オレはアイツに「戦も憎しみもない楽園へ行こう」と言った。
するとアイツは
「楽園か・・・。私にとっては好きな人と一緒ならどこでも楽園だけどな」
なんて応えやがる。
・・・お前らしいよな。ふふ。
でもオレも同じ気持ちだ。
どんなに綺麗な景色でも澄んだ空があってもお前が隣にいなけりゃ楽園でも
なんでもない。
・・・お前がいなけりゃ・・・な・・・。
※
久しぶりに勝浦の浜に二人は立ち寄り
オレと望美は勝浦の町の市に来ていた。
望美は食料を買いに、オレはは農具や木材を見ていた。
ったく女ってやつは買い物が好きな生き物だぜ。
アイツ、きっとまだどっかで値切ってやがるに違いねぇ。
「あ!この大根安い!でもおばさん、傷があるよ、おまけして!」
「えー?お嬢さん商売上手だねぇ。ふふ。可愛いから負けてあげるよ」
「わーい。おじさんありがと!」
思ったとおりだ。望美の奴。
値切りが最近上手くなったな。
「望美。お前。また値切ったのか?」
「将臣くん!」
背中に鍬(くわ)と縄を背中に担いでる。
結構いい品が手に入ったんだ。
「あれまぁ。いい男だねぇ。お嬢さんの旦那かい?」
「え・・・。え、ええまあ・・・(照)」
「初ねぇ。赤くなってるよ。ふふ・・・。旦那、あんたも
幸せモンだねぇ。こんな可愛いお嬢さんめとって・・・」
「・・・(汗)」
おいおい。このおばさんもかなりの商売上手だな。結局・・・
にんじん一本、余計に買ってしまった。
・・・望美はおだてに弱い。
ま、そこも可愛いっちゃ可愛いんだが。
「ったく。損したのか得したのかわかんねぇな」
「ふふ。でも買い物ってたのしーね。私賑やかなの好きだな」
「そうだよな。学校の文化祭となったらやたらお前はりきって・・・」
「・・・うん。譲君と将臣くんがいっつも手伝ってくれたね」
(・・・譲・・・か)
望美の口から時々出る言葉。
時々・・・ガキの頃の話になったりすると望美の口から譲の名前がでる。
・・・望美は知ってんだろうか・・・とふと思う。
・・・譲の気持ちを・・・
「将臣くん?」
「え、あ、どうした?」
「船が来るまでまだ時間あるよね?海・・・眺めていかない?」
「ああ・・・」
”ねぇ。3人で海、見て帰ろうよ”
昔、鎌倉の海をよく学校帰りに3人で見にいった。
3人でだ・・・
(3人で・・・か・・・)
「将臣くん!はい。お団子」
「お、おう・・・」
白い砂浜。
俺達は市でかったお団子をくちにしながら海を眺める。
「おいしーね」
「・・・お前はかわらねぇな。食い意地はってるとこ」
「もう。何よ・・・。将臣くんの記憶の中の私ってそんなのばっかり?」
「まぁな」
望美は少しむすっとした団子をほうばる。
甘いものに目が無い。コンビニいきゃぁ、まぁ甘いもんばっかり
買って・・・。
オレはそれに付き合わされたもんだ。
「ほらほら。ったくお前はー・・・。口元にあんこついてっぞ」
口元についていた粒餡をパクッと食べる。
・・・ん?なんでそこで照れるんだ?
「・・・ああ?何顔赤くしてんだよ」
「ま、将臣くんがいきなり・・・っ」
「くくく。お前、まだ結構子供だな」
「・・・もーーー!!!さっきから人をからかってばっかり!」
望美は波打ち際に行って、オレめがけて海の水をひっかける。
バシャッ!!
「わっ。やめろ!」
バシャン!バシャン!
「ったくだからガキっぽいって言うんだ」
オレも負けじと返す。
「もー・・・。将臣君・・・!!」
ガキの頃にかえったように・・・
少しずつ心が帰っていく。
ここが異世界だってことも忘れて・・・。
ホントに・・・よく3人で遊んだよな・・・
あの頃は・・・
3人いつも一緒にいるのが当たり前で・・・。
「・・・きゃあ!」
バッシャーン!
