背中に咲いた牡丹 弁慶さんは絵がうまい。 時間があれば、巻物に筆を走らせている。 今日も朝から、一人、部屋に篭って何かを書いている。 見せてくれっていったら・・・ 「駄目です。まだ見せられません」 って言って部屋を追い出された。 ・・・。一体どんな絵を描いてるんだろう。 弁慶さんのことだからきっと普通の風景画じゃないんだろうな。 ・・・なんだか余計に見たくなってきた。 私はこっそりと・・・ 障子に小さな穴を指で開けて覗いてみた・・・ ・・・あれ・・・、 誰も居ない・・・。 絵の道具は見えるけど・・・ 「覗き見は感心しないなぁ」 「わ!!!」 振り返ると私を見下ろす弁慶さんが・・・。 「べ、弁慶さんの方こそっ。私に隠れて何こそこそしてるんですか!?」 「こそこそだなんて・・・。僕はただ・・・絵を描いているだけですが?」 弁慶さんは相変わらず余裕綽々。 ちょっと悔しくなってきた。 ・・・たまには反抗しなくっちゃ!! 「じゃあ見せてください!絵・・・」 「ふ。いいですよ・・・?その代わり・・・怒らないと約束してくださいね?」 な、何なのそのまた不適な笑みは・・・。 私は一抹の不安を感じながらも薄暗い部屋に入って・・・ 巻物をそっと広げてみた・・・ 「なっ・・・なんですか!?こ、これは・・・!!!」 出てきたのはなんと・・・ 後ろ向きに座る裸の女の人の絵!! 背中に赤い花なんて描かれて・・ な、なんなの!??これは!! そういう趣味があったの!?? 私は混乱して言葉がでない。 っていうか、この女性はだれ!? 「べっ弁慶さん・・・」 「だから怒らないでくださいね、といったのに」 「怒るに決まってるじゃないですか!!こっこんな絵・・・、 だ、誰なんですか!??」 「・・・私の愛しい人です」 「だからそれは誰だと聞いてるんです!!」 「・・・今、僕の絵を猛烈に怒っている人ですよ。ふふふ・・・」 えっ・・・。 それって・・・ 「・・・。あ、あの・・・」 「いやぁ・・・。貴方の背中があんまり綺麗だから・・・。 花を咲かせたくなりましてね。現実には無理だからこうして絵の中で 咲かせたんです・・・」 さ、咲かせたんですって言われても・・・ べ、弁慶さんのこういう愛情表現って嫌いじゃないけど・・・。 ま、マニアックすぎて時々戸惑う・・・。 でもそういう人を私は好きになったわけで・・・。 「・・・ふふ・・・。本当はね・・・。貴方のそういう戸惑う顔が 見たかった・・・。なんて言ったら怒ります・・・?」 「なっ・・・!ま、またそうやって 人をからかって・・・!」 「貴方の怒った顔が・・・。たまらなく僕に快感を与えてくれるから・・・」 って・・・!! いつのまに私の肩に手を置いてるの。 す、すばやいんだから・・・。 「・・・。ずるいです。そんなの。弁慶さんばっかり・・・」 「・・・そうですか?ならば・・・」 ドサ・・・。 弁慶さんは蒔絵の上に私を押し倒して・・・ 何をするかと思ったら・・・ 筆で私の首筋をこちょこちょとくすぐった 「なっ何するんですか!??」 「なかなかいい心地でしょう・・・?」 「あ、悪趣味な意地悪やめてください!!もうーーー!!!ほんっとに 嫌いになりますよ?」 「ふふふ・・・」 完全に弁慶さんペース・・・。 結局・・・逆らえない。 「はいはい・・・。本当に貴方に嫌われたら僕は・・・。 死ぬより辛いですからね・・・」 「・・・」 謝ってるのに顔は笑ってる・・・ 分かってくるくせに・・・。 私が弁慶さんを嫌うことなんてありえないって・・・ 「・・・なんだか・・・悔しい・・・」 「何が・・・?」 弁慶さんは・・・私の髪をなでる・・・ 「悔しいけど・・・。それ以上に・・・。私は 弁慶さんが・・・好きってこと・・・」 「よかった・・・。僕も好きですよ・・・。絵の中の貴方より 本物の貴方が・・・」 勝ち誇った微笑を浮かべて・・・ 弁慶さんは口付ける・・・ 「・・・僕の腕の中で咲いて・・・。牡丹の花のように・・・」 甘い言葉を囁かれながら・・・ 私の背中に弁慶さんは 赤い花を咲かせていく・・・。 手で 唇で・・・ そして何度も 愛を伝えてくれる・・・ 庭の牡丹の花。 愛しい人との時間を栄養に 赤く美しく・・・。 咲き誇って・・・。 いつまでも いつまでも・・・