Piper-Cherokee Cruiser(パイパー・チェロキークルーザー)について

 チェロキーシリーズは現在でも生産が続けられているパイパー社のベストセラー機です。世界の2大小型機製造会社と言えば、昔からアメリカのセスナ社とパイパー社が有名です。この2社は1950年中頃までは売上げ数ではほぼ同じでしたが、1955年にセスナ社が尾輪式の170を前輪式化した172を送り出すと、たちまち大ヒット作になり、セスナ社が急速にシェアを広げていきました。パイパー社はすぐに同社のペイサーという尾輪式機を、やはり前輪化したトライ・ペイサーで対抗しましたが、同じ高翼、支柱付きの機体であっても172に比べ、スピード、航続距離とも低いうえ機内も狭く、また全金属製の172に対し羽布と木材で作られたトライ・ペイサーは時代遅れの感があり、完全に172の圧勝でした。そこで、パイパー社は全くの白紙からニューモデルを設計することで、セスナ社に奪われたシェアを取り戻すことに決めました。

 まず、それまで小型単発機では当たり前だった高翼、支柱付きというデザインを全て捨て、低翼、支柱なしとして、キャビン、翼、ランディングギアにいたるまで、全て新設計の機体を開発することにしたのです。さらに、設計チームは戦闘機などにしか使われていなかった全可動式水平尾翼を採用し、安定性向上のために主翼付け根前部に後退角を付け、メインギアのショック・アブゾーバーを板バネ式から中・大型機と同じ油圧式にするなど、当時の小型単発機としては考えられないほど進んだ技術を次々に取り入れていきました。普通はそれまで使われてきた、つまり実績と信頼があるデザインを改良して、ニューモデルを作るというのが航空機製造の常識でしたが、全てが新設計、新技術というのはパイパー社にとっては社運をかけた大ギャンブルだったわけです。同時に、丈夫で整備性が良い機体に仕上るとの目標もあったため、それまでの自社のトライ・ペイサーや対抗する172に比べ、部品数がかなり少なく、コストダウンだけでなくメカニックにも大歓迎されました。

1962年にデビューしたこの機体は140馬力のエンジンを付けていたため「チェロキー140」と呼ばれ、市場に送り出されました。その当時の172よりも5馬力少ないパワーにもかかわらず、スピード、航続距離、上昇率とも172を上回り、また燃費も良く、さらに室内の騒音も低かったため大成功を収めました。1965年の“B”タイプからは、さらに性能アップのため、エンジンを150馬力に強化させましたが、名前は「チェロキー140」のままで販売を続けました。1969年の“C”タイプからは小型単発機としては初めてのスロットルなどのエンジン・コントロールを、押し引きのノブ・タイプから、大型機と同じようなレバー・タイプに変え、フライト・コントロール・システムやエンジンマウントなどを改良することによって振動を抑え、さらに人気を集めました。1971年には垂直方向の安全性向上のため、ドーザル・フィンを追加し、また前席にはリール式のショルダー・ハーネスを装備した“D”タイプが誕生しました。そして、最後の、しかも最も多くの改良を受けた“E”タイプが1974年から生産されるようになりました。まず、天井にあったピッチ・トリム・コントロールを、使いやすいパイロットの横に移し、ヨー・トリム・コントロールを追加、後席のシートや空調システムを完全にデザインし直し、居住性を大幅に改良しました。同時に機内に入るためのフット・ステップやコ・パイロット側にもブレーキ・システムを追加し、飛行計器を便利で近代的な“T−配置”にアレンジしました。また、地上でのステアリングにも新設計のシステムを導入し、当時、大型機のみに使用されていた赤の光文字でパイロットにシステムの異常を知らせるアナンシエイター・パネルを採用したり、このクラスの機体としては初のエア・コンもオプションで追加できるなど、かなりデラックスな機体に発展しました。この“E”タイプはこれらの大改良により、“クルーザー”というニックネームが与えられ、「チェロキー140E」よりも「チェロキークルーザー」の名前で知られるようになりました。結局、チェロキー140はトップ・モデルのクルーザーも含め、生産が終了される1977年までに10,213機が作られました。しかし、パイパー社はチェロキーの生産ラインを終えたのではなく、さらに改良、パワーアップ、ストレッチなどを続け、140/クルーザーはウォリア、アーチャー、カデット、ダコタ、アロー、チェロキー6、ランス、サラトガなどに発展し(全てチェロキーシリーズ)、パイパー社を大成功に導いたのです。今でもこれらのシリーズは5タイプが製造されており、世界中で愛用されています。双発機として、現在も生産されているパイパー社のセネカとセミノールも、チェロキーの胴体や翼などがそのまま流用されているくらいです。

