ありのままで・・・

朝、登校してきたは、下駄箱の前で青ざめた顔をしている。

手に一通の手紙が・・・。

『お前なんか葉月珪にふさわしくない!別れろ!!』


封筒の裏には差出人もなく、ただ、マジックで荒々しく書いてあった。

は、すぐにカバンの中に手紙をしまって教室に走った

実はこんな手紙は、これが初めてではない。


1ヶ月前、珪とデートした次の日から、


“あんた、珪くんのなんなの!?あたし、見たんだから!彼女面しないでよ!!バカ!!”


こんな文面の手紙が下駄箱に入っていた。


自分の下駄箱に入っていたと事はきっと同じ学校の誰かだということはわかるが、差出人が分からないので、抗議しようもできない。


手紙はただ、堪っていくばかりだった・・・。


休み時間、屋上で一人、手紙を重たい気分で眺めている

勿論、こんな嫌がらせには断固負けない・・・と思うが・・・。珪には言えない・・・。

余計な心配かけたくないと思うから・・・。

>「はぁ・・・」

「なーにため息ついてんだ・・・」

「葉月君・・・!」

はあわてて手紙をポケットに隠す。

「どうしたんだ・・・?お前、浮かない顔して・・・」

「え、ううん、何でもない・・・。あ、それより何か用?」

「ああ・・・。今度の日曜日・・・。臨海公園に行かないか・・・?久しぶりにオフとれたんだ・・・」

「・・・う、うん・・・」

久しぶりのデート・・・。嬉しいけれど、また・・・誰かに見られていたら・・・。

「?用事でもあるのか・・・?」

「あ、ううん・・・。そんなことないよ。行く。絶対に行くから・・・」

「なら新はばたき駅前10時な・・・」

「わかった・・・」

デートの約束・・・。

いつもなら嬉しくて、服は何を着ていこうとか考えるのだけれど・・・。

(こんな手紙・・・。気にしちゃだめよね!うん!葉月君に心配かけちゃいけない・・・。元気出さなくちゃ・・・)

ポケットの中の手紙をグシャリと握りしめただった・・・。



そして日曜日。

一足早く珪がばたき駅前で、を待っていた。


「珪君、ごめん、待った・?」

「いーや・・・。を待つの俺、好きだから・・・。お前がどんな服着てくるのか・・・とか 考えたりできるしな・・・」

「葉月君てば・・・。あんまりジロジロ見ないでよ。今日のは殆ど普段着と一緒で・・・」

「可愛いよ・・・。何着ても・・・」

容赦なく、優しい瞳で見つめてくる珪には早くもタジタジ。

「じゃあ、行くぞ・・・。ほら・・・」


珪は手を差し出し、をリードしてくれる・・・。


臨海公園をゆっくり歩く二人。


手を繋いで歩くだけで、胸がドキドキ・・・。


ちょっと強引だけど、でもちゃんと・・・。

自分の歩幅に合わせて歩いてくれている・・・。


葉月君・・・。

そんな葉月の手のぬくもりが周りの恋人達の様に、“あたしは葉月君の側にいてもいいんだ・・・”と思わせてくれる・・・。


『あんたなんか、珪君にふさわしくないくせに!!』


手紙の一文が突然脳裏に浮かび、パッと珪の手を離してしまった

「どうした?・・・」


「う・・・ううん。何でもない・・・」


「・・・変な奴・・・。ちょっとどこかで一休みするか・・・?」

「う、うん・・・」


(・・・。葉月君とデートしてるっていうのに・・・。何考えてるのあたし・・・)


手紙の一行がの心に痛く、響く・・・。


考えてみれば、あのトップモデルでアイドルと噂のある程の珪と自分がこうして肩を並べて歩いている事自体、すごい事に思えてくる。


二人が入った小さな喫茶店。

その店の窓にファッション雑誌の広告のポスターが貼ってあった。


ポスターの珪・・・。

凛々しく、その美しさに誰もが目を惹かれる・・・。

けれど・・・。ポスターの隣に映っている自分は・・・。

ひどく子供っぽく見える・・・。


珪の引き立て役にもならいないと思う・・・。

「・・・。やっぱり・・・。格好いいね・・・」

「・・・。あんま ジロジロ見んな・・・。恥ずかしいだろ・・・」

「ううん・・・。葉月君はやっぱり格好いいよ・・・。スターなんだね・・・」

・・・?」

「あ、ちょっと、お手洗い行ってくるね・・・」

・・・っ」


は逃げるようにトイレに入った・・・。

ジャー・・・。


水道の水を思い切り出す・・・。


“あんたなんか、全然、葉月君にふさわしくない!!”


