恋愛、一本! 其の壱
九郎は最近、近所の剣道場の師範に抜擢された。 「よし!次!」 その剣の腕前はさすが本家武士ということだけあって 生徒達からも信頼されるほどに。 「まだまだぁ!」 九郎も武士の心が生き生きと解放されて 張り切っている。 「いいか?剣道は技術ばかりじゃない精神も鍛えなければ ならん!」 剣道着を着せたまま子供達を正座させる九郎。 子供達は九郎の言うままに目を閉じて精神統一。 「九郎さーーん!」 (な!?) 優しい一声に 九郎の精神統一もいっぺんに解けた。 道場の戸をガラガラっと開けて望美がたずねてきた。 「なっ。の、望美、ど、どうしてここに・・・っ!?」 「え?だってほら、お弁当持っていくよって言ったでしょ」 「だ、だがな、いきなり・・・」 動揺しまくっている九郎を 子供達は じーっと片目を開けて観察(笑) 「わ、私はちょっと急用ができた・・・しっ。しばらく自習していること!! いいな!?瞑想したままだぞッ」 焦りまくる九郎は望美の腕を掴んで道場から連れ出した。 「・・・先生の彼女かな!?」 九郎の武士道も子供達の好奇心には負けてしまったようで。 格子の間から外の二人をやっぱり観察。 「九郎さん・・・。もしかして私・・・。来ちゃまずかった?」 「い、いや・・・。そ、そういうわけではないのだが・・・」 俯いて哀しそうにする望美に 九郎はもっと焦って・・・。 「先生、無茶苦茶ぱにっくってるー」 子供達にはとっても楽しい光景の様でもあります(笑) 「ごめんなさい。帰るね。あ、お弁当は食べてねじゃあ」 九郎にランチボックスを手渡して帰ろうとする望美。 「あ、ちょ、ちょっと待てッ。わッ!!」 ドッターン!! 九郎・・・ 思いっきり地面に顔をぶつけ大の字で倒れる・・・。 だが、望美のお弁当はちゃんと守りきりました。 勿論。 その場面も子供達にばっちり見られてました♪ 「・・・だ、大丈夫!?」 「・・・くそ・・・。こんな俺じゃあ・・・。子供達に武士道など 教えられん・・・」 「そんなことないよ」 「え?」 望美は九郎の手をそっと握って 手のひらの土をやさしく払った。 「私のお弁当守ってくれた・・・。嬉しかった」 「・・・///た、食べ物は粗末には出来ん。まして・・・。 お前の手料理なら・・・」 「・・・そういう優しい気持ち。きっと子供達に伝わってるよ。 ね、九郎さん・・・」 「そ、それならいいのだが・・・」 二人は手を取り合って立ち上がる。 「ヒューヒュー!先生、かっこいーじゃん!」 一人の少年が格子の間から 叫ぶ。 「こ、こらッおまえたちっ」 「わぁあッ」 子供達は慌てて格子をしめて 再び瞑想開始。 「ふふ・・・。九郎さんの教え子達・・・。いい子だよ・・・」 「ああ。まぁちょっとませてはいるがな・・・」 九郎の人をいつくしむ心が きっと子供達にも伝わっているんだ 子供達の笑顔を見て望美はそう感じた。 「あ。そうだ。ねぇ。私、剣道の練習見学して言ってもいい?」 「え」 「ね・・・。九郎さんの雄姿みたいな・・・」 武士道も 惚れた女子の前では 優しいただの男になる。 「・・・いい、よね?」 上目遣いの望美に九郎は断らず・・・ 「う、わ、わかった・・・。だ、だからそんな誘うような目で 見るな・・・。せっ精神統一が乱れるから・・・(照)」 「うふふ。やったね♪」 望美の笑顔に・・・。 確固たる武士魂もふわふわと柔らかく 噛み砕かれてしまう。 (・・・と、ともかくだ!こ、子供達の前では毅然とせねば・・・!) 自分の気持ちを引き締める九郎。 はてさて 武士道魂はどうなりますやら・・・。 それはその弐にて・・・。