夏休み。珪とは海水浴に来ていた。週末とあって海には家族連れやカップルなどで賑わっていた。
二人は早速それぞれ水着に着替える。
は今日のためにお小遣いをはたいてちょっと高めの水着を購入。
ピンクのフリルのついている。ちょっと子供っぽいと思いつつも珪が好みそうなものを選んだ。
そして、海の家の脱衣所から、先にの方が出てきた。
「あれ・・・?葉月君まだなのかな・・・」
がキョロキョロしていると背後に人影が・・・。
「お嬢さん。お一人ですか〜?」
茶発の男が二人、馴れ馴れしくに近寄ってきた。
(な、なんか感じ悪い人達・・・)
ガムをクチャクチャかみ、ニタニタしている。
「お一人で海水浴なんて寂しいな〜。どうです?俺らと楽しいひとときを・・・」
「結構です。連れがいますから・・・」
はっきりとした口調では断るが男達はしつこく誘う。
「嫌だっていってるじゃないですか・・・!」
は男たちの手を払いのけようとしたら反対にグッと手首を掴まれてしまった。
「気の強い子はタイプだな〜・・・。へへへ・・・」
不適に笑う男たち・・・。
がそのとき、もう一つの手がの手をつかむ男の手をさらにグッと掴む。
「薄汚い手、今すぐ離せ・・・」
珪が鋭い目つきで男達を睨む。
「俺のに妙なことしてみろ・・・。この手・・・。へし折るぞ・・・」
「うおっ・・・」
ボキ・・・。
容赦ない珪・・・。
「葉月君、もういいよ!もういいから・・・」
の声に珪は男の手を離した。
「ち、チキショウ・・・!行くぞ・・・!」
男達は珪におののいてそそくさと逃げていった。
「葉月君・・・」
「ごめん・・・。俺が遅かったから・・・」
「ううん・・・。ありがとう。葉月君が来てくれなかったらあたし、無理矢理誘われてた・・・」
珪はしばらく沈黙した。
「・・・。俺・・・。お前が他の男と話してるのみて・・・。なんか頭に血がのぼっちまった・・・。怖かっただろ・・・。今の俺・・・」
「ううん・・・。格好良かったよ。頼もしくて・・・。それに嬉しかった」
「嬉しかった・・・?なんでだ・・・」
「葉月君が・・・。あたしを守ってくれた気がして・・・」
「バカ野郎・・・」
珪は照れくさいのかぷいっと後ろを向いた。
はそんな珪がずっと近くに感じる・・・。
「さ、葉月君、気を取り直して海水浴、楽しもう!波打ち際まで競争よ!」
「あ、待てよ・・・!」
の笑顔が眩しく感じる珪。
この笑顔が珪の心を捉えている・・・。
バシャン!!
「きゃあ!葉月君、突然水かけるなんてずるいよ!」
「ぼうっとしてるからだろ・・・?」
「んもう・・・!倍にして返してやるッ!えい!!」
バシャンッ!
見事、葉月に命中。
二人は、さっきのトラブルなどすっかり忘れ、楽しんだ。
時間も忘れるほどに・・・。
そして本当に時間を忘れてしまった。
バス停の前でぼう然とする二人。
なんと最終のバスが行ってしまったのだ・・・。
明日の朝までバスは来ない。
「・・・。参ったな・・・。俺は明日、オフだから仕事はいってないけど・・・。お前、携帯、持ってきてるか?」
「あるけど、もう電池切れちゃって・・・。葉月君は?」
「忘れた・・・」
それぞれ、家に連絡を入れようと思うが、携帯はダメ。
ならばどこか民家で電話を借りようと辺りを見回すが、長いカーブの道路しか見えない。
電話ボックスも当然、見あたらない・・・。
この海水浴場は割と穴場だと聞いたので、やってきたが穴場は穴場だったのだが、そのかわり、夜になると道路に車が一台も通らない程静かな場所だった。
「ふう・・・。お手上げだな・・・」
珪があきらめたように深いため息をつくのをよそに、は、何やらにこにこしている。
「・・・何でお前、わらってんだ・・・?」
「うん。何だかね、ワクワクしてきちゃって」
「ワクワク?こんな時に・・・?」
「うん。だって、海で野宿なんてなかなか経験できないじゃない。それに、海、今夜一晩あたしと葉月君で独占できるなんて、ワクワクしちゃうよ!」
珪は不思議でたまらない。
こんな非常事態な時にもそれを逆手にとって楽しもうと思えることが・・・。
でもそんなに珪の心の壁をひょいっと越えるのだ。
「あ、ねぇ!!葉月君、見て!いいもの、拾っちゃったー♪ほら★」
どこから見つけてきたのか、まだ使っていない花火のセットとライターを見せる。
「二人だけの花火大会、しよう!ねっ!」
「、お前って奴は・・・。たいした奴だな・・・」
そのバイタリティにいつも圧倒される。
いつも自分はどこか人に流されて今まで生きてきた気がするのに・・・。
自分にはない強さを珪はにひしひしと感じそして、まぶしい・・・。
星空の砂浜。
珪との貸し切り状態だ。
「じゃあ、ネズミ花火、行きます!」
は耳を押さえながら恐る恐るネズミ花火に点火した。しかし何もおこらない。
「ん?」
二人はネズミ花火に顔を近づけた瞬間
パンパンパン・・・!!
