Piper-Tomahawk(パイパー・トマホーク)について

 

 トマホークは1978年にアメリカのパイパー社により作られた、訓練を目的とした2人乗りの低翼機で82年までの5年間で約2,500機が作られました。日本には1979年に1機だけ輸入され、広島および北九州に約20年間常駐していましたが、すでにアメリカへ逆輸出されたので、残念ながら現在日本では見ることができません。ライバルのセスナ社が作った152が1940年代のデザインを使った140/150の発展タイプであるのに対し、完全にニューデザインとして作られ、設計には約2,250人の教官とパイロットが参加するといった珍しい方法が取られました。その為、安全性や居住性に優れ、性能も良く、特に教官に人気があります。しかし運航費や保険代等が152よりも少し高く、着陸をマスターするのに時間がかかるという理由から、ほとんどのスクールでは152を使っているようです。なぜ、当社があえてトマホークを訓練機として使っているかは、次の理由からです。

 

1.安全性

 トマホークは152よりも30年近く設計が新しいので、いろいろな所に安全性を取り入れています。例えば、速度計、高度計、昇降計を動かすのに使うstatic port は、152をはじめ全ての軽飛行機は1つしか付いていませんが、トマホークは機体左右に3つずつの計6つも付いているので1つや2つ詰まっても安心です。しかも万が一その6つが全て詰まっても、コックピット内に別のstatic source を使う切り替えスイッチが付いており、これは152にはみられません。また、トマホークの翼はグライダーのようにアスペクト比が高く(細長い)、滑空性能は152よりも優れています。この他、コックピットは太い鉄パイプで囲まれており、かなりのインパクトまで耐えられ、事実152なら死亡事故につながっていた事故でも、かすり傷程度で済んでいるケースが多くあります。コックピットからの視界は360°と、他の航空機の発見も早くできます。

 

2.居住性

 トマホークは152に比べ約20%もキャビンが広く作られています。152では肩が隣の人とぶつかったり、足を伸ばすこともできませんが、トマホークの広いスペースであれば長身の人でもゆったりとできます。クッションも152の2倍以上の厚さを持ち、シートの調整も細かくできます。ほとんどの飛行機のシート調整は、ただ前後に移動するだけですが、トマホークではシートレールに角度を付けたことにより、例えば、前にシートを移動させると、同時に高さもアップされ、よりパイロットの体形に合わせることができるのです。また、筆記具の置き場所もアーム・レストの所に設けられている等、さすがにメーカーではなくパイロット達による設計だと思います。

 

3.スピード

 トマホークは152と全く同じエンジン(ライカミング社のO−235型)を持ち、最大重量も757sと全く同じであるのに、そのデザインの良さにより、152より時速にして40kmh以上も速く飛ぶことができます。この為、アメリカやヨーロッパではトマホークは「空のスポーツカー」と言われています。スピードが速いと言うことは、訓練エリアまでの所要時間が短くて済み、決められた時間内での離着陸回数が増えるので、訓練効率がアップされます。

 

4.航続距離

 トマホークは152よりも多くの燃料を積むことができ、スピードも速いので、フルタンクではノンストップで1,100kmも飛ぶことができます。152はフルタンクで700kmしか飛ぶことができず、遠くへのクロスカントリーを行う場合、給油ストップが必要になり、そのうえスピードが遅いこともあり、かなりの時間のロスとなってしまいます。例えば、長崎空港から札幌へ飛ぶ場合(1,500km)、トマホークであれば1回の給油ストップ(30分)を含め、約8時間20分で飛べますが、152では2回の給油ストップが必要となり、約11時間もかかり、2時間40分もの差がついてしまうわけです。

 

5.運動性

 「空のスポーツカー」と言われるだけあり、スピードだけでなく、その運動性もエアロバティック機に近い性能を持っています。大きなホーンバランスが付いたT-tailデザインの為、ピッチ・コントロールが軽く、ロール・レイトも素早く、ヨーロッパの数国は軍の初等訓練にもトマホークを使ってきました。また、T-tail というのはプロペラや主翼の後流に入らず、トリムが楽で振動も少ない等の利点もあります。

 

6.技量向上

 トマホークの離着陸はなかなか難しいと定評があります。これは機体重量に対してのタイヤのサイズが小さく、nose gear shimmy damper が無い為、決められたスピードをきちんと守って進入し、接地のタイミングもマニュアル通り行わなければならないからです。大きなタイヤを付けた152では、かなり下手な着陸をしてもショックが無く、全くパイロットは感じません。しかし、これでは技量が上がらず、プロを目指す人は後々苦労することになります。これが「セスナで訓練を受けた人はセスナしか乗ることができないが、トマホークで訓練を受けた人は何にでも乗ることができる」と言われている理由になっているのです。

 

