夜10時。
机に向かい、教科書をひろげている周防。
しかし10時になったのを確認すると、閉めたはずの窓の鍵を開け、窓も開けておく。
そして、テレビゲーム、お菓子を用意する。
「たっく・・・。なんでオレがこんな事しなきゃいけねぇんだ・・・」
それでも。夜、彼女が来ると思うと、胸が躍る。
『あなたのハートを盗みに来たの』
と言って、突然、窓から入ってきた女。
『怪盗アプリコット』だと。
最初は、ただ、仮装好きの妙な女だと思っていたが・・・。
いつのまにか、彼女が来ることを待っている自分がいた。
たわいもない冗談を言い合ったり、ゲームして勝ち負けで喧嘩したり・・・。
それが当たり前になっていた。
「こんばんはー!怪盗アプリコットでーす♪今夜も参りました★」
元気すぎるほど明るい声で窓から登場。
周防は
「夜から威勢がいいな。お前は」
と、つんとした顔で言うが、心は嬉しさでいっぱい。
ずっと待っていた彼女が目の前にいる・・・。
そして今夜は周防はある決意をしていた。
ずっと胸にあった疑問・・・。
アプリコットとよく似た少女の事を・・・。
「あ!!なんだ。周防たら、お菓子まで用意してくれてたんだ!ではありがたく、いっただきまーす♪」
はポテトチップスをポリポリほおばる。
「・・・。お前・・・。来て早々、よく喰うな・・・」
「だって。お腹減ったんだモン。あ、ごめん。確かにお行儀は良くないわよね。じゃあ、改めて、いただきます」
少し丁寧に合掌。
「まーったく。そういうところは”アイツ”と同じなんだから・・・」
「アイツ?誰それ」
周防はあんずをじっと見た。
「・・・。お前が一番よく知ってる奴だよ」
は首をかしげる。
「まぁいいや。さ、今日はどうするんだ?何をする?」
「今日は・・・。うーんそうだなぁ。周防君の学校の事が聞きたいな」
アプリコット、いやはこうして周防に少しずついろいろな質問をする。
そうすることで周防の事をよく知ろう・・・と思って今まで色々な質問をしてきた。
でもいつのまにか自分の方が・・・周防への想いが膨らんできていることには気がついていた・・・。
学校の周防。
プライベートの周防・・・。
どんどん好きになっていく・・・。
「なんだよ。オレの顔をじろじろと・・・。もしかして、オレに惚れたとか?」
「!!な、何いってんのよ。そんなわけないじゃ・・・。ってあー!!」
が照れている間に、周防、あんずの分のケーキをペロリ。
「ずるい!そんな手は卑怯よ!!」
「へっ。ったく、 相変わらず食い意地はってんなぁ。オレの学校の同級生も、お前みたいな奴、いるぜ?」
はちょっとドキッとした。
「あたしみたいな・・・?ど、どんなひとよ・・・」
「・・・。元気で、明るくて。オレがバイトしてる喫茶店、最近手伝ってる。でもこれがまぁ。ドジばっかりしてさ・・・。今日も釣り銭まちがえたんだぜ?」
周防の口振りにちょっとムカッときた。
確かに今日、はおつりを多く客に渡してしまった。
確かにそうなのだが・・・。
「で、でもその子だって一生懸命やってるのよ。きっと・・・」
「ああ。オレもそう思ってる。だから目が離せないんだ・・・。アプリコットとそっくりだな・・・」
またまた周防の視線にドキリッ。
もしかして・・・。
(あんずがアプリコットだって・・・ばれちゃってる!?)
