恋の策略家
〜ホトトギス〜
彼の言葉は私を惑わせる。 戸惑う私の反応を見て楽しむ。 ・・・それがある意味、弁慶さんの愛情表現でもあるのだけど・・・ そしてきょうもまた・・・ 「望美さん。少し買い物を頼まれてくれませんか?場所はこの地図に」 弁慶さんが私 にそう言って、籠と一枚の絵図をくれた。 「・・・という訳で僕は用を済ませてきます。では」 「えっ」 絵図と籠を一つ置いて、弁慶さんは屋敷を出て行った 私は一人お留守番? ・・・なんだかな・・・。 それに地図をくれた時の弁慶さんの笑みったら・・・ ・・・絶対何か企んでる・・・(汗) でもこれを投げたら、私の負け。しゃくだものね。 「よし!何でも来い!」 私は決意をかためてかごを背負い、裏山へと続く入り口にたった。 絵図ではここがスタートみたいけど・・・ ・・・なにこれ。第一関門『蛇の竹薮』・・・? 蛇ってなに・・・? この中に蛇でもいるってわけ? ・・・。べ、弁慶さん。芸が細かい。 「・・・最初から怯んでられない!」 かなり強引に気合を入れて私は竹薮に入っていく・・・ ・・・中は笹の葉が生い茂って両手で草を掻き分けないと前に進めない。 それにしても・・・。蛇って何のことだろう。 地図には”赤いの蛇を捕まえたし”なんて書いてあった。 ・・・猛毒もった蛇ってことじゃないでしょうね(汗) 私は足元を何度も見下ろしつつ前に進む。暫くすると笹の葉の群生地帯も穏やかになって 歩きやすくなってきた。 「ふー・・・。やっと普通に歩ける・・・。って何これ・・・」 一本の大きく伸びた竹に赤い布が巻かれていた。 ・・・もしかして。これ?”赤い蛇って・・・” シュル・・・ 布を解くと中に何かはいってる・・・ ・・・ん?何コレ・・・。櫛・・・? 赤い色の櫛。どうしてこれが・・・。 「わ、わからん・・・。弁慶さんの意図が・・・(汗)」 ガサガサ・・・! 「わぁああ!!」 笹の葉の擦れる音に私の心臓はバクバク。 ・・・ともかくこの竹薮は早くでよう。 そして第二関門。『水辺の紅貝を探し給え』 ・・・また小難しい。 でも地図に在るとおり、竹薮を出ると細く流れる小川が見えた。 足のくるぶしぐらいの深さ。 「・・・。この中から貝をさがせっていうの?もう〜!!」 私は着物の裾をまくり、膝まで素足を出して河に入った。 「つ、つめたーい・・・」 水は足が凍るかと思うほどつめたくて。 「・・・きっと弁慶さんのことだから。どっかで私のこと、見てるに違いない」 そう。見て私のドジぶりに眉をほそめてるんだ。 「やったろうじゃないの!絶対みつけてやる!」 川底の石をほじくっては埋め。 手足の冷たさに震えいると私の真後ろの少し大きめの石になにかくくりつけてる ことに気づいた。 竹筒だ。 ”水辺の竹って・・・” 「・・・すぐ後ろにあったのね・・・」 中身を確かめると・・・。 貝。それも貝の中に口紅が詰められている。 「・・・これって・・・。口紅よね?ああ。もう本当に分からない・・・」 この地図の意味はなに? 弁慶さんの目的がわからなくて途方にくれる。 「・・・ま。とにかく最後まで頑張るしかない!」 気を取り直して第3関門。 『一番尊い・・・不如帰(ほととぎす)の花を一輪摘まれたし』 って・・・(汗) 「・・・不如帰だらけの野原なんですけど・・・(汗)」 本当に、真っ白い不如帰の花が群生している。 ”一番尊いホトトギス”って意味がわからない。 「あー!もう!ちょっと休憩!」 私は少しやけになり野原に大の字になった。 ・・・ふぅ・・・ 空の雲・・・ ゆっくり流れるなぁ。 「・・・。私がこうしてサボってるのもどっかで見てるのかな」 「・・・ええ。見ていますとも」 (・・・!?) どこからともなく聞こえてきた弁慶さんの声・・・・ わたしは飛び起きて辺りを見回した。 「あ・・・」 少し小高い丘。そこに一本だけ生えている松の木。 それにもたれかかる背中は・・・。 「・・・弁慶さん。そこにいるんですね?」 「ふふふ・・・。望美さんの見事な寝相でしたね」 「・・・もう!弁慶さんたら!笑ってたんでしょう!?私の困った顔見て・・・」 私は松の木まで走ると弁慶さんはなんとお団子を食べていた! 「おいしいですよ。望美さんも一ついかがです?」 「・・・もう・・・。弁慶さんの考えてること、分からない・・・。私は弁慶さんことだからきっと なにか企てがあるって思って頑張ったのに・・・」 力が抜けた。 この人の思考パターンは私には予測がつかない。 「・・・すみませんでした。でも望美さん。最後の関門が残っていますよ?」 「え?」 私は地図を見た。 最終関門。『松の木に舞い降りた白き天女に口付けされたし』 「何ですか。これ・・・」 「・・・白き天女・・・。僕の目の前にいます」 (え・・・っ) ふわ・・・っ 私の目の前に純白の布が舞った。 そしてその布に私は包まれて・・・ 「あ、あの・・・。