朝陽に染まった懐中時計 コチコチコチ・・・。 (やっぱり・・・また動かなくなった・・・) 将臣からもらった懐中時計。 望美はいつも肌身離さずもっている。 ・・・将臣と同じ時間を過ごしている気になれのに昨日から 動かない・・・。 (それにしても遅いな将臣君) 朝から漁に出てから戻らない。 もう夕暮れどきなのに・・・ ドンドンドン!! 屋敷の激しく叩く。 嫌な予感がよぎった望美。 戸をあけると漁師仲間がびしょ濡れでたっていた。 「将臣の旦那が・・・」 漁師仲間は将臣の乗った船が 転覆したと伝えた。 「将臣くん!!!」 「あ、奥方さまっ!!」 望美は素足で雨の中を飛び出した・・・。 (嘘・・・!嘘・・・っ) ”待ってろ。今日はでっかい大物狙ってくるから” 笑顔でそう出て行ったのに (将臣くん!将臣くんっ・・・!) バシャバシャッ。 雨で濡れて重くなった砂浜を走る。 (あ・・・) 波打ち際に・・・ 将臣の船が・・・ 打ち上げられ・・・。 「将臣くんッ!!何処っ!??」 望美はあたりを何度美見渡す。 だが・・・ 何処にも居ない 姿が見えない・・・。 「将臣くん!!将臣くんッーーーー!!!!」 荒波に望美は叫んだ。 「将臣くん!!!戻ってきて!!!帰ってきてーーーーッ!!!」 望美の声を打ち消すほど 波は高く 荒く・・・。 「・・・あ、奥方だめだッ!!!」 バシャッ (お願い・・・。お願い・・・戻ってきて・・・) 望美は海へそっと入ろうと・・・ 「離して!!お願い、離してッ!!!」 だが将臣の漁師仲間に止められる・・・。 「お願いだからいかせてッ!!!お願いだから・・・」 ”望美・・・” 今朝聞いた声が まだ耳に残ってるのに・・・。 コチコチ・・・。 手には 懐中時計は・・・動かない (お願い・・・。将臣君を守って・・・お願い・・・) 「・・・荒波が収まるまで・・・助けにはいけない・・・」 漁師仲間が悔しそうに言う・・・。 「・・・将臣くん・・・。お願い・・・。生きていて・・・」 懐中時計を握り締めて・・・ 望美は雨が止むまで 朝陽が登るまで祈った・・・。 「・・・。望美・・・?何やってんだそんなとこで・・・」 「!!」 魚を担いだ将臣が きょとんとした顔で立っている・・・。 「・・・旦那!??無事だったんすか!??」 「ああ。船が沈む前にな、他の仲間の船に乗せてもらったんだ。 で・・・。お前らこそこんなとこで・・・」 「将臣くんッ!!!」 「わっ」 将臣に飛びつく望美・・・。 「将臣くん・・・よかった・・・。よかった・・・!」 「・・・?」 首を傾げる将臣に漁師仲間がそっと望美が夜通し雨の中 待っていたことを耳打ちした。 「・・・。望美・・・。すまねぇ・・・。心配かけちまったな・・・」 「いいの・・・。生きててくれただけで・・・」 波打ち際・・・。 しっかりと抱き合う二人を残し 漁師仲間はそっと立ち去った・・・。 暫く・・・ 抱きしめあう二人・・・。 「望美・・・?なんか・・・こちこちいってるぜ・・・?」 「あ・・・」 ずっと握り締めていた懐中時計・・・。 「・・・将臣君を絶対に助けてって・・・。願ったの・・・。 だから・・・また・・・。動き出してくれたのかな・・・」 「かもな・・・」 朝陽が 懐中時計の金色を照らす・・・。 「望美・・・。ありがとうな・・・俺のために・・・」 「ううん・・・。生きててくれるだけで・・・」 「望美・・・」 朝陽を浴びながら 互いの唇の温もりを確かめ合った・・・ 二人の同じときも動き出して・・・。 懐中時計はずっと 輝いていた・・・