の心に緊張が走った。
「アプリコット」
「は、はいッ」
は思わず、敬語をつかってしまった。
周防はおもむろに、机の引き出しからコインを取り出した。
そして突然、天井に向かって放り投げた。
パシッ。
コインを受け止め、握りしめる周防。
「賭をしよう」
「賭け!?」
「表か裏か・・・。アプリコットがはずれたら、君の正体を明かす。君が当てたら・・・。もうオレはこれ以上何も言わない。どうだ?」
直感的には既に周防は自分の正体に気づいていると確信した。
しかし・・・。ここでそれを認めてしまえば、母の『試験』を放棄することになる・・・。
(・・・認めるわけにはいかないわ・・・)
「わかった。周防君の賭に乗るわ」
「よし・・・。君はどっちだ?表か裏か・・・」
はしばし沈黙して考える。
「・・・裏。裏よ」
「じゃあオレは表だな。開けるぞ・・・」
に更に緊張が走る。
周防はゆっくりとコインの入っている右手を開けた・・・。
「あ・・・」
「・・・」
人物の描いてある面が表・・・。
周防の手の中に見えたのは、裏の植物が描いてある面だった・・・。
「君の勝ち・・・だな」
「周防くん、あたし・・・」
「いいんだ。何も言うな。賭けは君が勝ったのだから・・・。だた約束して欲しい。時期がきたら必ず・・・。君の口から本当の事が聞きたい・・・」
「・・・わかった・・・。言うわ・・・」
「ありがとう・・・」
はなんだか今夜は早く帰った方がいいと思った・・・。
周防の様子がなんとなくせっぱ詰まっている・・・。
このまま一緒にいたら・・・。正体をばらしてしまいそうな自分を感じる・・・。
「じゃじゃああたしはこれで帰るね」
「えっ。もうか!?」
「うん。じゃあ、おやすみなさい」
が帰ろうと窓に近づいたとき。
「きゃああッ!!」
あんずは思わず絨毯の上にあったダンベルに足をひっかけた!
「・・・ッ!!」
周防はを抱き止める・・・。
「・・・」
「・・・」
何も話さない二人。
周防はたまらず、ぎゅっと力づくでを抱きしめる・・・。
思わず、「!」と口走ってしまった周防・・・。
「周防君・・・。やっぱり・・・あたしがだってこと・・・しってたのね・・・」
「当たり前だろう・・・。すぐわかったさ・・・。惚れた女の子となら男は全部知りたいと思うだろ・・・。そう・・・。全部知りたいと・・・」
「ちょ・・・す、周防くん!?」
すると突然、周防はをお姫様だっこし・・・。
「きゃッ・・・」
バサッ!!
乱暴にベットにを寝かせた・・・。
「す、周防くん・・・」
そして周防はに馬乗りになる体勢で、顔をぐっとに近づける・・・。
「・・・。・・・。オレが毎晩どんな気持ちだったと思う・・・?惚れた女が窓から入ってきて・・・。目の前で笑ってる・・・」
周防はがはめていた頭のゴーグルをはずし、長い髪もほどいた・・・。
「この髪の香りも・・・。オレが好きなと同じなんだよ・・・。目の前にあるのに・・・手が出せない・・・」
の髪を指に絡ませ、周防は香りをかいだ・・・。
「気が狂いそうだった・・・。お前が来ない日は寂しくて寂しくて・・・」
周防はの顎をくいっと持った・・・。
「・・・。教えてやる・・・。どれだけオレがお前にイカレちまってるかを・・・」
「ゥンンッ・・・!」
容赦なく・・・の唇は周防に強引に・・・。
奪われた・・・。
「・・・ッ・・・ゥ・・・ッ」
互いの空気すら漏れない程に・・・
隙間なく封じられた唇・・・。
唇を周防に激しく吸い込むように求められる・・・。
絡められる舌の感触さえ熱さでわからない・・・、
頭の芯がクラクラして何も考えられない・・・。
体の力が抜け、ただ、周防に身をゆだね・・・。
「・・・プハァ・・・ッ・・・」
やっと・・・離された唇は、熱く、熱く・・・。
「・・・。わかったか・・・?男の部屋にくるってのは・・・。こういうことだ・・・。キスだけじゃ・・・。おさまらねぇかもしれねぇんだぞ・・・」
「・・・」
周防の・・・なんて切ない目・・・。
本当に自分を想ってくれているのがすごく伝わって・・・。
嬉しくなった・・・。
「!!な、なんだよ。どうしたんだ・・・!?」
の頬にポロッと涙が流れた・・・。
「ご、ごめんなさい・・・。でも嬉しくてなんだか・・・。周防君が・・・。あたしを想ってくれてたんだなって思ったら嬉しくて嬉しくて・・・」
「・・・ったく・・・。お前ってやつは・・・」
周防は指でそっと涙を拭う・・・。
「・・・。惚れた女の涙・・・。一番弱いんだぞ・・・。男は・・・。たまらねぇよ・・・」
「周防君・・・」
「・・・。お前の涙で正気に戻った・・・。あのままだと本当にオレ、自分をとめられなかったかもしれねぇ」
「周防君・・・」
「でもな。今度は本当にお前をオレのものにしちまうかもしれねぇ。覚悟しとけよ」
コツン・・・。
と周防はおでこを触れさせた・・・。
そして二人は笑い合った・・・。
初めてしたキスに今になって恥ずかしさがこみ上げて・・・。
でも・・・。互いの気持ちを確かめ合った夜・・・。
いつまでも唇は熱かったのだった・・・。