7.外部点検

 トマホークの外部点検は、152よりも簡単に、かつ見やすいように設計されています。例えば152ではエンジンの隅々のチェックはできませんが、トマホークはカウリングが左右ともに上にオープンするため、エンジン細部のコンディションなど確認することができ、便利なうえ安全です。また、ブレーキオイルの量も、152ではリザバーがラダーペダルの下に付いているので確認できませんが、トマホークはエンジン・コンパートメント内にあるので簡単にチェックできます。そして、低翼なので燃料の色や量の確認も152のように翼によじ登ることなく行え、ホイール・フェアリングが無いのでタイヤの傷や消耗などの確認も簡単にできます。

 

8.エンジンコントロール

 トマホークはエンジンをコントロールするスロットルおよびミクチャーに大型機と同じレバー・タイプを採用しています。152はノブ・タイプを使っており、もちろん小型単発機のみで訓練をストップする人は良いのですが、多発機や大型機のプロを考えている人は、早くからこのレバー・タイプに慣れておくと良いでしょう。

 

9.Carburetor icing(気化器内着氷)の発生率

 小型機による墜落事故の3大原因の一つにCarburetor icingがありますが、トマホークは設計上、発生率は、152の10万分の1(!)と言われています。事実、トマホークでのCarburetor icingによる事故は、まだ1件もありません。

 

10.衝突防止灯

 この衝突防止灯には、電球の回転を利用したビーコン・タイプと、カメラのフラッシュのようなストロボ・タイプがありますが、ストロボの方が他の航空機に発見されやすくより安全です。152は1個のビーコンを使用していますが、トマホークは2個の強力なストロボを使用しています。

 

11.計器灯

 夜、コックピットの計器を見るために使うライトは、152の場合、たった1個しかありませんが、トマホークには全部で12個も付いています。しかも、152のライトはパイロットの後方天井から向けて照らすため、頭の影で見づらいものですが、トマホークは大型機と同じく全て計器パネルに組み込まれており、見やすく安全です。

 

12.トリムの方法

 空中でピッチの調整を行い、パイロットの操舵力を軽減させるのに、ほとんどの飛行機には「トリム・タブ」というものがエレベーターに付いています。しかし、トマホークは操縦桿とエレベーター間のケーブルにバネを付け、そのバネの張力を変えることによってピッチ調整を行うという珍しい方法を使用しています。この方法であれば、飛行中の振動が減る、水平尾翼の面積を小さくし重量および空気抵抗を減らすことができる(スピードアップにつながる)、エレベーターに流れる空気がスムーズになりピッチの効きが良くなる、左右のエレベーターにアンバランスな力がかからない等、かなりの利点があります。

 

13.エンジン計器配置

 エンジン関係の計器(回転計、油圧/油温計など)は、152ではエンジン・コントロールから離れた右側のパネルに置かれているので見づらいものです。ところが、トマホークではそれらの計器は全てエンジン・コントロールのすぐ横、パイロットの前に並べられているので、見やすく便利なデザインとなっています。

 

14.手動フラップ

 フラップの作動に、トマホークではシンプルで確実な手動フラップが採用されています。152は電動タイプなのですが、電気モーターが壊れたり、電気系統の不具合のため、フラップが作動しなくなってしまい事故に繋がることがよくあります。また、電動だと、フラップの作動スピードは決められていますが、手動の場合、パイロットが必要に応じて自由にコントロールできるため、安全かつ便利なシステムなのです。

 

15.ELTの場所

 飛行機が墜落時に自動的にSOS信号を出し、機体の位置を知らせるELTは、全ての機種とも尾部に装備されています。ところがトマホークでは、マニュアルでオンにしたり、作動確認のテストができるように、パイロット席の横に取り付けられているのです。

 

 以上の他に、低翼機にしては横風に強い、危険なスピンに入りにくい、地上での旋回半径が小さいので狭い所でのマニューバーが容易等、新設計の飛行機ならではの利点が沢山あります。152に乗ったことのある人であれば、トマホークに乗ってみると、すぐに30年近くの設計の差がわかるはずです。

 

 

 さて、当社のトマホークは、他のトマホークには見られない様々なオプションを装備していますので、それらを紹介してみましょう。

1.               IFR Certified

 通常、トマホークは初等訓練に使用される為VFRのみですが、当社ではIFR可能としています。この為、天候による訓練のキャンセルを減らすだけでなく、ベーシックIFR機としても使用できる為、安くIFRレーティングが取得できます。

 

2.Intercom

 教官との会話や地上との交信をスムーズに、かつ安全に行う為、当社のトマホークにはフライト・コム社のインターコムを装備しています。Voice Activated Systemですので、ヘリコプター等のようにいちいちスイッチを押すのではなく、声を出せば作動する便利なものです。

 

3.               PushToTalk Switches

 インターコムが付いていても、地上との交信はマイクを手に持って行う機体もありますが、当社のトマホークには操縦桿から手を離さずに交信できるように、操縦桿にプッシュボタンを設置していますので、便利な上、安全性も増します。もちろん、バックアップ用としてマイクも機内に常備しています。

 

