勿論、オカルト研究室のみんなには内緒。
忍は別にしられてもかまわないと言ったが、忍は部長という立場なので何か不都合があってはと里緒が気を使ったのだ。
「鈴原君、この間の心霊現象についてのレポートはできているか?」
「はい。私なりの結論でまとめてみました」
と、こんな感じで部活の最中はあくまで先輩と後輩としての態度。
しかし、部活が終わり、皆が帰った後のオカルト研究室で二人きりになると・・・。
忍が廊下をキョロキョロと誰も来ない事を確認して・・・。
「なんだか・・・。ドキドキします」
「何がだ?」
「だって・・・。放課後、二人きりなんて・・・」
「そ・・・。そうか・・・?」
「でも、嬉しい・・・」
二人は顔を赤く染め、恥ずかしさのあまり視線を逸らす。
まだ、二人が“恋人同士”だということが実感わかない。
何もかもが初めてで手を触れあうだけで心臓が止まりそうだった。
「あ・・・あの・・・。先輩」
「な、何だね?」
「あれから・・・。夢はみませんか?」
「ああ・・・。君は?」
「いいえ・・・。全然見ません。きっと二人・・・。幸せになったんですよね・・・」
夢の中の二人。国と国との争いも決着がつき、二人を阻むものは何も無くなった・・・。
里緒も忍もそう信じたかった。
「夢は夢だ・・・。僕達も幸せにならきゃ・・・な」
「はい・・・」
そう・・・。里緒も忍も“現実”にいる。
夢の中の夕焼けも綺麗だったけど、今、目の前に広がるオレンジの鱗雲が本物・・・。
里緒は窓に寄りかかり、沈む夕陽に見とれていた。
「・・・」
そして忍は・・・。
里緒の横顔に見とれていた。
今まで感じたことのない感情・・・。
自分以外の誰かにこんなに惹きつけられたことはなかった・・・。
そして触れてみたくなる・・・。
自分以外の誰かに・・・。
「え・・・」
忍は里緒の肩をそっと両手で抱いた。
「・・・」
「・・・」
里緒は黙って目を閉じる・・・。
ガチャ!
「!?」
ドアの方で音がした。
忍はあわててドアを開けようとするが・・・。
「あ、開かない・・・!!」
力一杯ドアを引いてもビクともしない!
外側から鍵をかけられてしまったようだ・・・。
「先輩・・・」
「参ったな・・・。閉じこめられてしまった・・・」
「先輩は鍵をもってないんですか?」
「いいや・・・。顧問の教師が持ってる・・・。くそ・・・。どうする・・・。って何してるんだ君は!!」
里緒は何を思ったか窓に身を乗り出している!
「あー・・・。やっぱりだめですね。ここから出られるかと思ったのに・・・」
。下を見下ろすと固そうなコンクリート。
「あたりまえだろう!ここは4階だぞ!?」
「ごめんなさい・・・」
反省する里緒。
そんな里緒を見て忍は何だか無性に可笑しくなってきた。
「ふう・・・。全く君って人の行動は予測できないな・・・。かなわないよ」
「そ・・・。そうですか?自分ではそんな風には・・・」
「自分でも気づかないなんて・・・。ぷ・・・。やっぱり君は不思議な人だな・・・」
「えへへ・・・」
忍が笑う・・・。
初めてあった頃はそのメガネ越しに映る瞳はどこか寂しいと思っていた・・・。
でもこんなに笑顔が優しい人だと知って・・・。
好きになった・・・。
それが嬉しい・・・。
「そうだ!携帯で職員室に電話を・・・」
ポケットに手を入れたがない。携帯はバックの中・・・。それは里緒も同じだった・・・。
「仕方有りませんね。先輩。じゃあ、警備員さんが夜の見回りにくるまで待っているしかないですね・・・」
「でも・・・。君の家の人が・・・」
「兄は今日、オペで遅くなるってだから大丈夫・・・。先輩の方は大丈夫ですか・・・?」
「・・・。僕の両親も知人のパーティーで夜はいない・・・。少しぐらい遅くなっても大丈夫だ・・・」
こんな状況なのに・・・。何だか妙にワクワクしてる・・・。
誰もいない学校に二人・・・。閉じこめられて・・・。
ちょっとした冒険をしている気分だった。
だんだん暗くなってきた・・・。
部室内も薄暗い。
忍はまじないで使っているランプを棚から取り出し、火を付けた・・・。
ランプを囲むように二人は並んで座る・・・。
「綺麗・・・。何だかキャンプしてるみたいですね」
「そうか?」
「先輩はキャンプ、したことないんですか?」
「そういう活動的な事はあまりしなかったな・・・。好きな方ではなかったし・・・」
「そうですか・・・」
里緒は少しがっかり。デートするにしてもあまり賑やかな場所は無理かなと思った。
「でも君が一緒ならば・・・。行ってみたいと思う・・・」
「え・・・。あ、は、はい!絶対に一緒に行きましょう!約束ですよ。先輩」
「ああ・・・。約束だ」
二人は指切りした。
子供みたいだけど、約束の印に・・・。
「クシュン!」
少し寒くなってきた。
忍は制服を脱いで里緒に着せた。
「あ、ありがとうございます・・・。でもこれじゃあ先輩が・・・」
「・・・。では僕は君あたためてもらおうか」
「えっ・・・」
力強い腕が里緒の肩に舞わされグイッと引き寄せられた。
すっぽりと里緒は忍の腕の中に・・・。
「・・・。嫌ならば・・・言ってくれ・・・」
里緒は激しく顔を横にふった。
「このままで・・・いてください・・・」
「うむ・・・」
ひんやりとしたコンクリートの壁と床。
けれど、くっついた二人の体は鼓動と一緒に急激に熱くなっていく。
部室に二人きり・・・。
鍵まで閉められて、誰も来ない。
「警備員さん・・・。遅いですね・・・」
「・・・。まだ・・・来て欲しくはないな・・・」
「え?」
「君とこうしているのを・・・。邪魔されたくはない・・・」
「・・・」
切なそうな顔の忍を見て、里緒はたまらなく好きだと思った。
もっとそばにいたい・・・。
里緒は忍の白いシャツに頭を寄せた。
抱かれていた肩の手は自然に髪へと移動した。
里緒は静かに顔をあげる・・・。
メガネ越しに見える優しい瞳。
誰よりもそれが澄んでいることを里緒は知っている。
もっと近くで見たいな・・・。
里緒はそっとメガネをはずした。
「先輩の瞳・・・。あたしすごく好きです・・・」
「僕も・・・だ・・・」
もう、お互いしか見えない・・・。
吸い込まれるように互いの瞳が入って・・・。
まだ少し不器用に重ねる唇・・・。
気持ちと気持ちが一つになる瞬間だった・・・。
コツコツコツ・・・。警備員が部室の前を通る。
部室の中の二人。
ちょっと長めの2回目のキス。
月明かりに照らされて、神秘的な味がした・・・。