弁慶さんこれってもしかして・・・」 純白の布。それは紛れも無く鶴の刺繍がされている・・・ ・・・白無垢。 「べ、弁慶さん・・・あの・・・」 「ようこそ。僕の天女様・・・」 弁慶さんはそっと私の手を握った。 そうか・・・やっと弁慶さんのしたいことがわかった。 ・・・要するに弁慶さん流のプロポーズだったんだ・・・。 なんか嬉しいやら苦労したやら・・・(汗) 「あ、あの、弁慶さん。櫛とホトトギスの意味は・・・?」 「櫛は僕の亡き母の遺品です。僕の妻となる人に渡して欲しいと・・・」 「そんな大事なもの、貰ってもいいんですか!?」 「・・・貰ってください。是非・・・」 「大切にします・・・絶対・・・」 私は鼈甲の櫛を胸に当てた。 弁慶さんのお母さんの大切なもの・・・。 「望美さん。紅はもっていますか?」 「え?あ、は、はい」 弁慶さんは私から貝がらを受け取ると・・・ 「目を閉じて・・・」 「え・・・?」 「僕の花嫁には・・・。紅がよく似合う・・・。僕がつけてもよろしいですか・・・?」 「あ、は、はい・・・」 私は目を閉じた・・・。 ・・・な、なんか・・・。キスするより緊張するかも・・・。 (あ・・・) ふわり・・・ 弁慶さんの指が・・・ 唇をなぞってる・・・ ・・・優しく・・・ 「君の唇は・・・とても柔らかいですね・・・そして艶やかだ・・・・・ ・吸い込まれそうに・・・。綺麗です・・・。」 嗚呼・・・。弁慶さんが私に触れてくれる・・・ 頬と胸が熱くなる・・・ 「君のその唇は・・・どんな味がするのでしょうね・・・」 (え・・・っ) 指とは違う感触に 私は思わず目を開けた・・・。 ・・・弁慶さんの優しい瞳がそこに・・・ (・・・弁慶さん・・・) 私も再び目を閉じる・・・ 閉じた瞬間、弁慶さんは私を強く引き寄せ・・・ 「・・・ん・・・っ」 ・・・空気も漏らせないほどに激しい口付けに変わった。 二人で息を分かち合うように・・・ ・・・何も考えられないくらい・・・頭の芯まで熱くなっていく・・・ ただ・・・ 弁慶さんの唇の熱さだけが伝わって・・・ これが本当の弁慶さん・・・ いつも策略ばかりめぐらせているけれど・・・ ホントはこんなに激しい人だったんだ・・・ 私の心は更に熱くなっていく・・・ 「・・・ふ・・・う・・・」 唇を離した後も・・・ 私はぼうっと昇天していた。 「ふふ・・・。すみません・・・。つい君の熱が甘くて・・・興奮しまったようです 理性が飛んでしまいました・・・」 「・・・」 甘い台詞をはくくらいに弁慶さんは余裕。 ・・・ちょっとやっぱりくやしいな。 「・・・望美さん・・・。僕の・・・妻になってくださいますか・・・?」 「・・・はい・・・」 「ありがとう・・・。一生君だけを・・・愛しています・・・」 弁慶さんから初めて・・・ ”愛してる”って聞いた。 初めて・・・ 「・・・望美さん・・・」 「え・・・あ、わ、私・・・っ」 気づくと私の頬からひとすじ・・・流れていた。 「・・・本当に君って人は・・・。僕の予想を超える君を見せてくれますね・・・」 「ご、ごめんなさい・・・」 「・・・そんな君だから僕は・・・君から目が離せない・・・」 ってええ・・・!? 「あ、あの・・・べ、弁慶さん・・・!?」 弁慶さんは私を抱き上げる。 ・・・それもお姫様だっこなんて・・・(照) 「もっと違う君を見てみたいです・・・」 「だ、だからってあの・・・」 「この野原一面のホトトギスは・・・僕から君への愛の証・・・」 ああそうか。 第3関門のホトトギスの意味がやっとわかった・・・。 って・・・弁慶さんってば屋敷まで私をこのままだっこして帰る気・・・!? ・・・降ろして!って言っても降ろしてくれそうにないし・・・ 「あ、あの・・・ホトトギスの花言葉って知っていますか?」 「花言葉?」 「はい。私の世界では花の美しさにあわせて言の葉をつけるんです」 「・・・それで・・・ホトトギスの花言葉はなんというのです・・・?」 そ、それはあの・・・ 私は恥ずかしいから弁慶さんの耳で小声で伝えた・・・ 「ふふ・・・。では今宵の僕たちのことですね」 「え・・・?」 「・・・君は・・・今宵僕のものになる・・・」 弁慶さんの声に・・・ ゾクっとした 「・・・いいですか・・・?」 「・・・」 私は深く・・・頷いた・・・。 「・・・ありがとう・・・。そして僕はあなたのもに・・・なるんだ・・・」 弁慶さんに温もり抱かれ・・・ 私は屋敷に帰った・・・ そしてその夜・・・ 蝋燭の灯りに照らされて・・・ 「・・・弁慶さん・・・」 「望美さん・・・。愛しています・・・君のすべてを・・・」 激しく愛し合う私の髪に・・・ ホトトギスの花びらが・・・ 絡まって・・・ 「君はぼくのもの・・・。僕は君のもの・・・。永遠に・・・」 弁慶さんのささやきいてくれた・・・ 何度も何度も・・・ そう・・・私はあなたのもの・・・ 永遠に・・・