Piper-Geronimo(パイパー・ジェローニモ)について

 Strawberry Aviation,Inc.ではMEL trainingにジェローニモという機種を使用していますが、よく「初めて聞くが、一体どんな機種なのか?」とか「なぜ、他社では使われていないジェローニモという機種を導入したのか?」といった御質問を受けてまいりましたので、ジェローニモについての歴史、導入した理由、なぜプロ・パイロットを目指している方(またはそれに準ずるレベルの訓練を希望する方)にとってジェローニモが良いのか、そして当社のジェローニモの装備について順を追いながら説明していきたいと思います。

History

 ジェローニモの前身はアパッチ(Apache)というパイパー社が作ったlight twinengine airplaneです。これは1953年にパイパー社が4人乗りのtwinを設計し、54年から生産が終わる62年までの9年間で1,953機(偶然にも設計した年と同じ数)送り出した機体です。オリジナルのアパッチは150HPのエンジンを2つ付けていましたが、58年以降は5人乗りにする為に160HP×2となり、全アパッチの約半数にあたる948機がこのPowerup typeです。アパッチは62年に生産が終わりましたが、パイパー社は60年からアパッチを元にエンジン・パワーをさらに増し、6人乗りとして水平・垂直尾翼、Landing gear systemなどを大型化したアズテック(Aztec)の生産をスタートしました。このアパッチとアズテック(両機ともPA23model)は合わせて約7,000機も売れ、light twinengine airplaneのベスト・セラーになりました。日本にはアパッチが2機、アズテックが7機輸入され、日本航空の社用機として採用された機体もあります。また、日本航空のナパ訓練所ではキング・エアー(King Air)を導入するまでは約20機のアズテックが応用訓練機として使用されました。

 アパッチはパイパー社にとって3つの“First”のタイトルを持つ記念すべき機体です。まず、アパッチはパイパー社が生産した“First TwinEngine”機なのです。また、それまでは小型機と言えば羽布や木材を多用していましたが、アパッチは“First AllMetal(全金属製)”機となりました。そして、パイパー社の機体にはチェロキー、サラトガ、コマンチ、セネカ、ナバホ、シャイアン等、インディアンの名前が付けられていることで有名ですが、その“First Indian name”機となったのがアパッチなのです。50年、60年代のlight twinengine 機生産の50%はアパッチ/アズテックという大人気でした。しかし、70年代に入ると航空産業は伸びていくにもかかわらず、オイル・ショックが起こり、新機の購入が困難になってきました。そこで、テキサス州の航空機改造会社が、タフに作られた人気の高いアパッチに目を付け、各所を改良することにより、性能を大幅にアップさせ、その当時の新造機の約35%というバーゲンプライスで販売することを決め、FAAの許可を取りました。こうして作られたのがジェローニモで、アパッチとは全く異なる機体と言えるほどの素晴らしいairplaneが誕生しました。改良は20itemsにわたって色々とありますが、その中の代表的なitemを紹介しましょう。

1. Engine Power

 エンジンを180HP×2と、さらにパワー・アップさせオリジナルのアパッチに比べ巡航速度が40km/hも速くなり、上昇率も50%増え、1発止まった場合の安全性も向上しました。

2.  Engine Cowlings

 エンジン・カウリングを新設計し、空気抵抗を減らしたうえ、アパッチでは取り外しが両方合わせて15分はかかっていたものが、5分以内でできるようになり、整備性も良くなりました。そして材質もそれまでの金属に代わり、複合材で作られた物に変えた為、軽くて丈夫なカウリングとなりました。

3.  Cabin

 キャビン内を6人乗りにデザインし直し、最後部のシートの後ろに新しく荷物室を設け、床面も強化しました。そして最後部の乗客の為に左右窓を1枚ずつ追加し、fresh air ventsも追加され、明るく大きなキャビンとなりました。但し、当社のジェローニモはチャーター客が荷物を沢山持っていることが多い為、5人乗りとして6人目のシートにも荷物を置ける様にしています。

