※R-18
「髪の長い女」の増田視点


合法ドラッグ


「や、あっ……も、はな、せって……っ」
「まだ、我慢、できるだろう、……エドワード?」
 すっかりたち上がっているものをロイの手はしっかりと堰き止めている。達することが出来なくて苦しそうなエドワードが、ロイの下で首を振って髪を乱した。せっぱつまった懇願が耳に心地いい。
「む、り……ああっ、だめ、」
「出さなくてもイけるよ」
「あっ……はな、してっ……」
 もう駄目、無理と言いつつ、ロイの腰の動きに合わせるエドワードはずいぶんといやらしいこどもになった。潤んだ金の眼はすがるようにロイを求めている。
 養母の忠告が頭をよぎったのはほんの一瞬のことで、ロイの思考はすぐにエドワードに溺れていった。


 エドワードが悩んでいる。それも自分とのことで。
 答えのない命題に、いつか答えが出るものと信じて取り組むのは研究者はたまた錬金術師の性ではあるが、エドワードきたら、すでに答えの出ていることについて真剣に悩んでいる。
 大方、ちらついている女性の影だとか、空っぽになってしまったアルフォンスの身体の秘密のことだろう。女性の柔らかい体とエドワードの身体は同列に並べられるものではないし(といっても浮気をしているわけではない)、人体錬成の禁忌を犯した事実など気にするくらいなら初めから手なんて出しはしない。男同士など軍内ではタブーにもならず、バレたらバレたで、女性からの株が下がるくらいだ。それは少し痛手だけれど。
 そのことを知らないエドワードに、ロイは教えるつもりは毛頭なかった。もっと悩めばいい。悩んで悩んで、天才とも称される頭の中身がもっと自分のことで満たされればいいと思う。
 イーストシティからセントラルへと越していったマダム・クリスマスは、発つ前にロイに一つの忠告を残していった。
『あまり、執着するんじゃないよ』
と。
『大丈夫だよ。大事にしてるから』
『それが心配なんだよ……』
 マダムは、お前みたいな子が本気になると始末がわるい、とため息まじりに呟いた。マダムの危惧は当たってはいる。
 エドワードにはやるべきことがあった。ロイにもある。ただ、エドワードは二つの両ばさみになり、ロイは素知らぬふりをして両立させることが出来た。大人のずるさというものだろう。
 仕事と恋の両立ではない。どちらも執着だ。上へ行く。エドワードを手に入れる。それだけだ。
 だから悩んでいるエドワードに答えを与えず、かといって不安でがんじがらめにならないように優しく優しく接している。まったく、ロイ・マスタングという男をここまで気長にさせる存在など、エドワード以外にはいないのだ。
 旅を一旦休んでエルリック兄弟がイーストシティを訪れたのは今日の昼のことだった。ここのところ、エドワードは顔を見せるたびにどんどんと艶を帯びてきている。何も知らない者には伝わらなくても、敏い者にはわかってしまうくらいに。
 まったく旅先でその手の被害に合わないのが不思議なくらいだ。もっとも、当のエドワードが下心のある視線に気づかないから、相手もタイミングを逸してしまうのかもしれない。
「エドのやつ、彼女でも出来たんですかね」
 敏い男その一はブレダだった。どうだろうな、とロイがうそぶくと、彼は「まあ、ほどほどに」と言って仕事に戻った。本当に、敏い男だと思う。
「まるで俺を見てるみたいですよ」
 敏い男その二は恋する男、ハボックだった。ただしこちらは、エドワードの片思いだと言いきった。ロイが理由を聞いてみればハボックはこう答えた。両想いだったらもっと幸せな顔をするでしょ、と。
 なるほど、それは一理ある。
 それもこれもロイが真相を明かさないからだが、ロイの頭を占めていたのは、仕事が引けて帰宅したらエドワードをどう料理するかだった。所詮、食事を終えたあとにソファでするか風呂でなだれ込むかベッドに導くかの三択にすぎないが。