日本には1965年に初めてチェロキー140が導入され、140/クルーザーだけで42機が、そして全てのチェロキーシリーズとしては約100機が輸入されています。日本では172の方がチェロキーよりも多く導入されていますが、これは日本の小型単発機オペレイターのほとんどが航空機使用事業会社という理由からです。高翼である172は、これらの会社が主業務とする遊覧、写真撮影、測量、宣伝などに適しているためです。ところがアメリカやヨーロッパ、オーストラリアではオペレイターの半分は個人や企業であり、スピードや航続距離が売り物のチェロキーもポピュラーなのです。

当社は初等訓練用としてパイパー社のトマホークを、多発訓練用として同じくパイパー社のジェローニモを所有しているため、別会社の機体よりも同じ会社が作った低翼のチェロキーを使う方が、移行訓練などスムーズに進むわけです。飛行特性、スイッチやレバー、計器類のレイアウト、使用システムなどが似ているため、パイロットは迷うことがなく、安全性向上というメリットもあります。当社は75年製のクルーザーを所有していますが、ライバルである172に比べて優れている項目をいくつか挙げてみましょう。(なお、不公平にならないために、どちらも150馬力のエンジンを持ったモデルで比較しています。)


1.スピード

 クルーザーは支柱なしのコンパクトなデザインと、使用プロペラのピッチ角などにより、172より速く飛ぶことができます。例えば、調布−宮崎間の約930kmのフライトでは、172が片道約5時間かかるところ、クルーザーだと約4時間35分で飛ぶことができ、往復で50分もの差がつくことになります。


2.航続距離

 フルタンクの場合、172は1,030km程しか飛べませんが、クルーザーは1,400kmも飛ぶことができます。これは福岡を出発した場合、172は庄内が限度ですが、クルーザーだと函館までノン・ストップで飛べることになるわけです。


3.外部点検

 クルーザーの外部点検は、172よりも簡単に、かつ見やすいように設計されています。例えば172ではエンジンの隅々のチェックはできませんが、クルーザーはカウリングが左右ともに上にオープンするため、エンジン細部のコンディションなど確認することができ、便利なうえ安全です。また、ブレーキオイルの量も、172ではリザバーがラダーペダルの下に付いているので確認できませんが、クルーザーはエンジン・コンパートメント内にあるので簡単にチェックできます。そして、低翼なので燃料の色や量の確認も172のように翼によじ登ることなく行えます。


4.エンジン・コントロール

 クルーザーはエンジンをコントロールするスロットルおよびミクスチャーに大型機と同じレバー・タイプを採用しています。172はノブ・タイプを使っており、もちろん小型単発機のみで訓練をストップする人は良いのですが、多発機や大型機のプロを考えている人は、早くからこのレバー・タイプに慣れておくと良いでしょう。


5.エンジン計器配置

 エンジン関係の計器(回転計、油圧/油温計など)は、172ではエンジン・コントロールから離れた右側のパネルに置かれているので見づらいものです。ところが、クルーザーではそれらの計器は全てエンジン・コントロールのすぐ横、パイロットの前に並べられているので、見やすく便利なデザインとなっています。


6.アナンシエイター・パネル

 クルーザーは大型機にしか見られない、システムの異常発生を赤の光文字でパイロットに知らせるアナンシエイター・パネルというものを装備しています。電気、油圧、真空系統の3つのシステムに分かれ、ライトが切れていないかを確認できるテストボタンも付いています。


7.計器灯

 夜、コックピットの計器を見るために使うライトは、172の場合、たった1個しかありませんが、クルーザーには全部で12個も付いています。しかも、172のライトはパイロットの後方天井から向けて照らすため、頭の影で見づらいものですが、クルーザーは大型機と同じく全て計器パネルに組み込まれており、見やすく安全です。


8.機内騒音レベル

 クルーザーは172よりも厚い外板を使い、空気との摩擦や空気漏れの原因となるドアが1つしかないので(172は荷物ドアも入れて3つ)、機内の騒音レベルはかなり低いと定評があります。また、プロペラのピッチ角が172に使用されている物より深いタイプを装備しているため、騒音だけでなく振動も低く抑えられています。これらは快適なだけでなく、長時間のフライトにおいては疲労も減るというメリットがあります。