望美に奴・・・思いっきりしりもちつきやがった。
ったく・・・。
「おい。はしゃぎすぎだぞ。ったく・・・。掴まれ」
オレは望美の細い腕を引っ張りあげた。
あーあ。着物がびしょ濡れだ。
「へへ・・・。何か昔に戻ったみたいで・・・。子供にかえっちゃった」
「・・・」
望美。お前もやっぱり思い出してたのか・・・。
今でも時々不安になる。
オレがこっちの世界に残ったことに、望美もつき合わせてしまったことを・・・
「・・・譲くん。今頃、どうしてるかな・・・」
(・・・!)
・・・最近よく・・・望美の口から譲の名前が出る・・・。
望美。それはただ、ガキの頃のことを思い出しているだけなのか・・・?
それとも・・・。譲のことが・・・
・・・気にかかるのか・・・?
くそ・・・。
なんだ。この・・・
モヤモヤは・・・
「将臣くん?どうかしたの・・・?」
「・・・別に・・・。それより着物、濡れちまったな、ったく。
ほら。オレの、着てろ」
オレは上着を脱ぎ、望美にかけてやった。
「・・・ありがと・・・。前にもこうしてガクラン私にかけてくれたよね・・・」
「・・・」
くそ・・・。
なんか変だ。
わけのわからねぇ苛苛が・・・。溜まってく・・・。
「それで譲くんが」
「・・・さっきからうるせぇな・・・」
「え?」
「ガキの頃の話ばっかりしやがって・・・。お前、やっぱり向こうの世界に帰りたい
んじゃねぇのか?」
「そんなこと・・・」
「・・・譲がいる元の世界がいいんじゃねぇのかよ!?」
・・・畜生・・・。オレ・・・どうしちまったんだ・・・?
らしくねぇこと・・・口走って・・・。
「私、後悔なんてしてないよ!将臣くんとここで生きていくって
決めたもの・・・!」
「・・・。望美。お前・・・。譲の事・・・」
「え・・・?」
ザザン・・・。
波しぶきが・・・大きく打つ・・・。
「・・・。悪い・・・。忘れてくれ・・・」
望美の顔がまともに見られねぇ・・・。
背を向ける。
オレは・・・子供染みたこと・・・
嫉妬したのか。
それとも望美にここに残させた自分自身が許せないのか・・・
頭ン中・・・ぐちゃぐちゃだ・・・
(え・・・)
白い細い手が・・・
後ろからオレの背中を包んだ・・・。
「・・・望美・・・」
「・・・譲君は・・・大切な幼馴染だよ・・・。違う世界で生きていても
幸せを願ってる・・・」
「・・・」
「でも・・・。私の幸せは・・・。将臣君がいるこの世界。
将臣くんが選んだ場所。将臣君がいる所・・・。そこが私にとって”楽園”
なんだよ・・・?」
・・・オレがこの世で一番弱いもの。
それは・・・
望美の涙・・・。
澄んで綺麗で・・・。
まっすぐにオレを見上げるこの瞳・・・。
・・・どうしてお前はそんなに・・・まっすぐなんだ・・・?
「・・・。泣き虫め・・・。赤っ鼻め」
オレはぽろぽろ落ちる涙を拭う。
・・・朝露みてぇに綺麗だ・・・。
「将臣くんが・・・。寂しいことばっかり言うから・・・」
「・・・悪かったよ。なんか・・・。海見てたら感傷的になっちまっただけだ」
「・・・。私の楽園は・・・。将臣君の側だけだからね。
大切な人がいる側が・・・」
「・・・。わかってるよ」
望美を抱きしめる・・・
小さくて細い体なのに・・・。
なんにでもまっすぐ向き合う強さに溢れてる・・・。
この体が心がおれは・・・
愛しい・・・。
「望美・・・。絶対後悔させない・・・。だから・・・。
この先もオレと一緒に生きてくれ・・・」
望美は・・・柔らかく微笑んで頷いてくれた・・・。
「ありがとう・・・。オレの楽園は・・・。お前自身だ・・・」
何事にも前向きで
決して後悔しない・・・。
お前が・・・オレが生きていく場所。
「・・・。好きだぜ・・・」
口付けをしよう・・・。
その柔らかい唇に。
お前という温もりを確かめるために・・・。
・・・波が静かだ・・・。
きっとこれが本当の楽園。
オレとお前が二人。
共に居るということが・・・。