風に舞う恋 「望美。今日、風を感じに海に出ないか?」 自分の腕の中で眠る望美そう呟くヒノエ。 海の男らしい 口説き文句で、望美を海原へと誘った。 「気持ちいいー!」 少し小型の漁船。 ヒノエが帆をあげ、風を切って船を操作する。 「すごいねぇ。ヒノエ君、船、自由自在だね」 「ああ。でも一つだけ、自由自在に操れないことがある」 「え?」 ・・・CHU! ヒノエは望美のおでこに軽くキス。 「惚れた女の心には・・・な」 「・・・ったく。相変わらずなんだから・・・」 気障な台詞も 潮風と混ざってさわやかに聞えてくる。 「ヒノエくん」 「何だ?」 「海のどこがすき・・・?」 「そうだな・・・。やっぱりでっかい海原と・・・ 荒波かな」 ヒノエは地平線を遠く見詰めた。 「・・・海の男の人ってかんじだね。ふふ」 「いやいや、オレは望美の”男”だよ」 「んも〜」 海のように懐が深く広く・・・。 その海の底はどんな色をしているのだろう。 望美はもっと知りたいとおもう。 「おいでおいで」 数羽のかもめに えさをやる望美。 「おやおや。かもめも望美の魅力にひきよせられたのかな」 「今日は”ヒノエ節”炸裂ね」 「言わせているのは望美だぞ?」 望美を背中から両手で包むヒノエ・・・。 海の神秘さも心ひきつけられるが 今はそれ以上に惹きつけられる心がそばにある。 「はぁー・・・。なんだか眠くなってきちゃった。 気持ちよすぎて」 「眠っていいぜ?お姫様。オレがちゃんと 介抱してあげるから」 「そう?じゃあちょっとだけ・・・」 「おやすみ。お姫様」 瞳を閉じる望美・・・。 潮の強いにおいさえ和らげてしまう優しい香りに 包まれるヒノエ。 「・・・お前の香は・・・。船の方向も俺も心も 惑わせそうなほど・・・」 ヒノエの心の中の帆は いつだって・・・ 「お前だけを目指して向いているんだぜ・・・? 分かってんのか・・・?」 安心しきった寝顔。 愛らしすぎて 海の男もただの男に変えてしまう。 「・・・おい。お前ら静かにな。俺の愛しい姫は今、 俺の夢をみてるんだ」 船にむらがるかもめに呟くヒノエ。 かもめたちはヒノエの言葉を理解したように 静かに離れた。 「おりこうさん。海の真ん中・・・。悪いが今だけ 俺と望美だけの海にしてくれ」 二人だけの海原。 深い絆で結ばれた二人だけの・・・。 「愛してるぜ、お姫様」 再び望美の額に口付けるヒノエ。 ゆらりゆられ 二人を乗せた船は 暫く 海の 真ん中で揺られていたのだった・・・