その言葉をうち消す様には水で顔を洗う・・・。


そして鏡の中の自分を見つめる・・・。


何だか・・・。急に葉月の側にいる自分が小さく思えた。


恥ずかしく思えた。

『葉月が好き』その気持ちに変わりはない。


だけど、珪の側にいるならば、少しでも珪にふさわしくならなければならいんじゃないか・・・。


でも・・・。珪の前では・・・ありのままの自分でいたい・・・。

そう思うだったが・・・。


「・・・。元気出せ!!笑顔を絶やさないこと!頑張るぞ!!オー!!」


と自分に気合いを入れる

その時、2,3人の女が突然トイレに入ってきた。

「何が頑張るぞ!よ。バッカじゃないのこいつ」

茶髪の少し派手な服装の女達。

鋭くを睨み付ける・・・。

「な、何ですか?あなた達・・・」

「ちょっと顔かしなよ。話があるんだよ」

「話・・・?」

「いいから一緒についてきなよ・・・!」

「ちょ・・・」

は3人組に強引に腕を掴まれ、そのままトイレを出て裏口から連れ出されてしまった・・・。


「遅いな・・・。の奴・・・」

心配になった珪はトイレの方に向かう。するとトイレのドアの前にの携帯が落ちているのに気付いた。

・・・!」

に何かあった事を感じた珪。

通りがかった店員を捕まえる。

「すいません!さっきこのトイレに入った女の子・・・見ませんでしたか!?」

「ああ・・・。そうえいば、さっき、そこの裏口から女の子達3人と出ていきましたよ」

「女の子三人!?」

「はい、茶髪の子、3人組・・・」

「ありがとう!じゃあ、これ!」

珪は店員に代金を渡すとすばやく裏口から外へ出ていった・・・。

「・・・。葉月珪によく似てる男の子ね・・・」



は薄暗く人気のないガード下に連れてこられた。

「わっ・・・」

冷たいコンクリートの壁にドンッ!と突き飛ばされる

そして3人の女達はを取り囲む。

「な、何なのよ!!あんた達・・・!」

「手紙で警告したでしょ?何であんたまだ葉月と一緒にいんのよ??」

女の一人がを見下ろすように言った。

「!じゃあ、あの手紙はあんた達が・・・」

「そうよ。あたし達よ。あんたが偉そうに彼女面するからよ。言ったでしょう?あんたなんて葉月にふさわしくないって?なんで分かんないの?」

女の一人がガムをクチャクチャとの頬の横でぷうっと膨らます。を挑発するように。

しかし、も屈するものか!と言い返す。

「ふさわしくないなんてあんた達に言われる筋合いないわ!!手紙で人を脅かす様な小心者のあんた達には・・・!!」

はっきり言い返す、に少し驚く3人。

「生意気言ってンじゃないわよ!葉月はねぇ!!あんた何かと付き合うレベルの男じゃないのよ!!あんたのモンじゃないって言ってンの!!」

「葉月君は葉月君よ!!誰かの『もの』じゃないわ!!」

「どうしても、あたしらの言うことが聞けないっていうのかい?」

「そんな筋合いないっていってんのよ!!」

「このッ・・・生意気なっ・・・!!」

女の一人がポケットから小型のナイフを取り出す・・・。

「・・・。ほら・・・。葉月にもう近づかないっていいなよ・・・?いい子だからさ・・・」

「いやよ!!そんな脅しに誰が負けるもんですかっ!!!」

「この女・・・っ!!」


女の一人がナイフを振り上げた瞬間!!


