熱に乱れて

ニャーン・・・。

雨の中、裏庭の子猫たちの様子を見に来た珪。

見ると、子猫たちの入ったダンボールに見慣れないピンクの傘が差してあった。

「一体・・・誰が・・・」

この子猫たちの事を知っているのは自分以外にはしかいないが・・・。

傘の持ち手にと書いてある。

誰が傘を置いていったのか一目瞭然・・・。

「あいつめ・・・」


傘には・・・。微かにぬくもりが残っていた・・・。


その頃、はずぶ濡れで雨の中を走り、家へとむかっていた。


キーンコーン・・・。

次の日、朝のホームルーム。

はまだ来ていない。

「どうした。は休みか?もうすぐテストだというのに・・・」

珪はチラッとの席を見た

昨日の激しい雨・・・。その中を傘をささずに帰ったとしたら・・・。

「では授業を始める。教科書179Pを開きなさい」

氷室が黒板に字を書き始めたとき、珪が突然立ち上がった。

「先生・・・。悪い・・・。早退します・・・」

「何?葉月、おい・・・」

珪はカバンを持って、そそくさと教室を後にした。

居室内は、珪の行動にぼう然・・・。

氷室は気を取り直し、再び黒板にチョークを走らせる。

「全く・・・。授業を再開する。集中するように」



「ふあ・・・くしょん!!」

かなり豪快なくしゃみがの部屋から聞こえてくる。

両親が共働きなは、風邪をひいても誰も介抱してくれず、おでこの冷やしタオルも自分でとりかえる。

「ふう・・・。今日、尽も休みならなぁ・・・。なんでも頼めるんだけど・・・。ふあっしょん!」

昨日、びしょ濡れで帰ってきた

それでも、珪が可愛がっていた子猫たちが元気なら、いいと思う。 。

特に、自分の名前の子猫が気になっていた・・・。

「ふう・・・」

再びベットに入り、ぼうっとする・・・。

タオルはすぐ熱であたたまり・・・。

(また取りかえなくちゃ・・・。ふう・・・。面倒だな・・・)

天上に貼ってある珪のポスター。

いつも見つめて眠っているが、そのポスターが何だかぼやけて見える・・・。

(葉月君・・・)

そのポスターの中の珪が笑った。

(えッ!?)

。大丈夫か?」

(!!)

はガバッと起きあがる。

真横には心配そうな顔の珪がいた。

「は、葉月くんッ。どっから入ったの!?」

「・・・。玄関・・・。開いてたから・・・。物騒だな・・・。」

「あ、うん・・・」

(黙って入ってきた珪君も物騒だと思うけど・・・)

「これ・・・。コンビニで買ってきた・・・」

珪はよく冷えたスポーツドリンクを手渡す。

「あ、ありがとう・・・。あれ?葉月君、学校・・・どうしたの?」

「早退してきた・・・。・・・。お前の事・・・心配で授業なんか身が入らなかったから・・・」


(・・・)