 たまにはエドワードの髪を洗ってやるのもいい、と高揚した気持ちで帰ってみれば、自宅には明かりの一つもついていなかった。
 待っている間に寝てしまったのだろうか。眠っているところをやんわりと襲うのも悪くない、と色惚けしたロイの耳に聞こえてきたのは、エドワードの自嘲するような呟きだった。
「別れよう、じゃあおかしいな。やっぱり、ありがとう、かな」
 エドワードがロイの自宅で考えることなんて、ロイのことしかない。だから、別れるとは、自分と別れるということ。
 頭にかっと血が上る。背筋を這い上がるのは悪寒ではなく怒りだった。
「何がありがとうなんだい、鋼の」
 クッションを抱えて丸まるエドワードが、ぼんやりと顔をあげた。
「うん、あんたに。お礼を言いたくて」
 失恋をしたような悲嘆にくれた顔をするのはやめてほしい。一方的に恋を失ったと思うなど、なんて勝手なこどもだろう。
「では、その前の『別れよう』は?」
「ごめん。それは違うんだ。だって別れるも何も、あんたと俺はつきあってなんかな――」
 それ以上言わせるつもりはなかった。告白をして、互いに受け入れ、身体も幾度となく繋げた。これがつきあっているといわないのなら、どんな関係だというのだ。
 手でエドワードの口を塞いだのは必死の努力だった。どうにか自制できるだけの余地はまだあった。
「誰かに何かを言われたのか?」
 別に誰に何を言われてもいい。が、エドワードを傷つける言葉だったなら、吐いた人間をすぐにも消し炭にしてやる。
 ロイの問いかけに、エドワードは「ちがう」とばかりに首を振った。
「ならば何故」
 金色の双眸が揺れる。悩むのは結構だが、結論を間違えられては困る。こんなにも心を傾けているというのに、なぜ離れるほうを選ぶのか。
 ロイの望みは、エドワードの頭の中身すべてを自分で占めることであって、別れることじゃない。
 自制したはずの怒りは、指先にまで伝わっていった。座るエドワードをソファーに押し倒し、乗り上げる。逃がさないように、しっかりと抑えつけた。
「私は君を手放す気はない。一緒にいてくれと頼んだ私に君は『うん』と言った。君があれから心変わりしたとしても、私は許さない」
 見下ろす先にある飴玉のような両の眼が見開かれる。怖いのだろう。そう思われるだけの自覚はある。
 エドワードを大切にしたい気持ちは本物だ。嘘じゃない。でも優しくするだけでは駄目なのだろう。
 だってほら。このこどもは最悪の選択をしたじゃないか。
「君は、私だけ見ていればいい」
 言うなり、ロイはエドワードの口唇を食らった。合わせるだけのキスを経て次第に深めていくいつもの手順を放棄し、指で無理やり口をこじあけて舌を入れる。苦しそうな呼吸にロイはうっとりしながら聞き入った。割り開いた脚の間を膝で乱暴に刺激することも忘れない。衣服の下でたちまち反応を見せるエドワードが可愛らしくてたまらなかった。
「んっ、んう……っ、あ……っ」
「君は何を思った。なぜ、別れるなんて考えた」
「だ、って……あんっ……あんた、は、っう……おれのこと、んっ……すき、じゃ、ない……やあっ、や、だ、だめ……いたっ」
 ぐりぐりと膝で擦ってやると、エドワードは目の端に涙を浮かべた。
 好きじゃない、なんて冗談じゃない。
「ああっ……たいさ、たいさ……っ、いたいっ」
 痛い、と言いながらエドワードのものは萎える気配を見せない。抵抗だって、あるかないかわからないくらいだ。びくびくと感じながら震える身体は、ロイの下であっさりと封じられた。
 ロイの器用な指はエドワードのベルトをなんなくくつろげ、下着の中に忍び込む。
「あんっ……やっ……、ああ、……っ」