「女が物騒なもん持ってんじゃねぇよ・・・」


女の腕をグッと掴む珪・・・。

「ぐ・・・」

カラン・・・ッ。

ナイフが地面に落ちた。

「痛ッ・・・」

珪は女の腕を離した・・・。

「葉月君!!」

・・・。大丈夫か・・・?」

をゆっくり起こす珪。

女達は突然の珪の登場にかなり動揺し、驚いている・・・。

そして女達を睨み付ける珪・・・。

「おいお前ら・・・。に妙な手紙送ってたってのは本当か・・・?」

「・・・し、知らないわよッ!」

「ぶざけるなッ!!!!」

ドスの効いた珪の声にビクッとする女達・・・。


「だ・・・だって・・・。その女が悪いのよ・・・。葉月の彼女でもないのに・・・」

「こいつは俺の女だ・・・!たった一人の女だ!」


まっすぐに珪は言った・・・。

「う、嘘よ!!葉月!!こんな女のどこがいいの!?たいして可愛くもないし、どんくさそうだし・・・」

「・・・全部だよ。お前らよりよっぽどいい女なんだよ・・・」

「嫌よ!!絶対に認めないわ・・・!あの女に騙されてるだけなのよ!!葉月、目を覚まして・・・!」

女の一人が珪のシャツにしがみついた。

「・・・。うるせえ・・・。離せ・・・。それと、金輪際、に妙な事しねぇって約束しろ・・・」

鋭く女を睨み付ける珪・・・。

しかし女はニタリと笑って突然、珪の背中を手を回した・・・。

「いいわ・・・。でもそのかわり・・・。キスして」

「何?」

「キスしてくれたらもうあの女には関わらないわ。どう・・・?言い取引でしょ・・・?」

女は色っぽく珪を見つめながら言う・・・。

「葉月君、やめて!!」

の声をどこ吹く風と女は珪に迫るが・・・。


「てめぇ何かとキスするくらいならドブの水飲んだ方がマシだ・・・。」

「なっ・・・」

「はなせって言ってンだよ・・・」

回された手をグッと自分から離す珪。

そして、の前に来た・・・。


「葉月・・・君?」


「おい・・・お前ら・・・。よく見ておけ・・・。俺はな・・・。こいつのキスに惚れてんだよ・・・」


「・・・!」

乱暴に・・・両手で顔を固定され、唇を塞がれた・・・。


「ん・・・ッ・・・」


突然の口づけに・・・。頭が真っ白になる・・・。


(は・・・づき・・・くん・・・っ)


目の前の激しいキスシーンに、女達はぼう然としている。


「・・・。な、な、な、何なのよ・・・ッ!!!葉月珪ファンなんて・・・もうやめてやる!!!」


女達は 、そそくさと逃げるようにその場を去っていった・・・。


残された二人・・・。


珪はそっとの唇から離れた・・・。


・・・」

「葉月・・・くん・・・あ・・・!葉月君、血が・・・!!」

珪の手の甲が切れて血が少し出ていた。

さっき、女のナイフを掴んだとき切れたのだ・・・。

はポシェットからハンカチと取り出し、手に巻いた。

「痛む・・・?もし血が止まらなかったらお医者さんに見てもら・・・きゃっ・・・」

「俺の怪我なんてどうでもいい・・・。お前が無事なら・・・」

「葉月君・・・」

・・・。ごめん・・・。本当にごめんな・・・。俺のせいでつらい思いさせて・・・。ごめんな・・・」

「や・・・やさ謝らないで・・・。珪くんのせいじゃないから・・・」

・・・。俺と一緒にいると・・・。やっぱり・・・辛いか・・・?こんな目に遭わされて・・・」

珪はまるで子供の様に言う・・・。


好きな女が自分のせいで、危険な目に遭ってしまった・・・。


自分の不甲斐なさで一杯になる・・・。

「楽しいよ。あたし・・・」


「え・・・?」


「だって・・・。今だってちょっと恐かったけど・・・。なかなかスリリングで楽しかった!こんな経験、なかなかできないでしょ?だから辛いだなんてちっとも思ってない。あたし、葉月君の側にいたいの・・・!」


は笑顔で言った・・・。


こんな時なのに・・・どうして笑えるのか・・・。


辛いことも、楽しいことに変えてお前は笑うんだ・・・。


そんなお前の笑顔に救われる・・・。


そして愛しくなるんだ・・・。


珪はをギュッと抱きしめた・・・。

・・・。やっぱりお前が好きだ・・・。俺の・・・側にいてくれ・・・」


「葉月君・・・」


「お前が必要なんだ・・・。俺の居場所なんだ・・・。お前しか俺は安らげない・・・。俺・・・。お前を守るから・・・。全身で守ってみせる・・・。だから側にいてくれ・・・。頼む・・・」


珪は・・・子供のようにの胸に顔を埋めて何度もそうつぶやく・・・。


「そばにいる・・・。ずっとずっとそばにいるから・・・ううん・・・。いさせてください・・・。ありのままのあたしで・・・」


母親の様に珪を抱きしめる・・・。


自信がなかった。珪の側にいる自分に自信がなかった。


あの女達より、自信のない自分に負けそうで恐かった・・・。


でも・・・。


気がついた。


ありのままの自分で珪を好きだと言える自分が好きなのだと・・・。


珪に恋している自分が好き。


誰に何を言われても大丈夫・・・。


はそう心で誓った・・・。


そして珪も何があっても、を守ろうと誓う・・・。


ガードの上の線路に電車が通る音響く・・・。


二人はいつまでもいつまでも抱きしめ合っていたのだった・・・。