4. Nose

 丸くてずんぐりしていた機首をシャープな長い物に設計し直し、機首部の空気抵抗を60%もカットすることに成功しました。これによりスピードが約10kmh速くなり、この長い機首部にヒーター用モーター、GPUコネクション、荷物室を設ける等、スペースも有効活用しています。

5.  Tail

 上記の4.と共に外見ですぐにジェローニモとわかるユニークなformが、丸かった垂直尾翼を近代的な直線形に設計し直し、大きなラダーを付けて安全性を増加させたことです。これによりVmc(1発止まった場合にdirectional controlが可能な最低速度)を下げて安全性を向上させ、ラダーにかかる力も減少しました。

6.  Vacuum Pump

 アパッチでは右のエンジンにしか付いていなかった計器用の真空ポンプを、左のエンジンにも取りつけた為、圧力が安定し、バック・アップにもなり、信頼性、安全性が向上しました。

7.  Landing Gear

 前記の1〜6の理由で約240sも重くなった機体を支える為、landing gear systemをアズテックに使われている強い物にチェンジしました。そして、アパッチではgearをアップにしてもタイヤが少し出ていましたが、ジェローニモではgear doorsを大型化し、タイヤを完全に引き込んで空気の流れをスムーズにすることができた為、約10kmhのスピード・アップにつながりました。

8.  Charging System

 発電機を直流を使うGeneratorから交流のAlternatorに換えた為、軽量化と整備性が向上し、またlow RPMでの発電能力も良くなりました。

9.  Front window

 コックピットのfront windowを2面から1面(one piece)に換えた為、センター・ポストが無くなり、visibilityが良くなったうえ、noiseも減り、すっきりとした感じになりました。

10.Cockpit

 パイロットにとって嬉しいことが、50年代のコックピットが70年代の流れに合わせて再設計された事です。例えば、Control Wheelをリボン型からヨーク型にチェンジしたり、計器やゲージを近代的にアレンジしたり、スイッチ類等も全て使いやすい場所に移動する等の改良により、全く古さを感じさないコックピット・レイアウトとなりました。素晴らしいのが、計器パネルをプラスティックからメタル板に換えたことで、これは90年代に入ってやっと他の新造機が採用し始めたので、ジェローニモがlight airplaneにおけるFirst metal panel機となったわけです。

 テキサス州の航空機改造会社は最低でも200機のアパッチがジェローニモへの改造を受けると考えていたようですが(実際150機以上のオーナーが申し込んでいました)、第2次オイル・ショックの為世界的に燃料代が急騰していまい、インフレとともに不況になっていきました。その為次々にキャンセルが続き、結局67機のジェローニモを生産したところでこの会社は倒産してしまいました。

 この67機のうち、前記の10itemsを含む20items全てを行った完全改造機は29機のみで、残りの38機は部分改造機です。部分改造というのは、例えば、機首はシャープであるのに垂直尾翼は丸いままであるとか、またその逆であったり、外見はジェローニモなのにインテリアやエンジンはアパッチのままである等、様々です。但し、エンジンを180HPにパワー・アップするだけの改造は今でもあちこちの整備会社で行われており、2004年9月の時点では224機がグレード・アップされましたが、これらはジェローニモとは言いません。当社のジェローニモは59年製のアパッチを74年に完全改造したもので、しかもオート・パイロット、RNAVfuel computer

電動トリム等を装備した大変デラックスな機体です。当社のジェローニモはアパッチ時代も含めて、92年に当社が導入するまでの34年間、様々な会社に採用されましたが、全て重役輸送、チャーター、航空測量(数年間は胴体下面に高速カメラを装備していました)、そしてコミューター()として使用されており、一度も訓練には使用されていません。2004年9月の調査では計49機のジェローニモが現役で活躍しているとのことですが、その中で完全改造を受けた機体は20機だけだそうですので、当社のジェローニモは大変珍しい存在と言えます。この現役49機はアメリカ国内に41機、カナダとメキシコに3機ずつ、そしてホンデュラスとパナマに1機ずつしかない為、ジェローニモは北・中米でしか見られないわけです。アメリカ人でもジェローニモを実際に見た人は少なく、当社機のまわりにはよく人山ができることがあります(写真を撮ったり、わざわざオフィスに聞きに来るパイロットもいます)。タワーとの交信中でも、時々「ジェローニモって何ですか?」と聞かれることがあるほどで、日本人で実機を見たり、乗ったことがあるラッキーな人達と言えば当社の卒業生のみかもしれません。

