもう一度怒られたらどうしようと不安がっていたエドワードが、ほっと肩の力を抜いたのがロイに伝わってくる。
 再度の反省の時間が過ぎてしまえば、二人は楽しかった夕飯のことを思い出して、狭いベッドの中で、夜だから出来るだけ静かにはしゃぐ。いつもメリッサの手伝いをしているのと同じようにハボックの手伝いをし、楽しくて仕方がなかったのか、あの料理はああだったとか、混ぜるのが面白かったとか言い合っている。
「こんどはメリッサのおりょうりをホークアイしょういとハボックじゅんいにたべてほしいな!」
 だから二人を夕飯に招待してくれというアルフォンスの可愛いお願いに、ロイが否を言えるはずもなく、メリッサが帰ってくるのを待ってから予定を組むことにした。彼女のことだから断るはずもないし、いつも以上に豪華な夕飯を用意してくれるだろう。
 それにしても、アルフォンスは数度会っただけでホークアイを気に入ったようだ。
「アルフォンスはホークアイ少尉が好きかい?」
「すきー!キレイだから」
 そういえば自分の副官は、間近で見るにも十分耐えうる整った顔立ちをしているのだった。普段は、仕事をサボると無表情で銃を向けてきたりあきれた顔をしたり怖い顔をしたりすることが多いので忘れがちだが、昨日話していて久しぶりに涙をこらえる顔を見て、美しい顔だということを思い出したばかりだ。
 いやでもアルフォンスは面食い?
 少なくとも審美眼は確かだ。けれど、真っ先にあげる理由が「綺麗だから」はちょっとどうなのだろう。もう少し何か他の。たとえば母親に似ているとか、リゼンブールの学校の先生みたいだとか。
 ロイが密かにそんなことを考えていると、アルフォンスはもう一つの理由を元気に答えた。
「それにね、しょういやさしいからだいすき!」
 やさしいから。
 苦手だとか、あまり関わりたくないとか言っていても。触れる指にためらいがあっても。
 こどもはそんな表面だけを掬い取らずに、見事に本質を知る。
 どうやらバレバレのようだよ、少尉。
 眠りそうなアルフォンスをひざの上で抱きしめていたホークアイを思い出しながら、ロイは左隣のアルフォンスの頭を優しくなでた。


 ロイのベッドは一人で眠るにはちょっと広く、大人二人が眠るには少し狭いくらいの大きさだった。もちろん、大人一人にこども一人が眠るにも少し狭い。寝返りも打てないし、夜中に起きてもベッドからは降りられなさそうだ。
 それでも、ロイが二人のこどもを部屋に追い返すことはなかった。ベッドから落ちてしまわないか確認して、毛布と上掛けが二人にしっかりかかっていることを確認して、それからアルフォンスをつぶしてしまわないように手を伸ばしてスタンドのスイッチをオフにすると、ゆっくりと目を閉じた。室内に、こんなにもやすらかな寝息が聞こえているのはあまりに久しぶりすぎて不思議なくらいだった。かろうじて起きていたエドワードの手がロイのパジャマを握る。「おやすみ」という小さな声が聞こえた。