珪の言葉に思わず、赤く染まった頬が更に赤くなる。

「お前だろ・・・。あの傘・・・」

「え、うん・・・。帰りにようす みに行ったら・・・。雨に濡れて震えてたから・・・」

「・・・。でも濡れたのはの方だろ・・・。風邪までひいて・・・。バカだな・・・。ほら・・・寝てろ・・・」

あったまったタオルを洗面器でしぼり、の額にのせる・・・。

優しい珪・・・。は嬉しくてドキドキする・・・。


「お前・・・。メシちゃんと喰ったか・・・?」

「え?まだだけど・・・。食欲なくて・・・」

「だったら待ってろ・・・。何か作ってやる・・・。台所借りるぞ・・・」

「えっ・・・」

珪は制服を脱ぐと、すたすたと一階の台所へむかった。

「葉月君・・・」

珪が料理を・・・。

何だか意外だなと思いながら、はベットで珪を10分程待つと・・・。

「わあ・・・」

土鍋の蓋をあける・・・。

真っ白なおかゆが湯気をあげた。

「熱いから・・・。きおつけて食え・・・」

「う、うん・・・。じゃあ頂きます・・・」

は一口、食べてみる・・・。

スウッと喉に温かい粥が通っていく。

「・・・。おいしい・・・」

「よかった・・・」

「葉月君、料理上手なんだね」

「・・・誰も飯なんて作ってくれなかったからな・・・」

「え?だって・・・ お母さんとかは?」

珪は一瞬寂しい顔をする。

「・・・。親は・・・二人とも共働きだったからな・・・。一緒に飯喰ったこともない・・・」

は悪いことを聞いた気がした

「ごめんなさい・・・。変なこと言って・・・」

「いや・・・。気にするな・・・」

「でも・・・。葉月君のご両親に感謝だな」

「?」

「だって葉月君を料理上手な男の子に育ててくれたおかげで、こんなに美味しいお粥、食べられたから。うん、おいし★」

バクバクお粥をほおばる

寂しいことを話しても、一瞬のうちに明るくしてしまう。

誰にも見せたくなかった本音が無防備になる。

「・・・。やっぱお前って不思議な奴だな」

「え?何が?」

「いや・・・。何でもない。おい・・・。メシ・・・。ついてんぞ・・・」

パクッ。

珪はの口元のごはん粒とパクッと食べた・・・。

「・・・。の味がする・・・。なんてな・・・」

「・・・。や、やだっ葉月君ってば・・・」

「ほれ・・・。まだ残ってる・・・。喰わせてやる・・・」

スプーンで残りの粥をの口元へ持っていく。

珪に食べさせてもらう・・・。

照れくさくて照れくさくて、珪の顔がまともにみられないが・・・。

やっぱり嬉しい・・・。

珪のファン達に申し訳ないと思いながら・・・。

「?どうした・・・?」

「・・・。なんか・・・。あたしばっかりこんな・・・。葉月君にお世話になっていいのかなって・・・。葉月君を大好きな女の子は大勢いるのに・・・」

「・・・。気にすんな・・・。俺は俺が、そうしたくて今日・・・。来たんだから・・・」

「葉月君・・・」

珪は時計をチラッとみた。

いつのまにか12時を過ぎていた。

「・・・。葉月君・・・。もしかして、今日、何か仕事でも入ってるの・・・?」

「いや・・・」

珪は否定したが、は珪の表情からきっとスケジュールがあるんだと察した。

「葉月君、行って。私なら大丈夫だから」

「けど・・・」

「だいじょーぶだってば!葉月君特製のお粥、食べたら、元気すっごくでたもん!」

は、手をグーにして元気に言った。

・・・」

「ねっ。だから行って!」

「・・・わかった・・・。じゃあ・・・。くれぐれも安静にしてるんだぞ・・・」

「うん!じゃあ、あたし、玄関までおくるね・・・」

は立ち上がろうとしたら、目の前がグラッと揺れた。

!」

は倒れ込み両手で受けとめる珪・・・。


「・・・ごめ・・・ん・・・。葉月君・・・」


の体は熱でかなり熱く、パジャマ越しに珪の手のひらにも伝わる。

「お前・・・。全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか・・・」

珪はを両手でお姫様だっこしてそっとベットに寝かせた・・・。

「葉月くん・・・。しごと・・・。行かなくちゃ・・・」

「仕事なんてどうでもいい・・・。お前が心配で手に付かないさ・・・。お前・・・。こんなに汗かいて・・・」

珪は、洗面器のタオルをしぼってを額の汗をぬぐう・・・。

の息が少し荒い・・・。

「辛そうだな・・・」

プチン・・・。

「はづき・・・くん・・・?」


珪は何を思ったか、突然・・・


のパジャマのボタンを一つ、外した・・・。


「・・・。熱が有るときは・・・。額を冷やすより・・・頸動脈の辺りを冷やすのがいいんだ・・・」


冷えたタオルでを首筋の汗を拭き・・・。

の首の後ろに回す珪・・・。


ひんやりとした冷たさと、珪の大きな手のひらの 温度を感じる・・・。


「・・・きもち・・・いい・・・」


「・・・。・・・」


目の前に・・・優しく見つめる珪の瞳が・・・。


吸い込まれていく・・・。


グリーンがかった瞳に・・・飲まれそう・・・。


「葉月君やっぱりダメ・・・」


あと数pで唇が触れ合う所で、を額の汗をぬぐう・・・。

は珪の口を右手で塞いだ。


「風邪・・・。うつっちゃう・・・」


「・・・かまわない・・・。二人で・・・風邪ひこうぜ・・・」


の手を少し強引にどけ、珪は・・・。


「ん・・・」


唇を塞いだ・・・。


二人のファーストは・・・。


体が溶けそうなくらいに・・・。熱かった・・・。