クッキーと秋の空 「本の虫だな。譲は。この季節。 だがお前は違うようだな」 「♪」 学校の屋上。 望美は嬉しそうにクッキーをほうばる。 「将臣くん。食べてよ。せっかく造ってきたのに」 「甘いものは苦手って言ってんだろ」 「だーから!甘さ控えめでつくってきたんじゃないの。 はい、あーん」 と、望美はクッキーを将臣の口元へ持っていく。 ぷいっと顔を背けてポケットに手を突っ込む。将臣。 「・・・。女って・・・なんでそういうこと 好きなんだろうな」 呆れ顔。 「・・・。男ってどうしてこういうの嫌がるのかな? でも・・・。そういうところが将臣くんらしいんだよね。ふふ」 望美はぱりっとクッキーをふたつに割った。 「はい・・・。はんぶんこ。これならいいでしょ?」 「は・・・。んじゃごちそうになりますか」 ぱくっと一飲み。 「・・・んー・・・」 「どう?」 「・・・。まずく・・・は、ない」 「もう・・・。うまいぐらいって言えないのかな。 でも食べてくれた・・・。ありがと」 望美は笑った。 (本当はいつも全部食べてくれるんだ) おいしいの一言はなくとも 将臣の気持ちは・・・。 「・・・心配すんな。お前がつくったものは みんなオレが食ってやる。ふふ。腹薬用意してな」 「もう・・・!」 つん!と肘で将臣の腹を突付く。 すっと交わす。 ガクランが靡く。 「おいおい。腹薬、もう入用じゃねぇか」 「あら。湿布の間違いじゃない?私、最近 筋力ついたんだから」 軽くジャブをいれてみる。 「ほう。ではお手並み拝見」 将臣はポケットから両手を取り出して、 望美のパンチを受け止める。 「ほらほら。当たらないぞ。どうした」 「当たらないようにしてるんでしょ!もう。悔しい!」 「新人王ねらってみるか。ははは・・・」 「言ったわね!もう!」 バシ! 将臣の右手の平に 望美のパンチがHIT! 「う・・・っ」 「やった!KO!?」 「・・・。んな訳ねぇだろ」 グイ。 (きゃッ・・・) 白い シャツの懐に望美の体がすっぽり収まる。 「・・・お前は一生オレの”神子様”なんだろ?」 「・・・。神子様なんかじゃ・・・」 もうここは 悲しみが漂う世界じゃない。 戦もない。 「そうだな。お前は・・・オレの・・・」 抱きしめる将臣の腕に少し力が篭る。 「・・・。オレの・・・”何”?」 「・・・。オレの・・・」 じっと将臣をみつめる望美。 「オレの・・・。”専属おやつ調達係”か?」 「・・・。もうー・・・。相変わらず気障なこと言ってくれないんだから」 「気障な野郎がすきなのか?ふふ・・・」 望美は静かに微笑んで顔を振って否定した。 「将臣くんだから・・・だよ」 「どうも」 「ったく・・・。でも・・・”専属”ってところだけとっとく・・・。 ”特別”って・・・意味だよね?」 「・・・。勿論」 抱きしめるその手に 望美の長い髪が さらっと流れ落ちる。 (・・・) 心の奥が響く ”ずっと守りたい” 「・・・。菓子よりお前の方がうまそうだ」 「?!?///」 「甘っちょろくてすぐ泣くところがな(笑)」 「んもう〜///」 乙女心を知って知らずか。 秋の空は 少し腹が立つほど晴天で 「おっと。授業始まるぜ」 「えっ。行かなくちゃね!」 いつもの風景に 将臣と望美の姿が消えていく。 屋上。 甘いクッキーの香りを残して 秋の涼しい風が 爽やかに吹いていた・・・。