珪がよく来るという事が雑誌に載ってからというもの、学校帰りの女子高生が急増した。
そのせいで、珪の唯一の息抜きの場所がなくなってしまった。
「ちゃん、珪くんから出前あったんだ。行ってくれるかな?」
洗い物をしていたにマスターが頼む。
「はい、わかりました★」
は従業員室の冷蔵庫の中からラップしたサンドイッチを取り出し、水筒にホットコーヒーを入れてどこかへ持っていく・・・。
がやってきたのは雑誌などの撮影スタジオ。
静かに入っていくと、フラッシュのたく光がまぶしい。
「珪くん、もっと笑って・・・。そう、いいね。自然な感じで・・・」
カメラマンの指示通り、カメラに向かってポーズを決める珪・・・。
今は春物の白いスーツを着こなし、バラの花束を持って・・・。
パシャ・・・。
「そう・・・。珪くんいいよ・・・。おとなの男を醸し出すようにそう・・・」
パシャッ。
フラッシュの光と、カメラマンの言葉でくるくると珪の顔が変わる。
つきあい始めて大分たつがこんなに自分の知らない珪がいたのか・・・と驚きと少しのとまどいを感じる・・・。
なんだか珪のいる世界を少しかいま見て、距離を感じただった。
「はい!OK!珪くん、お疲れさま!休憩にしよう!」
スタッフ達はそれぞれ、昼食をとりにスタジオをでる。
珪はに気づき、手招きしている。
「オス。悪いないつも・・・」
「ううん・・・。お疲れさま」
パイプのいすに座り、水筒のコーヒーをコップに注ぐ。
「はい。珪くん」
「サンキュ。はぁー。コーヒー飲むとほっとするな・・・。おまえが入れてくれたコーヒーだから・・・」
「もお・・・。珪くんたら・・・」
ドキッとするような事を無表情でさらっと言う・・・。
そんな珪の姿とさっきまでフラッシュを浴びていた『モデル・葉月珪』の顔の違いをすごく感じる。
珪の事をもっと知りたいというずっと思ってきたが、知れば知っていくうち、どんどん珪が遠くなっていく気がする。それがなんだか自分自身でも怖いと思う。
「?どうした?ぼうっとして・・・」
「ううん何でも・・・。だだ珪くん、すてきだったなぁって」
「・・・。俺は全然思わないな・・・。言っただろ?モデルはあくまで仕事だって・・・。俺はアクセサリーデザイナーっていう夢があるんだ」
「うん・・・。そうだったよね・・・」
の様子に珪はの気持ちをなんとなく感じ取る。
「。おまえ、今日、バイト終わったらちょっと時間あるか?」
「え・・・。う、うん・・・」
「じゃあ、終わったらスタジオにきてくれ。」
いったい何の用なのかと不思議がるが、はその日の夕方、バイトが終わると、もう一度、スタジオに立ち寄った。
キィ・・・。
スタジオをのぞくと中は真っ暗・・・。
「珪くん?いないのー?」
コツコツ・・・。
の足音だけが響く・・・。
その時、にパッと急に照明があたり、まぶしさには手をかざす。
そしてそこにはカメラを手にした珪がたっていた。
「珪くん・・・一体・・・」
「今からお前は俺専属のモデルだ」
「え?」
「俺はお前専属のカメラマン。いってただろ、昼間。モデルって素敵だって・・・。俺はお前をとりたいからさ・・・」
急な珪の申し出にとまどう。
「で・・・でもあたし、Gパンなんて格好だし・・・」
「ちゃんとお前に似合う衣装も用意してあるさ。となりの控え室に用意したから着てみてくれないか」
「う、うん・・・。わかった・・・」
は隣のモデル専用の控え室にはいる。
大きな鏡があり、まるで美容室のよう。
その鏡の後ろの壁にかけられている服が一着・・・。
「え・・・。こ、これ着るの・・・!?」
は戸惑いながらも
珪のためにその服を着る・・・。
「あ、あの・・・。珪君おまちどおさま・・・」
は体をすくめてもじもじしながらスタジオに戻ってきた・・・。
