花びらが舞う庭で

青い空の下。 景時の家の庭にはためくのは何枚もの白い布。 「・・・いやぁ、爽快な風景だねぇ」 朝食を終えた景時。 桜の花が舞い散る庭。 花びらのなかで望美が洗濯物を干していた。 「景時さん」 「ねぇ。どうしたの。こんなに沢山の布・・・」 「・・・。も、もうすぐ”入用”になるからってお母さんが」 「・・・?入用って・・・これ何?」 望美は少し頬を染めて小声で言った。 「・・・おしめ・・・」 「え・・・?お、おしめって・・・」 (!!) 景時の視線は望美の下腹部に・・・ 「えっ。え。えっ・・・。それって・・・あの・・・」 望美は少し頬を染めて確かに頷いた・・・ 「・・・」 景時は暫し無言のうちに震え・・・ 「あ・・・あの。景時・・・さん・・・?」 「や・・・いぁやっほうーーーーー!!」 「きゃあ・・・!!」 景時は望美を抱き上げる。 青い青い大きな空に。 「嬉しいよ!!なんか嬉しすぎて・・・どうしていいかわからないよ・・・!」 「・・・うん。私も嬉しい。でもあの・・・。とりあえず降ろしてください・・・お腹によくないし・・・」 「あ・・・っ。ごめん・・・!そうだよね!」 景時は慌てて望美を降ろしてそっと静かに 労わるように縁側に座らせた。 「・・・そっか・・・。なんか・・・。実感沸かないけど・・・。そっか・・・。 オレと君の子が・・・。いるんだね」 「はい。居ますよ」 ・・・望美の腹部をそっと 少し手を震わせて撫でる景時。 ここに。 ここに自分の分身が生きて育っているのだと思うと ・・・とても不思議な気持ちになる。 「・・・君とオレが・・・。あの夜に”頑張って”つくった愛が・・・」 「・・・。やだ。なんだかその言い方って・・・(照)」 「あ、もとい。ちょっとやらしかったね。ふふ。二人で育んだ愛がここに・・・」 父親になる。 以前の不甲斐ない自分からは想像がつかない。 でも・・・ 「もっとしっかりしなくちゃな・・・。オレ、まだまだ色々と甘いところあるからさ」 「そんな・・・。景時さんは今のままで充分です。私はそんな・・・。 そんな貴方がすきなのだから」 「・・・望美・・・」 愛しい妻と・・・そして芽生えた新しい命が自分の支え。 「・・・オレも君が好きだ・・・。この世で一番好きだよ・・・・」 そっと望美に口付ける景時。 その景時の右手は・・・ 「そして”お前”もな・・・」 二人の命が宿る望美のお腹を優しく撫でていた・・・。 「・・・ねぇ。景時さん」 「何だい?」 「この桜の木の・・・印は何ですか? 人は庭にある大きな桜の木を見上げている。 木の胴体に、数センチ間隔で墨で線が書いてある。 「ああ。これか・・・。これはね・・・。そうだなぁ。いうなればオレの 成長の証ってとこかな」 「成長の証?」 「そう・・・。オレが元服する前・・・いや子供の頃にこの木に誓ってつけた」 「何を誓ったんですか?」 「・・・弱い自分に負けないように・・・ってね」 景時は懐かしげに木に書かれた墨の線を撫でる。 子供の頃・・・。いつも周囲が暗くならないように 笑顔でいられるように明るく自分を繕っていた。 弱い自分を隠すために・・・ 「誕生日が来るたびに・・・。オレはこの木にこうして印をつけて 誓ったんだ。”強くなりたい・・・”って」 「・・・景時さん・・・」 「でも現実はさ・・・。頼朝様への忠誠と平景時っていう武将って自分を 真っ当することで手一杯だった・・・。本当の自分なんて分からなかったんだ」 心の中に空虚な穴がいつも開いていた。 そんな景時を慰めてくれたのがこの桜の木。 「冬にも咲く桜なんて珍しいから・・・。でも寒さにも負けずこの美しさを 保ってる桜の木を見ていたら・・・。なんだか自分と重なっちゃってねぇ・・・。 特別な木なんだ。オレにとっては」 「・・・そうですね。景時さんは人を笑顔にするのが上手だから・・・。この木 と似てます。人に微笑をくれる・・・」 「そうだろうか。オレは君の方が似てると思うけど・・・な」 景時は望美をそっと引き寄せ、肩にもたれさせた。 「・・・オレに温もりと勇気を与えてくれる・・・。最も美しく・・・清らかな花・・・」 「・・・景時さん・・・褒めすぎです・・・」 「いやいや・・・。本心だよ。心の底から想ってる・・・」 ひらり・・・ 望美の頬に桃色の花びらが舞い落ちた・・・ 「・・・オレが・・・魅了されてやまない花・・・。君という花を・・・ オレは生涯見つめ続けたいよ・・・」 「そんな・・・」 景時は花びらを静かに取り、そのまま手を頬に当てる・・・ 「オレが強くなれるのは・・・。君との至福があるから・・・。 守るべきものがあるからなんだ・・・」 「景時さん・・・」 「・・・桜の木の前で誓うよ・・・。永遠に君を守り愛し続けるって・・・」 「景時さん・・・」 望美の瞼は自然と閉じて・・・ 景時の口付けを受け入れる・・・ 優しい口付け 優しい愛を伝えてくれる・・・ 「・・・二回目だね。口付け、今日は・・・」 「・・・もう。景時さんたら・・・」 「ふふ。あ、そうだ。”お前”にはまだだったな・・・」 景時はしゃがみ、望美のお腹に頬を当てて 軽く口付けをした。 「・・・早く生まれておいで・・・。お前の母君は京を救った龍神の神子なんだ・・・」 「景時さんたら・・・」 「生まれたら沢山話をしよう・・・。お前の母君はとても美しく・・・強くそして 清らかな女性だったと・・・」 まだ見ぬ新しい命。 伝えたい。 この至福の時を・・・ 「早く・・・早く生まれておいで・・・。お前が見るこの世はとても・・・美しいから・・・」 「ええ・・・」 「オレと母君でお前を沢山幸せにしてあげるから・・・」 お腹に優しく呟く景時を 望美は白い手で包む。 新しい幸せを見つけたふたり。 そして新しい命を祝うように 桜の花びらは・・・風にそよそよといつまでも 舞っていた・・・。