吐息

アプリコットの正体がばれてから、と周防はつきあい始めた。

しかし。

「何よもう!!あたし、10分もまってたんだから!!」

「お前が待ち会う場所まちがえてたんだろ!!」

デートをしても、喧嘩ばかりのこの二人。

学校では、つきあっている事はみんなには内緒だ。

でもある場所では、二人きりの世界を作る。

放課後。

放送室。

ガラガラ・・・。

がひょこっと放送室に入ってきた。

キョロキョロしている。

(周防君・・・。まだきてないのか・・・)

学校での二人の逢い引きの場所は放課後の放送室。

は今日も周防と約束していたのだが・・・。

ガランとした室内。

マイクや放送機具が寂しげに置いてある・・・。


「・・・。周防くん・・・まだかな・・・」


そうつぶやくの目にちょっと大きめのロッカーが目に入った。

「・・・。そうだv」

ガチャ。

開き扉のロッカー。中には掃除用具が入っている。人間二人ぐらいは入れる大きさだ・・・。

「へへ。周防君、びっくりさせてやろっと」

ちょっといたずら心が働いたは、ロッカーの中に入り、周防を来るのを待つ。

(結構狭いな・・・)

思ったより奥行きがないせいか、あまり身動きがとれない。

(周防君まだかな・・・)


が暗闇で待っていると、廊下から足音が聞こえてきた。

(周防君だわ。きっと!よし!ここは入ってきた瞬間をねらってバッと飛び出そうッ)


コツコツ・・・。

ガラガラッ。

(今だわ!)

が飛び出そうと思った瞬間、周防の他に女の声がした。

(・・・!?)

はそうっとロッカーのドアの隙間から外をのぞくと・・・。

周防と見知らぬ女生徒がいた。

(だ、誰よ!?)

結構可愛い。何だか深刻な雰囲気だ・・・。

「周防君。この間の返事・・・。聞かせて。あたしとつきあってくれる・・・」

(なっ・・・!!)

女生徒の言葉に驚く

「・・・。ごめん・・・」

周防の返事にホッとする

「どうして?誰か他に好きな人がいるの?」

「・・・。ああ・・・」

「・・・。聞いてもいい?周防君の好きな人ってどんな人なの?」

女生徒は周防の腕にこれ見よがしに手をまわす。

(や、やだちょっと離れてよ!!)

「どんな奴って・・・。そうだな。まず声がでかい」

(なっ・・・)

「それに慌て者におっちょこちょい。よく食べる」

「うふふ・・・。すごい子ね・・・」

女生徒の笑いにロッカーの中のはカチンときた。

「ああ。すごい奴だ。いつの間にかオレの心の中にはいってきやがって・・・。もってかれちまったんだ。オレの心が・・・」

周防は女生徒の腕をそっと放し、はっきりそう言った。

「色仕掛けをするような色気もないが、オレはそいつに惚れ込んでる。だから悪いな」

「・・・。わかったわ・・・。もう・・・。周防くんたらはっきり言うなぁ・・・」

女生徒は少し切なそうにそういうと・・・。

静かに放送室を後にした・・・。


「・・・」

周防一人。

放送室の中をキョロキョロ見回す・・・。

「・・・」

そしてロッカーをじっと見つめる・・・。


(・・・。ばれちゃったかな・・・)

すると突然、の視界から周防が消えた!

(!??あれッ。どこいったの!?)

ガチャ。

がドアを開け、出ようとした瞬間!

「きゃあッ!?」

バタン!

腕を掴まれ、再びロッカーに閉じこめられた。


「んっ!?す、周防くん!!」

「スカートの裾、はみでてたぞ。へっ。どうせ、オレを脅かそうとか思ったんだろうが。甘いな」

「もう!!わかってたなら、言ってよ!そ、それより出ようよ。狭くて苦しい・・・」

大人二人、入るのやっと。

抱き合わなくても、もう周防との体は、立ったままの密着状態で・・・。

「もう少し、いいじゃねぇか。空気をわけあおうぜ・・・」


「んんッ・・・」


強引に唇を塞がれた・・・。


本当に、空気を送り込むように熱い、熱いキス・・・。


「・・・。オレをおどかそうとした罰だ・・・。わかったか・・・」

「・・・。うん・・・」

はぼうっとして頭がふわふわする・・・。

そのとき。狭いロッカーに二人、入っているせいか、ロッカーがグラリと揺れ・・・。


「きゃああ!!」


バッターン!!!!


