涙 ヒノエの涙を望美は一度だけ見た。 ・・・共に闘った仲間へのともらいが終わった後・・・。 舟の先端で一人海を見つめるヒノエの姿を一度だけ見た。 (ヒノエをもっと好きになった涙だから・・・) ヒノエと望美。 木の枝に並んで座り景色を眺めている。 「なんだよ。人の顔、じろじろ見やがって」 「ん?なーんでもなぁい。ヒノエ、大分大人になったなって思って」 「けっ、おれは元々大人だ」 そういうことを自信ありげにいうところが大人じゃない。 「ねぇ。ヒノエ」 「あん??」 「ヒノエの泣きたいときってどんなとき?」 望美はヒノエの目を覗き込むように言った。 「あー?んな時なんてあるわけねぇだろ」 「ふぅーん・・・。じゃ、もし今、あたしがここでいきなりパッと消えちゃっても 泣かない?」 「どーやって消えるんだよ。透明人間になるとでも言うのか。ふん」 ヒノエ、なんとなく機嫌が悪いのか腕を組んでそっぽをむいてしまった。 「・・・。何よ。少しぐらい甘いこと言ってよ。ったく・・・」 相変わらずそっけないヒノエの態度。 甘い言葉はいらないけれど・・・。なんだか寂しい。 「消えられるモンなら消えてみろ。そしたら泣いてやるぜ。へっ」 ヒノエ、逆に望美を挑発。 「何よ!!その言い方・・・大体あんたはね・・・。きゃああ!」 望美は怒った拍子にバランスを崩し、下に落下・・・! その瞬間、ヒノエの視界から望美が消えた・・・ 「望美ーー!!」 ドサ・・・! ヒノエはすんでのところで望美をキャッチ・・・! 「馬鹿野郎!急に落ちる奴があるか!」 「ごめん・・・。でもヒノエがあんまり寂しいことばっかり言うから・・・」 「・・・。悪かったよ・・・。でも本当に消えること・・・ないだろ」 ヒノエは望美をぎゅっと抱きしめる・・・ 「・・・。ヒノエ・・・」 「・・・お前が消えたらオレは・・・きっとオレは・・・。泣くどころか・・・ 動けなくなる・・・そして」 (魂がどっかにいっちまう・・・) 一瞬でも望美が視界から消えると焦る。不安になる・・・。 こんなにヒノエの心は・・・ 望美でいっぱい・・・ 「ヒノエ・・・。ごめん。変な質問しちゃって」 「別に・・・。ただな、急に消えたりだけは・・・するなよな」 望美を抱きしめるヒノエの腕に・・・力が入る 「消えないよ。私がヒノエを好きでいる限り・・・」 「望美・・・」 自分の腕の中のこの微笑が シャボン玉がはじけるように一瞬のうちに消えたら・・・ 「望美。もう少しこのままでいいよな・・・?」 「・・・うん・・・」 どれだけ抱きしめても もしかしたらこの温もりさえ夢なのかと不安にかられる。 抱きしめても抱きしめても・・・ (きっとオレは・・・望美が消えちまったら涙なんてでねぇくらいに・・・ こころがイカレちまう) ヒノエの涙。 望美の笑顔が側にある限り・・・ 哀しい涙にはならないだろう。 きっと・・・ 「望美」 「なあに」 「・・・。好きだからな」 「・・・うん・・・」 哀しい涙にはならない。きっと・・・