「きゃあ!」
突然ネズミ花火、暴発。そしてすぐに消えた。
びっくりしすぎてあっけにとられた二人。
「ぷっ・・・ふははは・・・」
拍子抜けして大声で笑う。
砂浜に二人の声が響いた。
花火がなくなり、再び砂浜は静まりかえる。
「・・・」
「・・・」
その静けさは今、砂浜には本当に誰もいないのだと珪とにはっきりと自覚させる。
太い流木に並んで座り、穏やかな波をみつめる。
二人の呼吸する音が聞こえてきそうな程に静か・・・。
だが鼓動は速まるばかりだ・・・。
「つ、月・・・綺麗だね・・・」
「そ、そうだな・・・」
月がどのくらい輝いているか分からない位に心は高鳴って・・・。
緊張感に絶えかねたのは珪の方だった。
チャプ・・・。
突然、立ち上がりゆっくりと海に入り始めた。
「は、葉月くん・・・?」
どんどん入っていく。
腰の辺りまで水がつかる位の所で止まった珪。
そしてじっと月が出ている方向に体を向けた。
「葉月君、何してるのーー!」
「・・・月光浴・・・」
「月光浴・・・?」
濡れた前髪をかきあげ、目を閉じて月の光を浴びる珪。
Tシャツからすけるその引き締まった胸板さえ月明かりに映えている・・・。
は一瞬見とれてしまった。
「・・・。こいよ・・・。・・・」
細く長い手を伸ばし、珪はを海の中へと誘う。
チャプ・・・。
珪の手を取り、静かに海に入っていく・・・。
潮が月の引力に吸い込まれるように・・・。<
「・・・。な・・・?不思議な・・・気分だろ・・・」
「う、うん・・・」
月を正面に・・・向かい合う二人・・・。
互いに着ていた衣服は濡れ素肌を覗かせる・・・。
はまともに珪を見つめられない。
けれど、珪はを真っ直ぐ、熱い瞳でを見つめる・・・。
体を射抜かれそう・・・。
「・・・。言い忘れてたな・・・」
「え・・・?」
「・・・。その水着・・・。似合ってるって・・・」
「えっ・・・。あ、あ、ありがとう・・・」
胸元に・・・珪の視線を感じる・・・。
水着を誉められている筈なのに・・・。
水着も何もかもすべて透かされ、見られている・・・。
珪の視線で・・・。
頭の芯が熱くなりそうだ・・・。
「・・・」
珪が・・・。
の肩に触れた・・・。
は一瞬、ビクッと肩をさせた。
「・・・。・・・細い肩だな・・・」
は体がカアッと熱くなるのを感じた。
そして葉月はの髪にも触れる・・・。
「・・・。綺麗だ・・・。何もかも・・・。月より・・・。綺麗だ・・・」
珪の言葉一つ一つがに胸が高鳴る・・・。
肩と髪しか触れられていないのに・・・。
全身触れられているよう・・・。
「・・・。だめだ・・・。これ以上は・・・」
珪はパッとから手を離した。
「葉月君・・・」
「これ以上・・・。に触れたら・・・。俺は・・・。自分を抑えられなくなる・・・」
は珪の手をそっと握り珪の胸に顔を寄せた・・・。
「葉月君・・・」
「・・・」
「このままで・・・。月光浴の続き・・・しよう・・・」
「・・・」
珪の両手がを包む・・・。
互いの肌と肌がじかに・・・触れ・・・。
感触が伝わる・・・。
それは・・・。
キスするより熱く・・・。
珪がの耳元で囁く・・・。
「とのキスはまた今度・・・な・・・」
月に照らされ、抱きしめ合う二人・・・。
その明かりは限りなく優しく二人を照らしていたのだった・・・。