なんと将棋倒しのように倒れてしまった・・・。


「いたたた・・・。大丈夫・・・?周防君・・・」

がゆっくり目をあけるとなんと、自分の胸に周防の顔が・・・。

「きゃ・・・ッ」

「いてて・・・。ん?何だ?ここどこだ・・・?」

狭く細長いロッカーの中・・・。


周防がに覆い被さるような体勢だ・・・。

「す、周防君・・・。お、重いよ・・・。ドア、開かないの・・・?」

「そ、それが・・・」

倒れた衝撃でドアが故障してしまったのか周防が肘でつつくが開かない。

「・・・。どうするのよ!!出られなくなっちゃったじゃない・・・」

「ん、んな事言ったって・・・」

二人、狭いなかもそもそ動く。

動けば動くほど、体と体は擦れ、密着・・・。

の胸の上の周防の顔が動くと・・・。

なんだか・・・。

「す、周防君、あ・・・あの。あんまり顔動かさないでよ・・・。くすぐったい・・・」

「・・・。あ・・・。わ、悪い・・・」


周防の頬に・・・。


何とも言い難い柔らかく、ふくよかな感触が頬から伝わり・・・。

今にも自分の中の何かが爆発しそうだ・・・。

体全身で・・・。を感じている・・・。


・・・。何か話してくれ・・・」

「え・・・?」

「・・・。今にもお前の服・・・。脱がしそうだ・・・」

「・・・」


周防の言葉に絶句・・・。

はあんまりドキドキして・・・。

(な、な、な、何か話さなきゃ・・・)

「あ、あの・・・。さ、さっきの子・・・。す、周防君もてるんだね・・・」

「・・・。嫉妬したか?」

「ばっ・・・」

意地悪な周防の瞳・・・。

「んじゃ・・・。お前の心臓に聞いてみるか・・・」


モゾモゾモゾ・・・ッ。

周防はの心臓に耳をあてるように顔をもそもそ動かす・・・。

「・・・っ」


周防が動くたび、こそばゆい感覚が足の先まで伝わってはクラクラして・・・。


トクントクントクン・・・。


脈も乱れ・・・。


「お前の心臓・・・。嫉妬しまくって言ってるぞ・・・」

「うん・・・。嫉妬した・・・。あの子が周防君の腕に触れただけでカッと頭にきた・・・」


「・・・。オレなんかいつも嫉妬してる・・・。お前が他の男と一緒なんじゃねぇかって・・・。わかるか・・・?それほどまでにオレはお前に骨抜きにほれちまってんだよ・・・」


周防の言葉に・・・。


は心の奥がキュンとなり、両手でぎゅっと・・・。

周防の頭を包んだ・・・。


更に周防の頬に心地よい柔らかい感触が広がる。

同時に・・・。


トクントクントクン・・・・。

の鼓動がより鮮明に聞こえてきて・・・。

「お前の音・・・。すげぇ聞こえる・・・」

「それは周防君のせいだよ・・・」

「・・・。いつか・・・制服の上からじゃなくて『じか』に聞いてやる・・・」

「・・・バカ・・・」


聞こえるのは互いの吐息だけ・・・。


狭くくらい空間でも・・・。

二人きりならそこはもう、熱く甘い空間になる・・・。


身動きがとれないように、心も貴方しか見えなくて・・・。

「ねぇ。周防君・・・。でもどうやってここからでようか・・・」

「・・・もう少しこのままでいいだろ?」

「うん・・・。そうだね・・・」

サラサラの周防の髪が愛しい・・・。

はそう想いながら、周防の髪を撫でた・・・。


聞こえるのは吐息だけ・・・。

二人はまだしばらく、互いの吐息に埋もれていたのだった・・・。