まだ終わらない恋愛小説

両思いになって。

普通の恋愛小説なら両思いになったところで終わるよね。

でも実際はその後が大変なのに・・・。

あたしと周防君。

気持ちは通じ合ったんだけど・・・。

「何よ!待ち合わせ場所、駅前って周防君いったじゃないの!」

「駅前は駅前でも、俺は駅前ビルの前って言ったんだ!よくきいてろよ!!」


せっかくの休日のデート。

喧嘩から始まってしまった。

朝からお気に入りのワンピ来て気合い入れてきたのに・・・。

周防君が『俺、赤が好きだ』っていうから赤のワンピ、お小遣いはたいて買ってきたのに・・・。

歩道を通り過ぎていく何組ものカップル達。

手を繋いで笑い合うカップル。

腕を組んで彼に顔を寄せて歩くカップル。

なのにあたし達は・・・。

3メートル離れて歩く。

端から見たらきっとカップルには見えないかも。

ホントはあたしだって腕君で歩きたいのに・・・。

「何やッてんだよ!早くこい!映画始まっちまうだろ!」

「わかってるわよ!周防君が足はやすぎるのよ!」

また怒鳴ってしまった・・・。

周防君は怒って先に一人スタスタ歩いていく・・・。

だめだな・・・。

つい、ムキになってしまう。

素直に『ごめんね』って言いたいのにな・・・。

映画館。

最近解禁になった映画の看板が2つ並んでいる。

一つは洋画の恋愛もの。

もう一つはアクション系。

どちらかといえば、恋愛ものを見たい気分なんだけど・・・。

あたしがそう思って看板を見上げていると・・・。

「・・・。こっちのやつ見るか」

「えっ・・・」

周防君はあたしの手をぐいっとひっぱって恋愛ものチケットを2枚買った。

「ね、ねぇ。この映画でいいの?恋愛もの苦手だって・・・」

「うっせーな!俺は今日はこっちがみたいんだよ!」

周防君・・・。

気、使ってくれたのかな・・・。

「ふぁああ・・・」

感動的なシーンなのに、周防君、思いっきり眠ってる・・・。


やっぱりあたしの気持ち、察してくれたのかな・・・。

不器用なそんな優しさが嬉しいのだけど・・・。

周防君が楽しくないのって・・・。


映画が終わって。

マックでお昼。

(お弁当でもつくってくればよかったかな・・・)

なんかあたし、周防君に喜んでもらおうってこと何もしてない。

逆に気を使わせて・・・。

「どうしたんだよ。うかねーかおして・・・」

「あ、ううん。何でもない・・・」

「・・・。お前 ・・・。俺と一緒にいてもつまんねーのか・・・?」

「う、ううん。そんなことないよ」


あたしはシェイクを一口のんだ。

「じゃなんでそんな顔すんだ」

「だから違うって・・・」

「俺はなぁ、そこら辺のその・・・男と女みてーにいちゃいちゃできねぇんだよ!」

「だから違うって言ってるでしょ!!」


あたしの声に周囲はシーン・・・。

周防君もあたしもそのまま黙ってしまった・・・。


どうしてこうなるんだろ・・・。


目に見えない何かが


すれ違って・・・。


素直になれない・・・。


マックを出た後。

あたしと周防君はやっぱり少し離れて雑踏の中を歩く。

どこからこんなに人があふれてくるのか分からないくらいに


人の洪水の中・・・。


目の前に周防君がいるのに・・・。


何キロメートルも離れてる気がした・・・。


公園の入り口まできたところ・・・。

小さな池があって・・・。そこから見る夕日が綺麗で・・・。

でもそこの池にはちょっとした『言い伝え』があるんだ。

あんまりいい言い伝えじゃないんだけど・・・。
「おい。そこの女」

「え?」

突然、目の前に、大柄な中学生くらいの男の子2組が登場。

な、なんか目つきすごく怖いんだけど・・・。

「な、何よ。どいてよ」

「お前、今、俺の足、踏んだだろ?慰謝料払え」

・・・は?

なにいってんの。こいつら。


ガムクチャクッチャかみながら、行儀わるい・・・。

ここは年上として、一発言わねば!


「あのねぇ。あんたたち、妙な脅しで人からお金巻き上げようなんて暇なことしてないで、家帰って、勉強でもしないさいよ!びた一文出す気ないわ!」

「んだとコラァ。女の癖に大口たたききやがって」

片方の男の子が拳をグッと握って脅して見せた。

ちょっとびびったあたしだけど、負けてられるか!

「ふん!殴られるのが怖くて説教できるか!かかってらっしゃい!!」


密かにあたしはポケットの中の煙玉をいざとなったら投げようと忍ばせた。


「生意気な女め!」

拳が上がった瞬間・・・!


