初めてのラブレター 白龍が朝から何やらチラシの白い面になにか必死になって書いている。 「えっと・・・ここをこうはねて・・・」 「白龍なにかいてるのー?」 「わっ。駄目、神子、見ては!!」 望美が覗こうとするとチラシを背中の裏に隠す白龍。 「あー。怪しい。隠し事はなしよ!見せなさい」 「あっ・・・」 望美は無理やり強奪。 チラシのうらには・・・ マジックでちょっと読みにくい文字が沢山書いてあった。 「・・・。白龍、字の練習してたの・・・?」 「・・・。う、うん。そうだよ」 「何が書いてみたいの?ふふ」 「そ、それは・・・、な、内緒だよッ」 白龍は頬を染めて、慌てて寝室へ・・・。 「・・・何よ。もう。そこまでムキになられると・・・」 気になる。 白龍らしくないリアクションだし・・・。 (・・・しばらく様子見るか) 無理強いはしたくない。 「お洗濯物干そうっと」 テラスで洗濯物をパンパンを叩いて洗濯バサミで とめていく。 カチャ・・・。 その姿をドアの隙間からこっそり見つめる白龍・・・。 (えっと・・・。今日の神子は朝からお洗濯を・・・) 絵日記帳。 クレヨンの黒でひらがなを書いている。 「もっと上手にならなくては・・・。ちゃんと」 絵日記帳のはさまれていたのは・・・ 水色の便箋。 「・・・私の気持ちを・・・。形にしたい」 『初めてのラブレター』 最近放送され始めたテレビドラマなのだが、望美がとてもはまっている。 30年間、連れ添った夫婦のお話。 不器用な夫が不慮の事故でなくなり、其の痕、妻へ最初で最後のラブレターが見つかる ・・・という内容が主なあらすじだ。 ”いいなぁ。私ももらってみたい” この一言が、白龍がこの時代の文字を覚えようと したきっかけだった。 「・・・。望美が望むことをしたい。だから・・・。練習練習」 (望美の笑顔が見たいから・・・) チラシの裏に再び練習し始める白龍。 ”これが僕の30年分の貴方への想いです・・・” ドラマの中で夫が心の中で呟く声。 溢れてくる想いを形にできたらどんなにいいか、白龍もいつも感じていた。 白龍は毎日、毎夜、望美が寝静まってから こっそり練習する白龍。 望美はそんな白龍をただ黙って見守っていた・・・。 そんな或る日。 今日は朝から白龍はモデルの仕事でいない。 「・・・仕方ないけどやっぱり寂しいな・・・」 朝、起きたらすぐに ハグしてくれる白龍がいない。 広く静かな部屋が一人きりなことを感じさせる。 (・・・早く帰ってこないかな・・・) ため息をつきながら、洗濯物を干し終えて部屋に入ると・・・。 「ん?」 テーブルの上に水色の便箋が・・・。 (なんだろう) 表には 『のぞみえ』 ひらがなで書かれてある。 「白龍が書いたのね。ふふ・・・」 毎晩練習していたのは 自分へ手紙を書くためだったのか。 手が震えたのか、字が歪んでいる。 でも・・・。 「優しい字・・・」 白龍のこころがにじみ出ている。 カサ・・・。 便箋を広げる。 そこに書かれて在ったのは・・・。 『あなたはぼくのたからものです。たいせつなあなたのもとへ すぐにかえります。あいしているあなたのもとへ・・・』 「白龍・・・」 白龍の手紙を望美はぎゅっと胸にあてた・・・ たった二行だったけれど そこには白龍の想いが沢山つまっている・・・。 姿がなくても ”想い”はそこに・・・。 「うん。白龍・・・。待ってる。貴方の想いと一緒に待ってる・・・。 だから早く帰って来てね・・・」 ”姿はなくても俺たちはずっと一緒だ・・・” ドラマの中の夫が妻への宛てた手紙のフレーズが 浮かんだ。 想いを形にする 形に想いを込めれば、姿はなくてもその人の心は確かに存在する。 望美は何度も何度も読み返した。 便箋が皺になっても 何度も何度も・・・。