9.全可動式水平尾翼

 これは水平尾翼が一体となって動くもので、操舵力の軽減につながっています。そのため、エレベーターが要らないなど部品数、重量が減ったため、スピードアップ、騒音/振動の減少にもなっているのです。

10.手動フラップ

 フラップの作動に、クルーザーではシンプルで確実な手動フラップが採用されています。172は電動タイプなのですが、電気モーターが壊れたり、電気系統の不具合のため、フラップが作動しなくなってしまい事故に繋がることがよくあります。また、電動だと、フラップの作動スピードは決められていますが、手動の場合、パイロットが必要に応じて自由にコントロールできるため、安全かつ便利なシステムなのです。

11.ラダートリム

 クルーザーには空中でピッチだけでなく、ヨーの調整も行えるラダートリムが付いています。そのため、長時間の上昇や、低速飛行時などにおいて、パイロットはラダーペダルを踏み続けなくても良いのでとても楽になります。しかも物理的なトリム・タブを付けるのではなく、ラダーペダルをバネの力で動かすという方法を使っているため、空気抵抗や重量の増加がなく、飛行中の振動も出ないという素晴らしいデザインなのです。172にはラダートリムは付いていません。

12.静圧ポート共有ピトー管

 速度計、高度計、昇降計を動かすのに使う静圧ポートは、普通胴体の横に付けられています。しかし、もしも着氷で詰まれば、これらの大事な計器が使用できなくなってしまいます。そこでクルーザーでは静圧ポートをヒーター付きのピトー管に入れることにより、着氷がおきてもヒーターで溶かすことができるという安全設計を採用しています。

13.ショック・アブゾーバー

 172ではメインギアのショック・アブゾーバーに板バネ式が使われていますが、クルーザーにはもっと効果の大きい油圧式が採用され、ランディングの時などのショックをやわらげています。また、ノーズ・ギアも、172よりも大きなサイズのタイヤを使っているため、さらにクッション効果を高めています。

14.横風成分

 飛行機はある一定以上の横風を受けると、翼端が滑走路にあたるため、離着陸できません。低翼機の方が地面と翼の距離が短いため、横風に弱いのが普通なのですが、クルーザーはドーザルフィンや大きなキール・エリアがあるため、このクラスでは最も横風に強い機体になっています。172は15ノットの横風が限度ですが、クルーザーは17ノットまで離着陸が可能なのです。

 さて、当社はチェロキー140としては最もデラックスな“E”タイプであるクルーザーを所有しているわけですが、パイパー社およびアフター・マーケットで付けられる様々なオプションを装備し、他社のクルーザーよりもさらにデラックスな機体となっているので、それらを紹介していきましょう。


1. Full IFR equipped

 当社のクルーザーには2個のradio、2個のLOCVORGlide SlopeADFDMEMarker beaconsAudio panel等、完全なIFR装備が付けられています。しかもそれらは小型機の世界では最も高級な電子メーカー King社の製品なのです。

2.Intercom

 教官との会話や地上との交信をスムーズに、かつ安全、正確に行うため、当社のクルーザーにはTelex社のインターコムを装備しています。ポータブルではなく、パネル・マウント式で、後席の乗客/オブザーバーも使用できる4人用です。普通のインターコムと違い、全員が会話でき、ATCとの交信や音楽などを4人とも聞けるモード、パイロットと教官だけが会話/ATC交信を行い、後席の乗客2人が別のチャンネルで会話/音楽を楽しめるモード、そしてパイロットのみがATCとの交信に集中して、残りの3人が会話/音楽を楽しめるモードと、必要にあわせて3つのモードをセレクトできるトップクラスのインターコムなのでとても便利です。そして、前席用、後席用とボリュームが個別に設定されているのも普通のインターコムでは見られない機能です。


3.PushToTalk Switches

 インターコムが付いていても、地上との交信はマイクを手に持って行う機体もありますが、当社のクルーザーには操縦桿から手を離さずに交信できるように、操縦桿にプッシュボタンを設置していますので、便利な上、安全性も増します。もちろん、バックアップ用としてマイクも機内に常備しています。

4.DME

 これは地上の発信局からの電波により、それらの局までの距離を出すもので、航法や計器飛行、計器進入時に大変役立つものです。当社のDMEは距離だけでなく対地速度も算出される便利なものです。


5.Staticfree ADF antenna

 ADFは低い周波数を使うため、静電気などにより感度が弱くなってしまいます。ところが、当社のクルーザーにはこれを解消する高級なアンテナを装備しているので、航法や受信に問題なく、AM発信局のニュースや音楽放送もクリアに楽しみながらの飛行ができます。

