恋の手綱さばき モンゴルという未知の土地へ逃げてきて三ヶ月。 望美達は大分この土地の暮らしにも慣れてきた。 「どうどうどう・・・!」 九郎は草原の真ん中で手綱を力強くひく 「望美。うまくなったじゃないか」 「えーそう?」 望美が乗る白馬。 九郎から馬乗りのコツを徹底的に教わった。 「ふふ。九郎さんの教え方が上手だからだよ」 「///い、いや・・・」 頬を染める九郎・・・。 「の、望美・・・。もう少し走るか?」 「うん。でもまだ遠くまで行く自信ないから九郎さんのところに 乗ってもいい?」 上目遣いで望美が聴いてきた。 (・・・そういう目は・・・///) 恋する男。九郎義経。 惚れた女子の仕草ひとつひとつに心が反応する。 望美の手をとり、ひょいっと後ろに乗せる。 「し、しっかりつかまっていろよ」 「うん」 望美が九郎の腰に両手を回して密着・・・ ぎゅっ (・・・ぬッ・・・) 背中に未知なる柔らかさが伝わり九郎の動きが止まった。 「・・・?どうしたの?」 「・・・望美・・・なにか着物の中に入れているのか?」 「え?」 「あ、い、いやぁっ・・・何でもない。い、行くぞっ。 はッ!!」 少しりきんで手綱をひっぱる。 手綱を捌(さば)くのはお手の物でも 自分の恋は想うようにいかぬもの。 (・・・こ、この柔らかさ・・・ど、どうしたらよいものか) 風をきって草原を走る九郎。 だが神経は背中の心地いい柔らさにばかり走ってしまう。 「九郎さん・・・。少し寒いんだ。もう少しくっついていい?」 「えッ」 ぎゅううッ さらに密着して押し付けられるその豊かな感触に・・・ (のわッ)←混乱 ヒヒイインッ! 「わあぁあッ」 手綱を思わずぐいっと引っ張りすぎてバランスを崩した。 「ど、どうっどうッ!!」 バランスを立て直して馬を止まらせる 「九郎さん、大丈夫!?」 「・・・い、いや・・・オレよりお前こそ怪我は・・・」 「うん。大丈夫。でもどうしたの。急に”何”かに 動揺したような・・・」 (・・・。その理由を武士たる俺がいえるか・・・(汗)) 恋する男。 弱い自分は見せたくない。 「・・・望美。悪い。今日はここで一休みするか?」 「うん」 レディーファースト。 恋する男の常識だ。 だが馬から下りるときは女子の手をとらねばならない。 「さ、手を取れ」 望美の白い細い手をそっと握って体を支える。 「・・・なんか・・・、九郎さん。カッコいい」 「・・・!?な、何だ突然に・・・///」 「かっこいいからかっこいいの!ふふっ」 (お、お、女子の発言は・・・。摩訶不思議だ///) 摩訶不思議な笑顔は 恋する男の頬を何度も染めていく。 「座ろうか」 「そうだね」 一面新緑の海。 地平線と空の境がはっきりわかる。 「・・・。広いね・・・」 「ああ・・・」 「源氏の戦が・・・夢に思えてくる・・・」 毎日が戦だった。 屍を踏み捨てて前に進むだけの日々。 それが今は、風の香りを探す時間があるほどに 静かでゆっくりだ・・・。 「・・・だが・・・。お前が隣いることは夢ではない。 ・・・大切な人がいるこの時間は・・・」 「九郎さん・・・」 (・・・だっだからその瞳は・・・///) 愛しいという気持ちはこの温かな感情のことか。 広い草原にその広さなど忘れるほどに 澄んだ瞳に夢中になる・・・。 「・・・。九郎さん。ずっと一緒にいようね」 「も、もも勿論だ」 望美が肩に頬を寄せてくると 長い髪が九郎の鼻にかかる。 (・・・い、いい匂いだ・・・) 草木の清清しい香りより 一層・・・いい香り。 「九郎さんが・・・。生きていてくれてよかった」 「望美・・・」 優しい香りは九郎を少しだけ積極的にする。 グッと肩を抱き寄せる。 (・・・し、自然に体が動く・・・///) もっとくっつきたい もっと近寄りたい 今まで知らなかった感情が次から次にわいてくる。 「望美・・・。もう暫くこのままで・・・いいか?」 「いいよ。好きなだけこうしてて・・・」 (す、好きなだけ!??) 男しての色んな妄想が駆け巡る。 武士としてはあるまじきことだが・・・。 (・・・今だけは武士というものは忘れよう。時間は たっぷりあるのだから・・・) 恋に身を任せてもいいだろう。 そよぐ風の中 二人はずっとずっと肩を寄せ合う・・・。 ずっとずっと・・・。