4.               Side Window Air Scoop

 夏の暑い日などは、どうしても地上での機内の温度が不快なほど上がってしまいます。そこで、当社のトマホークにはこのAir scoopを付け、地上でもプロペラ後流を利用し、機内を涼しく、快適さを保てるようにしています。

 

5.               Marker Beacons

 当社のトマホークには小型機の世界では最も高級な電子メーカーであるKing社のマーカー・ビーコン(計器進入時などに使用)が付いています。夜、明る過ぎないようにする為のbrightness切り替えスイッチや、信号音を消してVisual display だけにすることができるミュート・スイッチまで付いているとても便利なモデルです。

 

6.               Builtin TAS Indicator

TAS(真対気速度)はコンピューターかグラフを使わなければ出てこないのですが、当社のトマホークの速度計にはダイアルを回すだけでTASが出るようなindicatorが組み込まれているため、航法が正確かつ安全に行えます。

 

7.               Emergency Static Source

 これまでにトマホークはstatic port が全部詰まってもコックピット内にバックアップスイッチが付いていることを紹介しましたが、高度計や速度計はあまりにも大切な計器なので、当社は更にもう1つのバックアップスイッチをオプションで付けています。

 

8.               Dual Radio Antenna

 当社のトマホークには2本のラジオアンテナが付いているので、1本が使えなくなった場合でも安心です。このため、機体の重さ、空気抵抗は確かに増しますが、これも当社が安全を重視している証拠のひとつです。

 

9.               Automatic Pitot Tube Cover

 地上にパーキング中、ピトー管(速度を計る物)に虫等が入らない様にカバーを付けている機体を時々見ますが、うっかりカバーを外し忘れて事故を起こすパイロットもいます。ところが当社のカバーは、前に進み出すと空気力で自動的に外れる様になっているのでこのような心配がなく、また着陸すると自動的にカバーがかかるのでとても便利です。

 

 

 

10.Larger Oil Cooler

 トマホークにはパイパー社が設計したオイル・クーラーが付いていますが、当社のトマホークは更にもう1個、アフター・マーケットで売られている大型のオイル・クーラーをオプション装備しているので、暑い日の運航にも全く支障がありません。

 

11.         Composite spinner & backplate

 トマホークだけでなく、殆どの飛行機のプロペラスピナーとその取付板は金属で作られていますが、これらは重いだけでなく、よくヒビが入り大きな事故にもつながっています。そこで当社のトマホークには軽くて上質な複合材で作られた物に変えて安全性と性能を向上させました。これらはかなり高価なものですが、やはり安全には代えられない、と考えてのことです。

12.         Flexible brake Lines

 トマホークに限らず小型機に使用されているブレーキ・ラインは直径約6mmのアルミ製の物です。ところがトマホークなどの初等訓練機はどうしても訓練中にハード・ランディングをすることがあり、その度にブレーキ・ラインにストレスがたまります。そして最終的にはヒビが入ったり折れたりし、ブレーキオイルが漏れてブレーキが効かなくなることもあります。そこで当社のトマホークにはターボプロップやジェット機に使用されている、金属メッシュが入った直径28mmの高質合成ゴム製のブレーキラインを取り付けています。これによりヒビが入ったり、折れたりする心配がなくなりました。

 

13.         New Nose gear torque link

 トマホークにはnose gear shimmy damper が付いていないので、離着陸のスピードが速すぎたり、横滑りを起こすとnose gearが折れてしまいます。実はこれがトマホークの事故原因のNo.1になっている程で、訓練中の生徒にとっては不安になるようです。そこで当社はアメリカ・ワシントン州で98年4月に開発された新設計のshimmy を起こさない torque link を採用し、世界でこれを付ける4機目のトマホークとなりました。

 

14.         High Power ignition leads

 世界中の殆どの飛行機が使用しているプラグへの点火線は、Slick社またはBendix社の物ですが、当社のトマホークはChampion社が開発したばかりの電圧ロスが少ない高級な物に変えました。これによりエンジン始動やパワー・レスポンスが素早くなり、高高度での点火能力も向上しました。

 

15.         Chart checklists holders

 トマホークにはサイドポケットが付いていないので、飛行中は地図やチェックリスト等は後方のbaggage area に置くことになります。この為、これらを取るには後ろを振り返らなければならず、乱気流にあうと吹っ飛んでしまうこともあります。そこで当社のトマホークは左右にそれぞれ本皮製のホルダーを付けたので安全かつ便利になりました。

 

 これらの他にも、荷物用のベルト(チャイルドシート用ベルトとしても使用でき、45s以下の子供なら3人乗りとしてのオペレーションができます)、キャビン・カバー等、他のトマホークには見られない物を装備しています。つまり、当社のトマホークは、2004年9月1日現在で世界中に約1,600機飛んでいると言われているトマホークの中でもトップクラスに入る機体なのです。

                                                TOMAHAWK , N2370B

MAKER PIPER
MODEL PA38-112
SEATS 2
ENGINE LYCOMING
SPEED 200km/hr
RANGE 1,100km
WEIGHT 757kg
FUEL 121 Liters
FLAPS MANUAL




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