6.Marker Beacons

 当社のクルーザーに付けられているMarker Beacons(計器進入時などに使用)は、3個の大きなインディケイターのそれぞれの明るさを細かく調整することができます(普通は3個同時にしか行えません)。また、電球のテストも1個ずつ行うことができます。


7.Bultin TAS Indicator

TAS(真対気速度)はコンピューターかグラフを使わなければ出てこないのですが、当社のクルーザーの速度計にはダイアルを回すだけでTASが出るようなindicatorが組み込まれているため、航法が正確かつ安全に行えます。

8.Madras wingtips

 当社のクルーザーには低速時の安全性向上と、揚力増加を目的としたMadras社が開発した特別なwingtipsが付けられています。これにより危険なスピンに入りにくく、また上昇率も普通のクルーザーよりも10%増えました。

9.Speed wheel fairings

 これは、飛行中にタイヤの周りに発生する空気抵抗を減らし、結果的にスピードアップ(約5kmh)と航続距離延長(約40km)につながるもので、当社のクルーザーは全てのタイヤに付けられています。

10.GPU outlet

 当社のクルーザーには、バッテリー容量が低い時などのスタート時に車からジャンプ・スタートさせるためのコネクターを胴体の横に装備しています。プロペラからかなり離れており、後流が当りにくい右胴体に付いているため安全にスタートすることができます。

11.Digital Clock

 当社では、パイパー社オリジナルのアナログ式時計をアフター・マーケットで売られているデジタル式の物に変えました。見やすくて、ストップ・ウォッチ、カウント・ダウン機能付きで、ワンタッチで世界標準時間に変わるなど、とても便利な時計です。

12.Remote ELT switch

 飛行機が墜落時に自動的にSOS信号を出し、機体の位置を知らせるELTは、トマホーク以外、全て尾部に装備されています。このためマニュアルでオンにしたり、テストしたりすることができないため、当社のクルーザーはパイロットのすぐ横にリモート・スイッチをオプション装備しています。

13.Rosen Sunvisors

 これは、Rosen社が開発した、長さの調整もできる3軸式(オリジナルは2軸式)のデラックスなサン・バイザーです。パイロット、コ・パイロットの両サイドに取り付けています。

14.Height Adjustable seat

 普通の小型機のシートは前後の調整しかできないため、身長が低いパイロットはクッションなどを使用しています。ところが、当社のクルーザーには油圧式で高さの調整もできるパイロットシートを装備しているので大変便利です。

15.Overhead air vents

 外からのフレッシュ・エアを機内に入れる空気取入口は、クルーザーでは4席とも足元に付けられています。ところが、当社のクルーザーには頭上からもフレッシュ・エアを取り入れられるように、オプションで天井にも取入口を付け、夏の暑い日でも機内を涼しく、快適に保てるようにしています。

16.Towbar storage

 機体を地上で引っ張るのに使うトー・バーは、普通後方荷物室に置いておくのですが、出し入れが面倒だし、乱気流に合うと吹っ飛んで、最悪の場合、パイロットや乗客がケガをすることもあります。そこで当社のクルーザーは、後部座席の足元に、このトー・バーをストアできるフックをオプション装備していますので、安全性が高まり、出し入れも簡単になりました。なお、当社のトー・バーはアフター・マーケットで売られているスプリング・ロックやピン・ホールダー付きの高級なコンパクト・タイプです。

17.StainlessSteel brake discs

 当社のクルーザーには、クリーブランド社製のステンレス・ブレーキ・ディスクが取り付けられています。これはブレーキ効果が高まり、サビも発生もしない優れたディスクです。

18.Modern Control Wheels

チェロキー140はクルーザーも含め、全てリボン型の操縦桿が付けられています。もちろん使用するのに全く問題はありませんが、当社のクルーザーにはアローなどに使われている近代的なヨーク型の操縦桿を取り付け、古さを感じさせないモダンなルックスとなっています。

これらの他にも、荷物用ベルト、キャビン・カバー等のオプションを採用しており、当社のクルーザーがとてもデラックスな機体であることが、おわかりいただけたと思います。                                         

                                         CHROKEE CRUISER ,N32874

MAKER PIPER
MODEL PA28-140E
SEATS 4
ENGINE LYCOMING
SPEED 220km/hr
RANGE 1,400km
WEIGHT 978kg MAX
FUEL 189 liters
FLAPS MANUAL





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