その指先に恋して

ポロン・・・。

その優しい音色に心惹かれた、

。こんな成績では、到底志望校には合格はしないぞ!」


生徒には厳しくて一目置かれる存在の氷室が、その音色を奏でていたなんて今でもちょっとは信じられない。

そして今、目の前でピアノを弾く氷室が自分の恋人であることも・・・。


「どうした?私の顔に何かついているか?」

「いえ・・・。見とれていただけです・・・」

「・・・バカを言うんじゃない・・・」


夕暮れの音楽室。


鍵をかけ、二人の小さな音楽ホールとなっていた。


ポロン・・・。


照れ顔で、が名前も知らない曲を奏でる。


細長い指が、軽やかに鍵盤の上で踊っている。


見とれる

うっとりしてピアノの音色が終わったのにも気がつかない


。どうした?」

「えっ・・・あ、いえなんでも・・・。先生、あの・・・。この曲・・・。なんて曲ですか?」

「“君に恋している僕が好き”アメリカの古いバンドの曲だ・・・。私は昔からそのバンドが好きで聞いている・・・」


氷室がプライベートな事を話してくれるのがは嬉しい。


自分だけに見せてくれる氷室の内面・・・。


「素敵な曲ですね・・・。あたしも弾けてみたいな・・・」


ポロン・・・。


は一つ鍵盤をおした・・・。


「そんな難しい曲ではない。私が教えよう・・・」


氷室は立ち上がり、を椅子に座らせた。


「いいか、よく見ていなさい。まず、最初は♯のドから・・・」


はドキッとした。


真横に氷室の顔が・・・。


「そして次は♭のミで・・・」


は鍵盤どころではい。


耳にかかる氷室の吐息にポウッとなって・・・。

「ん?。顔が赤いぞ・・・。気分でも悪いのか・・・?」


は首を横に振った。


「そうか。なら、教えたとおりに弾いてみなさい」


「はい・・・」


しかしは、ゆっくりメロディラインを弾く。

しかし、やはり途中でつまづいてしまった。


「す、すみません。先生・・・」

「どうした?」

「・・・。先生が真横にいたから緊張して・・・。・」

「・・・。な、何を言っているんだ・・・」


「ごめんなさい・・・」

しゅんと落ち込むが氷室はたまらなく可愛く感じる・・・。


「仕方がない・・・。どきなさい・・・。私がもう一度手本をみせよう・・・」

は立ち上がり椅子を離れ、また氷室が座る。


しかし何故だか、氷室は椅子に座ったままだ・・・。


「座りなさい」

「え?座るってどこに・・・」


「私の膝に・・・座りなさい・・・」

氷室は顔を真っ赤にしていった。


「あ、あの・・・」


「そ、その方が・・・。私もお、教えやすいし、き、君もわかりやすいだろう・・・」


「は、はい・・・」


氷室の突然の申し出には驚くがでも・・・。嬉しい・・・。


「何をしている・・・。早く・・・。来なさい・・・。

「は・・・はい・・・。じゃあ、し、失礼します・・・」


はスカートを押さえてそっと氷室の膝に座った・・・。


同時に氷室の鼻にの髪がフワッとかかる。


「よ・・・。よろしくお願いします・・・」


「う、うむ・・・」


鍵盤には右手をおく。

氷室の左手も鍵盤に置かれる。


「よく見ていなさい・・・。私は伴奏ラインを弾くから・・・」


「はい・・・」


ポロン・・・。


氷室の左手が・・・。美しい音を奏で始める・・・。


それに合わせ、はメロディ部分を弾く。


二人が奏でる音色が音楽室中に響いて・・・。


鍵盤の上で、二人の指が踊る・・・。


まるで二人は一心同体になったよう・・・。


ポロンッ・・・。


・・・。君だ・・」

の細い指の間に・・。氷室の長い指が重なり・・・交差させられる・・・。


「先生・・・」


「ピアノより何より・・・。に私は・・・夢中だ・・・。・・・。君のすべてに・・・恋をして・・・」


はそのまま・・・後ろから抱きすくめられる・・・。


「君がこんなに華奢だとは知らなかった・・・。・・・」

「せ・・・せん・・・せい・・・」


力が強く抱きしめられる。


首筋のあたりに氷室の吐息がかかって・・・。


「私は・・・。“君のすべてに恋してる”・・・」


そう耳元でなんども囁かれる・・・。


夕暮れの音楽室・・・。


二つの魂が恋を奏でていた・・・。