バースディ
・・・女ってのはわからねぇいきモンだと今でも思う。 今朝も、望美の奴がなんだかしらねぇが怒ってやがる。 「将臣くん。今日何の日か・・・覚えてる?」 「あん?」 朝飯中にむくれて。 「何の日だ?あ、望美、お前のおねしょが治った日だっけか。あはは」 バフ!! 座布団投げてきやがって・・・ 何が何だかわからねぇ・・・。 望美の奴が剥れたままオレは、畑の野菜を収穫する。 青い空。静かな海・・・。 戦なんて言葉、忘れちまいそうなほどに静かだ。 (刺激がないともいえるが・・・。そんなのは贅沢者の言い草だ。 穏やかな日常を幸せと思えねぇなんて) 刀や槍。 武器なんて捨てちまって今は何もねぇ。 あるのは自分たちの力だけだ。 「今日はなかなか大量だ」 地元の漁師たちと共に漁を終えて島に戻った。 ”きょうは何の日か忘れちゃったの!??” 望美の言葉をふっと思い出した・・・ 「・・・あ!そうか。アイツの誕生日か・・・」 こっちの世界に来てから、時間の感覚なんて当になくなちまって たんで忘れていたが・・・ (・・・何にもしねぇ訳にはいかねぇよなぁ) とは言ったものの。この世界に望美がすきそうな甘いものケーキなんか ねぇし、女が喜ぶプレゼントなんて・・・ 朝の望美の怒り様を考えると・・・ (・・・ふう。でも手ぶらってわけにはいかねぇな・・・。ん?) 夕暮れの浜辺に 何か光ってやがる。 幾つも・・・ (なんだこりゃ) 波打ち際に散らばるそれを拾ってみれば。 (光る・・・貝か) 漁師仲間から聞いたことがある。 この時期、この浜にはきらきら白く光る貝殻が波に乗ってやってくるって。 (へぇ。いいもん見つけたかな?) 手作りなんてオレの柄じゃねぇけど、ま、アイツなら喜んでくれるだろう。 オレは釣り用の糸を拾った貝に通して首飾りをつくった。 「・・・。ちぃと不恰好か・・・。ま、しょうがねぇ。 今日のところはこれで我慢してらおうか」 大量の魚もあるし。 「ただいま」 帰ると釜戸で望美が火をおこしている。 「・・・。おかえんなさい」 声がまだ、怒ってやがるな・・・。 この首飾りで治るかどうか。 とりあえず、渡してみるか。 オレは望美の後ろから首飾りをさりげなくかけた。 「・・・!?これ・・・」 「誕生日、おめでとう。望美」 「将臣くん・・・」 「忘れてたのは悪かった・・・謝るよ」 望美は暫く俯いたまま・・・ おい。まさか気に入らなかったのか・・・? 「・・・ごめん・・・」 なっ。なんで泣いてんだよ 「誕生日忘れてたくらい・・・で不機嫌になってた自分が 情けなくて・・・」 「望美・・・」 「・・・私の方こそごめんなさい・・・」 ったく・・・女ってのは本当にわからねぇ生き物だ。 怒ったり泣いたり・・・ でもそんなコイツが・・・可愛いなんて思っちまうのは・・・ 惚れた弱みってやつか。 「泣いてんじゃねぇよ。せっかくの誕生日なんだろ? ふふ」 「将臣くん・・・」 惚れた女をこうして抱きしめられる今。 「お前の誕生日はオレにとっても大事な日だ。 惚れた女が・・・生まれた日だからな・・・」 「将臣くん・・・」 望美を抱き寄せ・・・ 口付ける・・・ これがオレからのバースディプレゼント、なんていったら お前は気障っていうかもな・・・ でも・・・。この言葉に嘘偽りはねぇ。 「誕生日おめでとう・・・。愛してるぜ・・・」 「うん・・・ありがとう・・・」 来年も再来年も 何度だって言ってやる・・・ 愛するお前が生まれた・・・大切な日だからな・・・。