純情 「おーい!沢田ァ!一緒に帰ろうぜ!」 ドカ!! 学校からの帰宅途中。 背後から久美子のタックルを食らう慎。 「てめぇ!!もっと普通に話しかけられねぇのか!」 「んー?機嫌が悪いな。今日は」 「悪くもなるだろ!普通・・・」 「まーまー。これも生徒に対する”愛情”の印だ。ありがたーく 受け止めろ。沢田。はは」 ポンポンと慎の肩を叩く久美子。 久美子の高笑いに慎は何かを感じた。 「お前こそやけに機嫌がいーじゃねぇか。いいことでもあったのか」 「え?いやー。そんな。いいことだなんてっ!!篠原さんから 食事誘われただなんて聞くなーーー♪♪」 「・・・。即効に白状してんじゃねぇよ(汗)」 おさげ髪をぶんぶんさせて喜ぶ久美子。 (要は誰かに言いたくて俺にぶつかってきやがったのか) 呆れ果てる慎。 「・・・。お前が誰とどこいこーが俺にはかんけねーから。んじゃな」 帰ろうとする慎の後ろ髪をぐいっとひっぱる久美子。 「痛!何しやがる!」 「おい・・・あれ見ろ。沢田」 久美子が指差した方。 電柱の影でなにやら制服を着た男女が濃厚なキスシーンを披露している・・・ 慎君。思わず少し赤面。 「た・・・。他人のラブシーンなんか興味ねぇっての」 「違う。あのカップルを盗み撮りして奴がいる」 「え・・・?」 カップルから50メートル程はなれた道路の脇に止っている赤い軽四。 窓からカメラが・・・ 「人様の愛の営みを盗み撮りなんて不貞野郎だ!」 久美子の正義感はメラメラと燃える。 「あ、コラッ。ヤンクミッ・・・」 荷物を慎にあずけ、久美子は軽四の車へ突進していった。 「おう!!あんちゃん!!高校生の純情を盗み撮りして どこに売ろうってんだ!!」 車に乗り込み男から携帯を取り上げる久美子。 「な、何をするんだ」 「それはこっちの台詞だ。てめぇみてぇなふざけた野郎が いるから世の中狂っちまうんだ」 今とった、カップルの動画を削除する久美子。 「ああ、せっかくいいシーンが撮れたのに・・」 「人様の愛を眺めてねーでてめぇも本気の恋愛しろ!!とっとと消えな!」 勢いよく足蹴りでドアを閉めると男はすたこらとエンジンを慌ててかけて逃げていった。 「・・・ったく・・・。近頃の男は・・・」 「・・・(汗)」 こんどは久美子、カップルに近づいていった。 (説教でもおっぱじめるつもりかよ。ったく・・・) 呆れ顔の慎。 「おい。君達」 ぬっと電信柱の影から顔をだす久美子。 「恋愛は自由だ。だがな。街の中や道路での愛の語らいはただの羞恥でしかないぞ。 もっと大事に恋をしろ」 「な・・・なんだよ。この女っ。どこで何をしようと関係ないだろ。 説教女!」 「関係ある!!恋愛はなぁ・・・そもそも・・・」 久美子のお説教が始まるかとおもいきや・・・ 「お前ら、今盗撮されてたんだぜ」 カラッ。 男から取り上げた携帯をカップルに見せる慎。 カップルは自分達のラブシーンが映った携帯を覗き込み、驚いている。 「俺も説教臭い奴は嫌いだ。だが、自分のしていることに 責任もてねぇ奴はもっと嫌いなんだよ」 「・・・」 慎の言葉に反抗的だったカップルは神妙になる・・・ 「行こうぜ。やんくみ」 「えっ。あ、おい、おい沢田・・・っ」 ポケットに手を突っ込み、クールに立ち去る慎・・・ (くそう・・・。おいしいところを沢田にもっていかれた・・・) と少し久美子は思った。 「・・・。ったくよ。教師のあたしの顔をたてろよ。お前は」 夕暮れの土手を二人は歩く。 「・・・」 ぶすっとした慎。 「おい、聞いてんのか?」 久美子の呼びかけにぴたっと立ち止まる慎。 「・・・ど、どうした。急に」 「・・・。お前はどうなんだよ」 「ん?」 「”自分の恋愛”って奴・・・。大切にしてんのか」 「・・・沢田・・・」 真剣な眼差しを久美子に送る慎・・・ なんともいえぬ緊張感が二人の間に流れる・・・ 「・・・。ん・・・んなことを生徒に話せるか」 「だったらさっきの説教は説得力ないぜ」 「な、何が聞きたいんだ。沢田お前・・・」 「・・・」 慎の問いに必死に答えを探す久美子。 「・・・。大切にしたい・・・。自分の恋は大事にここんところで 育てたいって・・・。素直に思ってる・・・」 胸の手を当てて少し微笑んで久美子は慎に応えた・・・ 「・・・お前こそどうなんだ?恋愛、してるのか?どんな子だ?」 「・・・さぁな。案外近くにいたりして」 「・・・」 沢田はまッすぐに久美子を見つめた・・・ PPP〜! 携帯の着メロ。 「あ・・・!」 久美子はにこにこしながら携帯を見た。 「篠原さんからだ・・・!」 久美子の口から”篠原”という言葉を飛び出すとチクッと 慎の心は疼く。 「・・・。どうした。早く行けよ」 「・・・沢田。お前もいい恋をしろよ。じゃあな!」 慎に大きく手を振って久美子は小躍りしながら走って行った・・・ 久美子の後姿を見送る慎は・・・ 「・・・うっせーよ・・・」 低い声でつぶやく・・・ ”いい恋をしろよ・・・” (お前がそんな台詞がいってるうちは・・・できる訳ねぇだろ) 前髪をくしゃっと掻き毟る・・・ 「ハァ・・・」 ため息。 見上げた橙の空が切ない。 沢田慎 高校三年生。 純情一直線の帰り道だった・・・