いつか好きだと言って

どうして素直になれないんだろう。

本当は大好きなのに。

彼の前だと緊張して、本当の自分を出せなくなってしまう。

どうしてなんだろう・・・。

いつか・・・。好きっていえたらな・・・。


コーヒーカップをカウンターの後ろの棚にしまう。しかしすぐさま周防の声が飛んできた。

「おい!!そのカップの置き場所はそこじゃねーよ!何回言ったらきがすむんだ!!」

「な、なによ。どなることないでしょ!!」

「ったく。この間もそういって高値のコーヒーカップ割ったのどこのどいつだ!」

「あ・・・あれは急にあんたが大声出すからでしょー!」

にあら見合う二人。

店の客もその迫力に驚くほどに。

しかし大分仕事にもなれてきた

「300円ちょうだいいたします。ありがとうございましたー」

最近は店のレジまで任されるようにもなってきたが。

きっちりとした正確の周防。ちゃんとの事をじっと見つめてチェックしている・・・。

じっとじっと・・・。

を射抜くような熱い視線で・・・。


(・・・。な、なんでみてんの・・・。緊張しちゃうじゃない・・・)


は体が固くなり、レジを打つ手も震えてきた。

チャリンチャリーン・・・ッ。


100円玉3つと10円玉5個が床に落ちる。

「あ、す・・・すみません。すみません・・・」

はあわてて小銭を拾う。

「ったく何やってんだよー!かったるいウェイトレスだなー」

レジの前には他の精算を待つ客も並んでいて、少しいらついた顔でを見下ろしていた。

「すみません。すみません・・・ッ」


は焦り、尚のこと、手間取ってしまう。

焦りまくる・・・。

。もういいからお前、皿洗ってろ」

「周防君・・・。でも・・・」

「お客様が待ってるんだ。わかったな?さっさと洗い場に行けよ」

「・・・わかった・・・」

周防が落ちた小銭を拾い、代わりにレジに立つ。

は洗い場に行くが・・・。

「お待たせしました。380円になります」

「おお。やっぱり慣れた店員さんの方がいいねぇ。安心して精算できるってもんだよ」

サラリーマン風の男が周防を見てにこにこ品柄言った。「アリガトウございました!またお越し下さいませ!」

周防はてきぱきとレジをこなし、客をさばく。


確かにはまだ慣れていないというのもあるが周防の接客のうまさを実感する・・・。

さっき、床にしゃがんで小銭を拾った時の自分がなんだかすごく情けなく思えて少し辛い・・・。

がちゃーんッ!!

手が滑り、コーヒーカップが飛び散った。

「あ・・・。ご、ごめんなさいッ・・・」

割れた音に客が一斉にに注目。

はたまらない気持ちで破片を拾うおうとした。

「ごめんなさいごめんなさい・・・。痛ッ・・・」

破片で人差し指を切る・・・。

血が出て痛いが・・・。

客達の冷たい視線がの背中を刺して痛い・・・。

なんだか逃げ出したい気持ちになる・・・。

「!?」

「来い」

の手をぐっとつかみ、従業員室につれていく周防。

「座ってな」

をパイプ椅子に座らせ、周防は救急箱を持ってきた。

「周防君あの・・・」

「いいから黙って!」


そういって周防は血が出ているの人差し指をじっと見つめ・・・。いきなり口へ持っていく・・・。


チュッ。


「・・・っ」


背中をビクッとふるわせる・・・。


指先が周防の唇の熱さがの体の芯まで伝わる・・・。


血を吸い出す感触が生々しくて・・・。


なんだか吸い出される先端に頭がクラクラしてくる・・・。

ぼんやり意識しているうちにいつの間にか手当がおわり、ばんそこをが張られていた。

「よし。これで終わりだ」


「あ・・・ありがとう・・・」

また・・・。周防に助けられてしまった。


「あんま・・・。落ち込むなよ。誰でも最初は失敗するさ」

「・・・」

周防の優しい言葉もなんだか・・・。

「周防君に迷惑かけないようにって思うほどなんだか緊張しちゃって・・・。ごめんね」

「何だよ!お前らしくねーな!!元気出せよ!!」

「周防君・・・」

「あのな・・・。確かにお前はおっちょこちょいだし、すぐ怒るし、口うるせぇ奴だけど、いっつも笑ってる・・・。そんなお前がす・・・」

周防、そこで言葉が止まる。
「・・・す・・・?す、何・・・?」

「す・・・っ、す・・・ッ。す、すごい奴だと思ってるから・・・そ、そのッ・・・とにかくそういう事だ!」


周防の背中が思いっきり照れている。

なんだかがキュンとした・・・。


言いたいな・・・。


自分の本当の気持ち・・・。


とても言いたい・・・。


「さ・・・。仕事にもどるぞ・・・」

周防がドアに手をかけた。

「・・・すき・・・」


「え?」


は真正面に周防を見つめる。


「あたし・・・。周防君が好き」


「!」


言ってしまった・・・。


言ってしまった・・・。


自分の気持ち・・・。


二人の間に何ともいえない沈黙が流れる。


それに耐えられなくなった


「あ・・・。も、戻らなくちゃね。お客さん待たせちゃだめだから・・・」

はドアに手をかけ出ようとした。


「!」


周防はの手をグッとドアノブから離しグッと握る・・・。

「・・・待てよ」

「で・・・でもあの・・・ッあ・・・ッ」


ドンッ。

周防はそのままをドアに少し強引に押しつける。


「・・・周防君・・・あの・・・」


「・・・ったく・・・。先に言いやがって・・・」


の髪をそっと耳にかける周防・・・。


「・・・。今度は俺の番だよな・・・」



今までに見たことがないくらいに優しい目でを見つめる周防・・・。


そして囁く・・・。


「お前が・・・。好きだ・・・」


熱い息が・・・耳の奥まで伝わって・・・。


・・・。好きだ・・・。好きでたまらねぇ・・・」


溶ろけそうな・・・周防の低い甘い声・・・。


それに全身つつまれているみたいで・・・。


「・・・。二度とこんなこっぱずかしいこといわねぇから・・・ちゃんと覚えておけよ・・・今の・・・」


「・・・。うん・・・。絶対忘れない・・・」


は周防の胸に顔を寄せ、しばらく抱き合っていた・・・。


やっと通じ合った気持ち・・・。


盗むはずのハートがいつのまにか自分が盗まれていた。


でもそれが運命だったのかもしれない・・・。


そう思うだった・・・。

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