「痛・・・!!」

少年達のうめき声。

見ると、周防君が二人の腕を掴んで睨んでいた。

「な、なんだお前は!」


「うるせぇ。俺の女に気安く触るんじゃねぇよ。ガキが。早く帰って寝ろ」


(す、すごい・・・。周防君、別人みたいに目が据わってる・・・)


周防君が腕を放すと少年達はあわてて逃げていってしまった・・・。


あんまり格好いいんで見とれてしまった。あたし。


でも、やっぱり周防君、顔が怒ってる・・・。

あたしに近づいてきて・・・。


「馬鹿野郎!!お前、女一人で立ち向かう奴があるか!!相手はガキでも男二人だぞ!きゃーとか声出すとか、しろよ!!」

「・・・。ご、ごめん・・・」


素直に『ごめん』が出た・・・。でも本当の気持ちだもの。


やっぱり周防君がいなかったらと思うと・・・。

「ふん・・・」


周防君、黙って公園に一人入っていく・・・。


背中が怒ってるね・・・。まだ・・・。


池のほとりで止まった周防君。

ポケットに手を入れて何も言わない・・・。


「周防君ごめんね・・・。今日あたしなんか変だったね・・・。周防君に嫌な思い、させちゃって・・・」

「・・・」

「何だかさ・・・。あたし・・・」


周防君が振り向いてあたしに近づいてきた。

「お前・・・。知ってるか?」

「え?」

「この池の前で・・・。キスした二人は永遠に結ばれる・・・ってやつ・・・」

「え・・・。う・・・うん・・・」


や・・・。やだ・・・。周防君が見つめてる・・・。


い、いきなり・・・?

でもあたしは静かに目を閉じた・・・。


(あれ・・・?まだ・・・かな・・・。なんか・・・。鼻の頭がモソモソするような・・・)

「く・・・ハハハッハ!お前、変な顔・・・」

(え?)

ゆっくり目を開けてみると・・・。


鼻の頭の上に・・・。


赤トンボが・・・。


あたしは顔を振ってトンボを逃がした。

んもう・・・!周防君たらまだ笑ってる・・・。

「笑いすぎ!周防君・・・!」

「ふ・・・。ハハハハ・・・。ごめんごめん・・・」

「もうッ・・・!」


あたしはちょっと子供っぽく口を尖らせた。


「ふ・・・。やっとお前らしい顔・・・見た・・・」

「え?」

「・・・なんかお前、今日一日疲れた顔してただろ・・・。俺と一緒にいて息苦しいのかと思って・・・」

「そ、そんな・・・!周防君の方こそあたしに気を使ってるのかって・・・」


「そんなわけ・・・ないだろ・・・?」


あ・・・。周防君が優しい瞳になった・・・。


眼鏡に・・・夕日が映ってる・・・。


「・・・この池の伝説なんて信じるわけじゃねぇけど・・・。どうせならスペシャルな伝説にしてやろうぜ・・・」


周防君が・・・。


あたしの頬にかかった髪をそっと耳にかける・・・。


どうしよう・・・。


それだけで背中が熱くなってきた・・・。

周防君の細い指が唇をなぞって・・・。


「あのな・・・。男ってのはな・・・。四六時中、惚れた女の事で頭が一杯なんだよ・・・。だから・・・。おちつかねぇんだ・・・」


「じゃあ・・・。あたしの心も周防君で一杯にして・・・」


普段なら言わないような台詞も、今は・・・言える・・・。


「お前の心ン中は俺しかはいっちゃいけねぇだよ・・・」


あたしの腰をぐいっと引き寄せて・・・。


周防君は・・・。


「・・・ん・・・ッ」


熱くて乱暴にあたしの口を塞いだ・・・。


息ができない・・・。


あたしの息は全部周防君に吸い取られてく・・・。


長い長いキス・・・。


体の力がぬけてく・・・。


「んっ・・・」


唇を離してもあたしはぼうっとしてて・・・。


「ふッ・・・。これで俺達は永遠に一緒・・・か・・・?ハハッ。離れたくても離れられねぇがな・・・」


「!?」


周防君がキャミソールの肩紐をスッとおろした。

「ちょ。ちょっと待って・・・。あの・・・。ここじゃあ、だめよッ」

「”ここ”じゃあ?なら別の場所ならいいんだな?」


「え・・・?ちょ、ちょっと・・・ッ」


周防君はあたしを抱き上げて、どこかへ連れていく。

「ど、どこ行くの?」

「さあね・・・。ユートピアかな」

「・・・。気障・・・」


ユートピア・・・。どこへでも行くよ。


周防君となら・・・。


「でもユートピアは遠いから・・・。俺の部屋ってのはどうだ?勿論・・・。泊まりで」

「・・・。いいよ。どこまでも・・・」


ずっと貴方が行くところならどこへでも・・・。


あたしの恋愛小説はまだ始まったばかりだから・・・。