繋いでいたい手
あの時の激流の中、
アイツの手を
あの優しい手を離してしまった
自分が許せない。
自分より大切な温もりを離してしまった。
そして今、オレは異世界でたった一人で
戦にあけくれている。
・・・本当は戦より
もっと大切なものを探したいのに・・・。
もっと・・・
もっと・・・大切な・・・
※
「望美・・・ッ」
将臣が目を覚ました。
・・・額に汗が滲んでいる。
(・・・夢か・・・)
時の流れの中で望美の手を離し、
源平合戦に身をとおじていた頃の記憶・・・。
流れ着いた時代で活きていく覚悟をしたが・・・
諦めた。
(・・・忘れられるわけ・・・なかった)
愛しい温もりと
手放してしまった後悔。
「・・・。夢じゃねぇだろうな。ここは」
じっと自分の手を見つめる将臣。
起き上がり、窓を開ける。
そこに広がる風景は、自分が生まれ育った時代の空。
ビルと青空。
(帰って・・・きたんだよな)
人を斬り、殺したり、作戦を立てたり・・・。
そんなことが当たり前だった。
(・・・潮の香りが・・・うまい・・・)
柔らかな風と
懐かしい潮の香り。
今は穏やかな
時の流れの中で自分は生きていると実感する・・・。
そして・・・。
「こらー!遅刻だぞー!まっさおみくーーん!」
(・・・望美・・・)
見下ろすと
望美が手を振って笑っている。
(・・・望美・・・)
「なにぼんやりしてるのー?んもうー?
今日、買い物に付き合ってくれるって約束したでしょー!」
懐かしい幼馴染。
いや
今は世界で一番恋しい・・・人。
(太陽より・・・まぶしいな)
笑顔が
・・・自分はここで生きていていいんだと
言ってくれている気がする。
「寝坊したなんていわせないからね!早く仕度してきてよー!」
「悪りぃわりぃ。今行くから」
今日は二人だけの時間を過ごす。
久しぶりに。
将臣はすぐに着替え、
望美とともに商店街をゆっくり歩く。
「ったくもう。寝坊しすぎよ。ゲームのやりすぎ?」
「ったくうっせーな。少しぐらいの遅刻ぎゃーぎゃーいうな」
なんでもない会話に
幸せを感じる。
目の前に高校生が手をつないで
通り過ぎていく。
昔の自分なら
”よくあんないちゃつけるもんだぜ”
なーんて言ったものだが・・・。
(今なら・・・分かる気がする。)
優しい手。
もう絶対に離したくない手。
「?どうしたの?」
「え、いや・・・」
自分を見上げる優しいまなざし。
(・・・これが失ってしまいそうな不安・・・)
離してしまった手が
心が
今は・・・。
(つないでいたい)
「・・・!」
急に右手を握ってきた将臣にびっくりする望美。
「・・・ほ・・本当に今日はどうしたの・・・。
なんか・・・。あった?」
「別に・・・ただ・・・」
将臣は少し照れくさそうに視線を逸らした。
「なんか・・・。手ぇ、つなぐって・・・いいな」
「え?」
「お前と繋がってるみてぇだ」
照れる望美。
「ど、どうしたの?今日はやけになんか・・・」
「オレだってたまには感傷的なこともあるさ。冷血人間とでも
思ってたか?お前」
「そ、そんなことないけど・・・」
「嫌だったら離すけど?迷子になねぇようにってな」
「え、い、いいよ・・・。私もこのままで・・・いい」
望美もそっと握り返す・・・
そして将臣の肩に顔を寄せた。
「迷子にならないように・・・。離さないでね・・・」
「ああ。任せとけ・・・。絶対はなさいから・・・」
照れを忘れ、
今日は
心から
恋人気分。
握り合う手はぎゅっと力が入る・・・。
そして・・・。
互いの温もりを確かめ合うように
ゆっくりと寄り添って歩く二人だった・・・。