武士のエプロン 「ふむふむ。塩はこれだけか」 料理本を見ながら煮える鍋に塩をひとつまみ入れる九郎。 最近なにやら、料理に目覚めたようで・・・。 (武士は刀だけが武器ではない。惚れた女子に うまいものを食わせてやりたい・・・それも愛のうち) 望美が体調を崩したことをきっかけに ”男は厨房に入らず”という価値観が九郎から消えた。 (・・・大事な女の心身を労わるのも夫の務め・・・) 風邪気味だと寝込んでいる望美のために 今日は朝から主粥をつくっているのだ。 「どれ。味見を・・・。ぶッ!!」 塩をいれたはずの粥。 何故か甘い。 「・・・。間違えたか・・・」 いれたのは砂糖だったらしい。 (うぬぬ。料理は刀より奥が深い) 九郎は鍋の中の粥を捨てようとした 「待って。九郎さん」 寝室で横になっていた望美がおきて来た。 鍋の中のお粥を少し箸で味見。 「・・・この位のあまさなら・・・大丈夫かも。 かして」 望美はお粥の鍋を再び火にかけた。 「ど、どうするつもりだ・・・?」 「ん?まぁ見てて」 望美はお正月に残っていたおもちを取り出して 粥の中にいれた 「・・・何でも再利用。これでゼンザイ風なおかゆができるよ」 煮た小豆の残りもいれて コトコト煮ること10分。 鍋の蓋をあけるとふわーっと甘いいい香りが・・・ 「すごいな・・・。あの粥からこんなうまそうな粥ができるなんて・・・」 「節約根性です。なんちゃってへへ・・・」 (やはり料理は・・・女の方が上か。だが オレも上達しなければ望美に無理ばかりかけてしまう) 武士たるもの。目指すものができたならばそれに直進あるのみ。 「望美・・・。今日の粥は失敗したが明日は完璧なものを作り上げるぞ」 「いいよ。無理しなくて・・・」 「無理をしたいのだ。だ、大事なお前のために・・・///」 「九郎さん・・・」 ほわん 甘い小豆の香りのせいか 二人の心もほんのり甘く・・・ 「の、望美・・・。申し訳ない。風邪気味のお前に 結局負担をかけてしまった。おわびに何でもするから言ってくれ」 「でも・・・」 「オレの気がすまない。なんでもするから。掃除でも 洗濯でも・・・」 「そうだなぁ。じゃあ・・・」 望美は背伸びして九郎の耳元で囁いた? 「え?」 ”お粥・・・食べさせて” と・・・ 「・・・一回・・・してほしいなって 思ったの・・・。甘えんぼさんかな?」 えへっというようにはにかんで舌をだす望美。 (・・・か、可愛・・・) こんな顔をされては 如何なる武士でも刀を放り投げてなんでもしたくなってしまう。 「・・・///わ、わかった・・・。お前が望むなら・・・」 照れつつ、九郎は白いスプーンで 粥をすくい 「熱いから気をつけろ・・・?」 フーフーと息をかけてさまし、 そっと望美の口元まで運ぶ・・・ 「うんいただきます」 ぱくっとお粥を一口含む・・・ (・・・な、なんだか・・・望美の仕草が余計に・・・) すこし熱そうにハフハフして食べる様も 腰が解けそうなくらいに愛らしく見える・・・。 「・・・オイシ・・・」 上目遣いで言われたら・・・ (・・・ッ///) もうどうにでもなれって感じで愛がわいてきます 「・・・九郎さんのキモチが伝わってくる・・・」 「そ、そうか・・・///」 「もう一口・・・いい?」 また上目遣い・・・ 「う、うむ・・・///」 九郎は二口目を食べさせる・・・ 「おいしいな・・・。好きな人に食べさせてもらって・・・ 幸せ者ね私って・・・」 「こ、この位のことならいくらでもやってやる・・・」 「ありがとう・・・」 好きな女のためなら 武士らしくもないことだって出来る。 「あ・・・望美・・・口元が・・・」 九郎はエプロンの裾で望美の口元をそっと 拭う・・・ 「・・・」 「・・・」 目と目が合ってしまった・・・ もうスイッチは入って・・・ 九郎は望美の頬に手を添えた 「・・・あ、ちょ・・・か・・・風邪うつっちゃう・・・」 望美は顔を背けるが、ぐいっと 自分のほうに九郎が戻した 「・・・うつたっていい・・・。お前と一緒に寝ていられるからな・・・」 「九郎さん・・・」 「また粥を一緒に作ろう・・・。この口づけが終わったら・・・な・・・」 エプロン姿の九郎・・・ 望美のほんのり熱い唇に体の心が温かくなっていく・・・ 唇を離してもそれは続いて・・・。 「・・・九郎さんのキスが・・・。一番おいしいな」 「なッ・・・///な、何をいうかッ(照)」 「うふふ・・・。明日、一緒にハンバーグ作ろう♪ 一緒にお買い物に行って・・・」 「ああ・・・///」 九郎の刀はエプロンに変わり、 九郎の人生の存在意義は、兄への忠義から 愛する女を守り共に生きることに代わった。 (・・・オレは・・・何が在っても望美と一緒に居る・・・。 それがオレの全てだ・・・) そう心に改めて誓う九郎・・・ そして翌日・・・ お揃いのエプロンでキッチンに立つ九郎と望美でありました☆