 痛みを忘れるように先っぽをくすぐってやる。下着の中はもうぐちゃぐちゃだった。痛いのも快楽に変えてしまったのだろう。わざと大げさに音を立ててやれば、エドワードは逃れるように首を振った。
 その拍子にこぼれた涙を、ロイは舌でぬぐってやる。
「ひぃっ……あ、ああっ……」
 すっかり硬くしているのに、まだ怯えを見せるエドワードを、快楽だけでどろどろに溶かしてやりたい。他に何も考えられないくらい。弟のことも身体のことも、すべて忘れるといい。
「勘違いをするな、鋼の。私が君を好きじゃない?」
 こんなに好きで好きでたまらないのに。いや、
「好きなんてものじゃ生ぬるいな。愛ですら生ぬるい。私は君のすべてが欲しいんだ。君が目的を果たすまで猶予をあげているだけ」
 それまでは大人の仮面をかぶっておとなしくしているつもりだったのに。エドワードはそれすらはぎとってしまった。
「あうっ……だめ、そこ、はっ……ん、……やっ」
「目的を果たしたら、全部もらうよ」
 心も身体も、君を構成するものすべてを。
 もうそろそろ、我慢も崩れてしまいそうだ。
「エドワード」
 耳元で囁くと、エドワードはびくっと大きく身を震わせた。下着を押し上げていた性器はロイの手を濡らし、やがてくたりと力を失った。
「勝手にいってしまうなんて、ひどいな」
「ん……あっ……ひ、あっ……ああ、やめっ……まだ、っ」
 息も整わないうちに、過敏になったそこを弄ってやれば、エドワードの口から小さな悲鳴が上がる。いつもは少し休ませてやるから、ロイに向けられたエドワードの視線には戸惑いが含まれていた。
 エドワードの負担にならないように。この行為を嫌がらないように。エドワードを満足させることを第一に抱いてきたから、余計にエドワードは不安なのだろう。
 いつもと違うやり方で、己の欲を満たすために抱いたら、どんな反応を見せるのか。 ロイは気弱な視線にほくそ笑んだ。
 おざなりに慣らして自身を埋め込めば、エドワードは痛みに顔をゆがめたが、それでも逃げようとはしなかった。逆にロイの腕を掴み、肩に爪を立て、必死に受け入れようとする。
 瞳に浮かぶ脅えも、ロイが腰を使うたびに薄れていった。代わりに浮かぶのは安堵の色。エドワードの心の動きが手に取るようにわかって、ロイのそこを昂ぶらせる。
「あっ……あん、あっ……」
「言ってごらん。今、私が、君の中で、どうなったか」
 言えない、とばかりにエドワードは首を振るが、口を割らせるなんて簡単だ。ロイは深くえぐるのをやめ、ゆるゆると抜き差しを繰り返した。強い刺激に慣れてしまえば、穏やかな快感はかえってつらくなる。
「っ、……たいさ……っ?」
 動いて、とねだる視線を無視し、エドワードの喜ぶ箇所もわざとはずして突く。そうやって焦らしていれば、エドワードはロイの髪を引っ張って喘いだ。
「お……おっき、くなっ……ああっ!」
  望む答えを得られたロイは、欲のおもむくままに激しく突き上げた。エドワードの内は熱くて気持ちがいい。視線よりも言葉よりも、よほど雄弁にロイに絡みつく。
 好き勝手に動くのに、エドワードは日頃の生意気さが嘘のように従順についてくる。それでも少しだけ恥ずかしそうにするのがまたたまらない。
「気持ちいい、よ……本当に」
「んっ、いう、なっ……はずか、し……あ、んっ」
 エドワードは達するときには合図をくれる。本人は知らなくても、彼の下の口は正直だ。もっと強く、とロイ自身に懇願してくる。もう少しで解放される、と快感を待ちわびる表情ににやりと笑うと、ロイはエドワードの性器を片手で握った。
「え……? あっ……なに、す……はあっ」
 吐精を促すはずの手が、それを妨げていることに気づいたのか、エドワードが不満気に見上げてくる。
「な、たいさ……はな、せっ」
 どこまで我慢できるか、試してみようか?
 耳元で囁くと、エドワードが小さく「嘘、だろ……?」と漏らすのが聞こえた。


