懐中時計
久しぶりにオレと望美は小船で海に出た。 言うならば船上デートってやつか。 毎日、同じことの繰り返しで望美がつまらなそうな顔をしていたから。 っていっても。 舟を出して・・・。海の真ん中につれて来ただけなんだがな。 「はー。爽快!海っていーねー」 望美は大の字になって寝転がってやがる。 爽快なのはどっちだろうな。 「時間が止まったみたいだねー・・・」 「そうだな」 「空は青いし、海も青いし・・・。見えるのはそれだけ」 「オレにはお前の眠たそうな顔のほうがみえるぞ」 「もう!情緒が無いこといわないでよ」 ふふ。望美が膨れた、膨れた。 望美の怒った顔が好き・・・なんつったらなおさら怒って膨れるかな。 「・・・あ。とまったといえば・・・」 望美が懐から取り出しのは、オレがくれてやった懐中時計。 「壊れちゃったのかな。昨日から動いてなくて・・・」 「・・・どれ見せてみろ」 古い懐中時計。 オレが直せるかわからんがとりあえずいじくってみる。 「・・・。分解すっか」 「ダメ!それだけは!」 望美が懐中時計を取り上げた。 「止まっててもいいから・・・。このまま持っていたい」 「機械だ。いつかは壊れる」 「いいの。懐中時計は止まってもね・・・。好きな人からもらった 大切な物には変わりない・・・」 ・・・ったく。 なんて顔しやがる。 頬を染めて大事そうに懐中時計を握り締めて・・・ 思わず押し倒したくなるだろ。 「わかったよ。でも望美。俺たちの時間は止まってないぜ?」 「え?」 オレは望美の腕を引き寄せ、両手で背中から抱きしめた。 望美、お前が可愛い顔すっからだぞ? 「俺たちが共に生きて過ごすこの時間は・・・ちゃんと 動いてる」 「うん・・・」 「永遠なんてないんだ」 オレのその言葉がいけなかったらしい。 望美は目を潤ませやがった。 「なっ。なに泣いてんだ」 「・・・あ、ごめん・・・。な、なんか、二人で居る時間が 限られてるって思ったら・・・急に・・・」 女ってのは本当に感傷的な生き物だ。 そして男はその涙にいかれちまう。 「馬鹿野郎・・・。切ないこと言うな」 「うん・・・」 さらに望美を強く抱きしめる。 この海の静けさが切なさを倍増させちまうらしい。 「・・・限りある時間だからこそ・・・。その一瞬が 大事なんだろ・・・」 「うん・・・そだね・・・」 望美の吐息を吐くような声に オレの何かが動いちまう。 「・・・ン・・・」 可愛い小さな耳に オレは軽く口付ける・・・ 「ちょ・・・。こ、こんなところで・・・」 「こんなところで・・・って・・・。お前、今、何想像した?」 「・・・!」 ふふ。今度は真っ赤なになったぜ。 もっと赤く染まらせてやろうか。カニみてぇに(笑) 「・・・っ。だからやめ・・・」 弱い首筋に少し刺激が強いキス・・・ 望美の長い髪が前に垂れる。 「・・・もう!将臣くん!」 「ハハハ!言っただろ?この一瞬を楽しもうぜってな」 「た、楽しむって・・・こういう意味じゃないでしょ!」 手足をばたつかせて怒る望美を力ずくで オレの胸に押し込める。 「・・・。意地悪・・・」 「・・・。お前と一緒にいる時間を オレは愛す・・・。この時代でな・・・」 「うん・・・」 コチ、コチ・・・ 「・・・ん?」 望美の胸元から妙な音が・・・ 取り出してみると止まっていたはずの懐中時計の針が動いていた・・・ 「ふふ・・・。私と将臣くんの気持ちが・・・時計にも伝わったのかな」 「・・・そうかもな。そう思いたいな」 「うん・・・」 センチな思考がオレにも移っちまったらしい。 でも・・・ オレが惚れた女に送った時計が動き出した・・・ なんだか嬉しい。 「望美」 「ん?」 「好きだぜ・・・」 ギシ・・・ッ。 小さな小船が揺れる。 キスするにはちょっと狭いけど 俺たちは唇から伝え合う。 今しかできない 今感じる想いを 望美に伝える・・・ 懐中時計の秒針のようにゆっくりと・・・