白い砂浜と透き通るような透明な海。
まさに絵に描いたような景色とはことことである。
その景色の中、波打ち際を新婚の二人が腕を組んで歩く。
「きれーだねぇ・・・」
「ああ・・・。でも優しい瞳で空を見上げる里緒の方がもっと綺麗だな」
「なっ・・・。もお!涼兄ったら・・・あ・・・」
まだ、『涼兄』と呼んでしまう。今朝、“涼”と呼ぶと決めたのに。
もう、涼は“兄”ではなく自分の“夫”なのだから・・・。
「ごめん。涼・・・。なんかもう癖になっちゃって・・・」
「いいさ・・・。呼び方より、里緒が俺のそばにいるって事が一番大切なんだから・・・」
「涼・・・」
空から注ぐあたたかな太陽の光の様に、涼の優しさと愛情に満ちた眼差しが里緒に注がれる。
里緒は改めて幸せを噛みしめた。
「あ・・・」
里緒の足下で3匹小さなかにがちょこちょこと横歩きしていた。
二人はしゃがんで親子のかにをしばし見物。
「可愛いね・・・。みんな仲が良さそう・・・」
子供のかにを真ん中に、親子ガニは海の方へ歩いていく。
「俺たちもあんな風になりたいな・・・。いつも一緒に肩を並べて同じ道を歩いていく・・・。そんな家族に・・・」
「そうだね・・・」
哀しいことも嬉しいことも辛いことがあっても、二人互いを信じて同じ歩幅で同じ目線で歩いていきたい・・・。
「じゃぁ・・・。今晩早速作ろうか」
「え?」
「俺たちの子ガニをさ」
「もう!!何言ってンの!涼ったら・・・!えい!!」
バシャ!
里緒は涼へ思い切り水をかけた。
「ったく・・・。すぐ騒ぐ所はまだまだ子供だな・・・。それ!お返しだ!」
バシャ!
「きゃあッ!」
まるで子供が初めて海に来て喜ぶように、二人ははしゃぐ。
幸せ・・・。
妹と兄としてじゃれあうこともあったけど、今は違う。
対等に向き合える・・・。
夫婦として・・・。
二人は夕暮れになるまで海で遊んでいたのだった・・・。
「大丈夫か?里緒・・・」
「うん・・・」
昼間、海ではしゃぎすぎた里緒は夜になって疲れが出たのか微熱を出してしまった。
涼は大事をとって、今夜予約してあったレストランをキャンセルし、里緒をベットに休ませた。
「脈が少し早いな・・・。熱のせいだろう・・・。多分、風邪の引きはじめだと思うが念のためホテルのドクターにきちんと診てもらうか?」
「・・・。嫌」
「でももし何かの病気だったなら・・・」
「涼だって医者様でしょ?だったら他のお医者様にわざわざ診てもらうことないよ・・・。コホッ・・・」
「ふふっ・・・。ああ、そうだな・・・。他の医者(男)に里緒の体触れられるなんて我慢できないしな」
ためらいもなくそう言う涼。微熱で火照った里緒の体は更に熱くなる。
「もう・・・。あんまりドキドキさせないで・・・。只でさえ熱で脈が早くなってるのに・・・」
「そうか・・・。じゃあ、もうちょっと診察しないとな・・・」
「え・・・」
涼は軽くの唇を重ねた・・・。
涼の前髪が里緒のまつげにかかる・・・。
「涼・・・。脈をみるならなら唇じゃないでしょう・・・?」
「これが俺の診察法なんだ。里緒だけのな・・・」
「もう・・・」
涼は戸惑う里緒をよそにもう一度キスをした。長くて甘いキスを・・・。
涼の唇の感触が里緒を更に熱くさせた。
風邪の熱のせいなのか、それすらわからないくらいに熱い・・・。
「風邪・・・。うつっちゃうよ・・・。涼・・・」
「里緒の風邪なら大歓迎さ・・・。一緒にベットで眠れるしね・・・。でも今日はキスだけで我慢するよ・・・。今日はゆっくりお休み・・・」
大きな手が里緒の髪をそっと撫でた。
そのぬくもりに深く安心したのか、里緒は自然とまぶたが重たくなってきた・・・。
そっと毛布を里緒にかける涼。
「お休み・・・。俺の宝物・・・」
その夜・・・。涼は里緒の手を握り、ずっと朝までそばに寄り添っていたのだった・・・。