湯上りの望美。 ほんのり頬が赤く体から湯気がまだ上がって・・・ 「いい気持ちだった・・・ふう・・・」 湯殿から部屋へいく渡り廊下・・・。霧が立ち込めていた・・・。 松の木と椿が咲く庭がしっとり濡れていた。 「・・・ん?」 白い霧の中に人影が見える。 「リズ・・・先生?」 鋭い眼光で刀を構えているリズヴァーン・・・。 「・・・お前か・・・」 リズヴァーンは静かに刀を降ろした。 「先生。夜に訓練ですか・・・?」 「・・・静寂は心身を冴え渡らせる・・・」 「・・・霧を・・・。斬るんですか・・・?」 「間合いを体で覚える・・・」 ザン・・・ッ!!! 横切った刀の刃は白い霧を一瞬、真っ二つに 切れた。 「凄い・・・。クシュンッ」 (え・・・) リズヴァーンは自分のマントをそっと望美に羽織らせた・・・ 「・・・。湯冷めをする・・・」 「あ、有り難う御座います・・・」 羽織らされたマント・・・ その仕草が優しかったから少し・・・望美の胸が高鳴る。 「・・・。先生は・・・。本当に強いですよね・・・」 「・・・。真の強さというのは・・・。敵を倒す力だけとは限らん・・・」 「慎の強さ・・・」 リズヴァーンは雲が掛かる三日月を見上げた。 「そう・・・。無力な子供がいるとしよう・・・。恐怖と不安で震えるその幼子を 優しい言葉と温もりで励まし勇気付ける・・・」 蒼い瞳はやけに切なく哀しそうに・・・ 望美には映って・・・ 「その子供はその女性(ヒト)の温もりを強く生きる力に代えて・・・」 (先生・・・。先生・・・。どうしてそんな・・・哀しそうなの・・・?) 「・・・神子・・・。お前にもそういう強さを・・・。身につけて欲しい・・・」 望美のコメカミから・・・ほつれ髪を そっと耳にかける・・・ 「先生・・・。先生はどうしてそんなに哀しそうなの・・・?」 「・・・。神子・・・。私は・・・」 望美の言葉に一層・・・ リズヴァーンの瞳には悲壮な想いが浮ぶ・・・ 「先生・・・」 「・・・。神子・・・」 尋ねる望美から目を逸らし背を向ける・・・ 「先生・・・。応えてくださいませんか・・・?」 「応えられない」 「先生・・・の心が知りたいんです」 「・・・応えられない」 「・・・先生・・・」 大きく広い背中は・・・ どっしり重く・・・ 口を閉ざす・・・。 「解りました・・・。じゃあ・・・。せめて先生の側に・・・。側にいさせて ください・・・」 「・・・構わない・・・」 二人の胸に込み上げるのは 刹那。 この静かで深い霧のように・・・ 「手が・・・冷たい・・・。冷たいです・・・」 切なさに絶えかねた望美の心は無意識に リズヴァーンの手を求めた。 「・・・」 大きなリズヴァーンの手は しっかりと握り返してきた・・・。 (先生・・・) リズヴァーンの哀しみが一体何なのか・・・ 解らないけど 握り返された手の優しさだけは 分かる・・・。 (いつか・・・。先生の哀しみを私も・・・背負えたら・・・) いつのまにか 二人を包んでいた白い霧が晴れ 三日月が二人を優しく照らしていた・・・。