 次に、当社がジェローニモを導入した理由をいくつかあげてみましょう。

1.  Propeller rotation

 SenecaSeminoleDuchesといった訓練によく使われている機種のプロペラは、カウンター・ローティング(CR)と言ってお互いに反対に回ります。これはCritical engineというのを無くし、どちらが止まっても同じ性能低下になる為、訓練上安全ではありますが、現在エアラインやコミューターで使われている機種にCRは1機もありません。このため、CRで訓練を受けてもプロを考えている人にとっては意味がありません。Critical engine(ジェローニモは左)のコンセプトはプロの世界では絶対に必要なのです。

2.    SingleEngine Performance

 ほとんどの小型双発機の1発止まった時の上昇限度は1,000m〜1,800m位です。しかしこれでは高い山の間をフライト中に1発止まれば、もうアウトです。完全改造を受けたジェローニモは3,300mと、小型双発機としては最も高い上昇限度を誇っており、当社のジェローニモはチャーター用としても使用する為、安全面からも導入を決定したわけです。

3.    Actual Feathering

 ApacheSeminoleDuchesは性能の関係から、訓練及びチェック・ライドの時の片発飛行は「Simulate」しか行いません。つまり本当にFeatheringに入れず「入れた事にして」フライトするだけです。これは1人で壁に向かってテニスの練習をする様なもので、どうしても無理があります。ジェローニモは左右どちらのプロペラをFeatherにしても安全に飛行することができます。

4.     Hydraulic Power

 他校が訓練に使用している双発機のフラップはmanual(手動)かelectric(電動)で、gearは全てelectricです。しかし、エアラインやコミューターで使用される機体は全てhydraulic(油圧)でフラップとgearを動かしているのです。Hydraulic Powerは全くシステムが違うので、プロを考えるなら、なるべくそれらの機体が使用しているhydraulicに慣れることが大切です。ジェローニモはフラップ・gear共にHydraulic Powerを使用しています。

5.     Gear lever position

 エアラインやコミューター機は、gear leverが必ずcopilot side(右)に付いています。しかしほとんどの小型双発機のgear leverは左に付いており、これもプロを目指す人にとっては紛らわしい事になります。ジェローニモは大型機と同じく右にgear leverが付いています。

6.     Weight & Balance

 Apache(〜57年)、SeminoleDuchesBaron55、Twin Commanche(〜65年)は4人乗りなので、C−172やCherokeeと同じシンプルなWeight & Balanceの計算となります。しかしこれでは単発機からの発展がありません。ジェローニモは3列のシートがあり、荷物室も3ヵ所ある為、バリエイションが多く、コミューター機に少しでも近いW & Bのスタディーができるのです。

7.     Cabin Volume

 SeminoleDuchesSenecaTwin CommancheTravelair等は全て単発機を双発化した為、そのままの胴体を使用しています。この為、室内は狭く、計器パネルやエンジン・コントロール、スイッチ等も無理やりもう1組付け加えたといった感じです。ところがジェローニモは初めからVIP輸送用双発機として開発された為、室内、計器パネルともゆとりを持っており、パイロットだけでなくチャーター乗客にも人気があります。

8.      Air Cushioned seat supports

 これも訓練機よりもチャーターを考えて決定した理由の1つですが、上記の説明の様に、VIP輸送機として作られた為、アパッチ/ジェローニモのシートは座り心地を良くする為に背もたれの部分に空気を入れています。この為、クッション効果が高く、最後部以外のシートはかなりリクライニングするので、長時間のフライトでもゆっくり休むことができるのです。 

 他に、離着陸距離が非常に短いので、short runwayしか持っていない空港にも入れることや、失速速度が低いので安全である等、チャーターにメリットがある理由がいくつかあります。