「や、あっ……も、はな、せって……っ」
「まだ、我慢、できるだろう、……エドワード?」
 すっかりたち上がっているものをロイの手はしっかりと堰き止めている。達することが出来なくて苦しそうなエドワードが、ロイの下で首を振って髪を乱した。せっぱつまった懇願が耳に心地いい。
「む、り……ああっ、だめ、」
「出さなくてもイけるよ」
「あっ……はな、してっ……」
 ロイに爪を立てていた手が離れる。解放を阻む恨めしい戒めをのけようとエドワードの手は伸ばされるが、ろくに力も入らないこどもにロイが負けるはずがない。それは機械鎧の右手でも同じだった。ロイの手をはがせずに中途半端に己を刺激することになってしまう。
「っ、や……も、むり……ああっ」
 一度吐きだした精液にまみれ、エドワードのものは濡れそぼっている。それをいじった機械鎧がところどころ白濁で汚れるのがロイの目にはなんとも卑猥に映った。
「私が抱いているのに、一人遊びなんて悪い子だな」
「ち、ちがっ、あっ……いやぁっ……!」
 自慰をしていると揶揄すれば、エドワードの目からは涙がこぼれる。もう怯えも期待も何もない。あるのはただ欲だけだ。
 放してと何度も言うのに、足はしっかりとロイに絡みつき、まるで逃がさないでと言わんばかりだった。ぎゅうぎゅうと締め付けてくるのは内壁だけでなく太腿もだ。イってもいないのに、びくびくとふるえている。
「ほら、ちゃんと動いてごらん。私に、合わせて」
「んっ、う……あ、ああっ」
 突きあげるのに合わせて腰が揺れた。左手はロイの背中に、右手は自分のものを扱いている。ちがう、ちがう、とうわごとのように呟きながら、その手は止まることがない。
「可愛いな、エドワード」
「あっ、はあ……あん、あっ、」
「君を抱いているときが、一番、気持ちいい」
「ん、んんっ……あっ、いい、いい……っ!」
「そうだな、私にも、伝わってくる、よっ」
 何よりも素直なその場所は、ロイ自身を拒んで、包みこみ、縋るように締めてくる。
 この瞬間だけは、エドワードの頭の中はロイのことだけでいっぱいだった。だからロイはエドワードを抱く。でもどれだけ抱いても、満足することはないのだろう。
「たい、さっ……あ、……ひ、あっ……」
 白濁まみれの機械鎧で自分を追い詰めながらエドワードはロイを呼んで喘ぐ。腹につくくらい反り返っている先っぽが、ちょろちょろと啼いている。自身をぐりぐりと押し込みながら、ロイは反対の手でその先っぽをはじいた。
「イ、きた、っ……う、あっ、ああ、……あ――」
 途端、ロイをはさむ太腿が痙攣した。中もぎゅううっと引き絞るようにうねる。
「くっ……」
 出して、とねだるエドワードの内側に促されるようにロイは欲望を吐き出した。
 息をもらし、エドワードを見下ろすが、ロイの手の中ではまだ性器が脈打っている。全体を濡らすのは一度目にエドワードが吐精したときのものだけだ。
「……出さないでイってしまったのか。まったく、君ときたら……」
 ロイの言葉はエドワードの耳には入らなかった。目を閉じて胸を上下させる姿は、まるで眠っているようだ。
「ほら、エドワード。気絶している場合ではないよ」
 寝かせるつもりなんてない。ロイはエドワードの頬を優しくぺちぺちと叩いた。
「起きろ。私を置いて眠るなんて許さない」
 まだ足りない。貪り足りない。
 いくら吐き出して、中から欲望で染め上げても、エドワードは何者にも染まらない。
「愛しているよ」
 囁く言葉は上滑りし、ロイは気を失ったままのエドワードの中へ深く圧し入った。

back


文字書きさんに100のお題 Project SIGN[ef]Fより

すごくだめでへたれスーパーな攻様。
合法ドラッグ=兄さん。