「・・・。思った通り。やっぱりよく似合うよ・・・」
珪が選んだ服とは、胸元がかなり開いた黒のロングドレス。
さらにあるくと太股が見えるほどに裂けており・・・。
「あの・・・。いくら何でもこれ・・・。おとなっぽすぎない?」
「いいの。俺がみたかったんだ。それ着たお前が・・・。さあじゃあ始めようか?じゃあ、ライトの前にたってみて」
「う、うん・・・」
ライトの真下にたつ。
「あ、それと裸足になってくれ」
「わ、わかった・・・」
珪は本当にカメラマンになったようにに指示する・・・。
そしてシャッターをきりはじめる珪・・・。
カシャッ。
カシャッ 。
レンズがに向けられる。
緊張して体が固まる・・・。
「そんなに堅くならないで。笑ってみてくれ。お前の笑顔が俺はすきだから・・・」
「で、でも・・・」
「あ!!お前の肩に毛虫が!!」
「えッ!!どこどこ!!きゃあ!!」
あわてて肩を手で払う。
「あははは!!嘘だようそ!」
「あー!!もう!!ひどいー!」
「くはははは!その顔・・・。俺はお前の自然な顔が撮りたいんだ。いつものお前でいてくれよ」
「え・・・。あ、う、うん・・・」
珪の言葉に、の緊張感も和らぐ。
カシャッ!
カシャッ
シャッターの音が。
パシャッ・・・。
パシャッ・・・。
フラッシュがたかれるたび、自分でも不思議なくらいに、こんな表情してみたい、あんな顔してみたい・・・。
そんな気持ちがわいてくる・・・。
カメラのレンズの向こうで見てる・・・。
体も触れられていないのに、熱くなって・・・。
「・・・。不思議だろ・・・?カメラってのは・・・。どんな人間でもレンズを向けられると、表情が大なり小なり変わるんだ。自分でも知らない自分が見えてくる・・・」
パシャ・・・ッ。
珪の言うとおり、いろんな自分が見えてくる気がする・・・。
パシャ・・・ッ。
珪はなぜだか、急にカメラを撮るのをやめる珪・・・。
「どうしたの?」
「・・・。だめだ・・・。我慢できねぇ・・・」
「何が?」
「レンズの向こうのお前を見てて・・・。本当のお前に・・・。触れてみたくなっちまう・・・」
珪はカメラを置き・・・に近づく・・・。
「珪くん・・・」
「俺は・・・。俺だ。・・・。カメラを向けられていても、ずっとお前の事を考えてる・・・。お前が欲しいっていつも思ってる・・・。モデルの『葉月珪』じゃなく、俺を見てほしい・・・」
「珪君・・・」
珪はじっとを見つめる・・・。
珪はの髪を撫でぐっとの腰を引き寄せる・・・。
「髪も・・・。唇も・・・。全部隅から隅まで俺のものにちまいたい・・・」
「・・・」
珪の大胆な言葉には思わず返す言葉がない・・・。
「・・・。なんか・・・。珪君最近ダイタンだね・・・」
「・・・。男はみんなそうさ・・・。惚れた女事になると・・・」
あごとクイッと持ち、強引に唇を奪う・・・。
「ンッ・・・」
抵抗する間もなく・・・。
逆らえない・・・。
空気が漏れないほどに激しいキス・・・。
体中の力抜けて・・・。
そのまま押し倒される・・・。
珪の首に手を回す・・・。
「ねぇ。今日もしかしてここへ呼んだのはこんな事するため?」
「・・・。ふっ・・・。ばれたか・・・。明日の朝まで誰もこない・・・」
「・・・確信犯め・・・。でも好き・・・」
一見、何を考えてるかわからない珪。
でもその奥の瞳はとても熱くて・・・。
珪はのドレスの肩紐をスルッとはずし・・・。
背中のファスナーもおろそうとする・・・。
「こ、これ以上はダメだってば・・・」
「・・・。お預けか・・・。じゃあ、また、ラブホ行こうか?」
「もおッ!!からかわないで・・・」
じゃれ合う二人・・・。
誰もいないスタジオで夜が更けるまで子猫がじゃれ合うようにずっと二人で甘い時間を過ごしたのだった・・・。