 さて、当社のジェローニモは完全改造後、様々なオプションを追加してトップクラスの機体となっているので、いくつか紹介してみましょう。

1.   Autopilot

 当社のジェローニモはCentury社の3軸式(高度、上昇・降下率、方位の全て)のオートパイロットを装備しており、しかも航法計器との連動(2種類)まで可能です。加えて、計器進入(逆方向進入も含め)までオートで行う素晴らしい性能を持っています。

2.RNAV with DMEhold

 これは地上の航法発信局を電気的に好きな所へ同時に4ヵ所も動かせる便利な物です。巡航モードと進入モードにSensitivityも切り替えられるKing社の最高級品で、DMEholdというメモリーもあるので、DME電波を発信しないILS進入時でも、他の発信局のDME情報を同時に示すというかなりのハイテク電子機器です。しかも、これらの全てがオートパイロットと連動する事ができるので正確かつ安全な航法・進入が行え、エアライナーも顔負けというわけです。

3.    Fuel management Computer

 これは左右のエンジンが使用している燃費を出したり、それぞれあとどのくらいの燃料が残っていて、あと何時間飛べるか等がリアルタイムでデジタルでスクリーンに示されるコンピューターです。夜間のフライト対して眩しくないようにするdimmerや、今までに使用した燃料のトータル、1発止まった場合の燃料移動の量等まで出すことができます。

4.    Electric Trim tab

 ピッチ調整の為のトリムがcontrol wheelに内臓されているので、wheelを握ったままで指で電気的に動かせる安全で便利なスイッチです。また、このスイッチを押すと、自動的にオートパイロットがOFFになるようにもなっています。

5.     Longrange fuel tanks

 当社のジェローニモは、このオプション・ティップ・タンクを追加したことにより、2,500km(北海道の稚内から沖縄まで!)を、ノン・ストップで飛べるという素晴らしい航続距離を持つ機体になりました。FAAによると、ジェローニモとして改造を受けた67機の内このオプション・タンクを装備しているのは2機だけとのことです。(2004年9月現在)

6.     Carburetor Air Temp. Gauge

 これはエンジンの気化器内の温度を示し、着氷が起こりやすい場合、パイロットにアドバイスする計器です。着氷の予防や早期発見ができ安全性が向上します。

7.     Dual systems

 アパッチからジェローニモへの完全改造の1つに真空ポンプをもう1個追加し、安全性を増したことは既に紹介しましたが、当社の機体はさらにオプションで高度計、衝突防止灯ももう1個ずつ追加しています。

8.     Flap gap seals

 これは巡航時にフラップと主翼の間にできるわずかな隙間を完全に塞ぎ、空気の流れを良くし、揚力を増やし、抵抗を減らす物です。これにより、振動も減り、僅か5kmhですが巡航速度も増えました。

9.     Radio Master Switch

 当社のジェローニモにはかなりの電子機器が装備されていますが、このスイッチ1つでそれら全てをONOFFすることができるので大変便利です。

10.Fuel Dampning Capability

 中・大型機など、最大離陸重量と最大着陸重量の差が大きな飛行機は、離陸後に緊急事態が発生した場合でも、すぐに戻って来て着陸することはできません。大型Jet機は空中で燃料を捨てて、重量を減らし短時間で戻ってくることができますが、中・小型機は燃料があるレベル以下になるまで飛び続けなければなりません。しかし、この飛び続けている間に状況が悪化して墜落するケースも少なくありません。ジェローニモは小型機としては空中で燃料を捨てることができる唯一の機種で、これはクラシック・タイプのボーイング737クラスにも付いていないほどのシステムです。

11.Metco wingtips

当社のジェローニモには低速時の安全性向上と、揚力増加を目的としたMetco社が開発した特別なwingtipsが付けられています。これにより危険なスピンに入りにくく、また上昇率も普通のジェローニモよりも15%増えました。

 これらの他にも、Audio PanelADF unreliable lightIntercom、乗客用sun shades等、様々なオプションを装備しています。

                                        

                                                 GERONIMO , N200SA

MAKER PIPER
MODEL PA23-180
SEATS 6
ENGINE LYCOMING x 2
SPEED 300 km/hr
RANGE 2,500km
WEIGHT 1,814kg MAX
FUEL 540 Liters
FLAPS HYDRAULIC




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